▲ブリッジインターナショナル株式会社 吉田 融正社長
▲ブリッジインターナショナル株式会社 吉田 融正社長

【Profile】
「ブリッジインターナショナル株式会社」
法人営業の問題を解決するための手法『インサイドセールス』を提供するBtoBサービス企業として2002年に設立。12年連続で業界シェアNo.1を達成した法人営業支援のリーディングカンパニー。一人の法人営業がすべてのプロセスを担当する日本の従来型営業モデルから、訪問営業と非対面で行える見込み客の発掘・醸成、訪問後の関係強化を分業するモデルへの変革を進める。マーケティングオートメーション(MA)のアウトソーシングやコンサルティングも行う。沼津市の他にも松山市・徳島市・福岡市・大阪市・横浜市など各地に地方拠点を持つ。

・東京本社
【所在地】〒154-0004
東京都世田谷区太子堂4-1-1 キャロットタワー19階
・沼津サテライトオフィス
【所在地】〒410-0804
静岡県沼津市西条町161 カーニープレイス沼津 5階

「代表取締役社長 吉田 融正(よしだ みちまさ)さん」

東京理科大学経営工学科卒業後、日本アイ・ビー・エム株式会社に入社。営業部長や副社長補佐を務め、米国本社に2年間出向。帰国後は米国シーベル・システムズに入社し、日本法人を立ち上げ取締役営業本部長に就任。インサイドセールスの手法を日本に持ち込む。2002年ブリッジインターナショナル設立以後、法人営業支援により日本企業の国際的競争力を世界基準に引き上げるべく精力的に活躍。地方都市での拠点設置の優位性に着目し、サテライトオフィス拡大に取り組む。

著書『デジタルインサイドセールス――最新テクノロジーによる法人営業改革の実践』
  『ハイブリッドセールス戦略―法人営業部隊の刷新』

【ブリッジインターナショナル株式会社 https://bridge-g.com/】

IT×地元産業の可能性を信じて企業誘致を進める沼津市

▲駿河湾奥に位置し、富士を背にする沼津市遠景。豊かな自然のもたらす農水産業と商工業が融和する
▲駿河湾奥に位置し、富士を背にする沼津市遠景。豊かな自然のもたらす農水産業と商工業が融和する

吉田社長がサテライトオフィス設置を決めた沼津(ぬまづ)市とは、どんなところなのでしょうか。まずは沼津市産業戦略推進室の副主任・菊地貴優(きくち よしひろ)さんにお話を伺います。


――静岡県東部の中心である沼津市はどんな地域ですか?

菊地さん:沼津市は古くから東海道の交通の要衝として栄えてきました。温暖で豊かな自然環境に囲まれており、温州(うんしゅう)みかん・お茶に代表される農業、水産業が盛んです。また、観光地としても人気があり、静岡県有数の観光スポットである沼津港には平成30年度に165万人余りが訪れるとともに、JR沼津駅周辺を中心に静岡県東部地域随一の商店街が形成されており、商業・サービス業の集積地として賑わいを見せています。加えて、電気機械などの工場も多数立地しており、ものづくりのまちとしての一面も併せ持っています。


――その自然豊かで、産業のバランスもとれた沼津市の課題はどんなところですか?

菊地さん:IT技術と地元産業のマッチングです。沼津市の産業はそれぞれ特徴的で豊かなのですが、現代の新しいIT技術と手持ちのリソースを結びつけるという意識を持てていない現状があります。

水産業や農林業が生み出す地元産の特産品は良質なもの揃いです。これらを例えば最新のIT技術で数値化し、ブランディングに使用するなどの取り組みを行えば、その良さをよりアピールできると思っています。製造業も各社素晴らしい技術を持ちながら、その技術や直面する課題を外に開いていくことができていません。地域の特長を生かした新たなビジネスの創出により、沼津市でしか生み出せない価値が付加されたサービスや製品などを創出していきたいと考えています。


――市として現在注力しているところはありますか?

菊地さん:こうした地元の企業の課題解決のため、沼津市ではロボット技術やIT技術を活用したテクノロジーの進展に力を入れており、沼津工業高等専門学校などの、若手の人材が育つ環境作りも行っています。

一方で、沼津市が今後も持続していく為の課題として、高齢化や労働力不足、経済需要の鈍化への対策があります。

そのため、ロボット技術・IT技術の進展をベースとした人材が育つ環境を活かして、ベンチャー企業やサテライトオフィスの誘致に力を入れ、雇用や事業の創出の循環を生んでいきたいと考えていますので、そういった企業にぜひお力を貸して欲しいです。


――サテライトオフィスはいくつ開設されていますか?

菊地さん:おかげさまで、既に5社(令和3年7月時点)になりました。いずれもIT・通信業の企業で、内訳は東京都に本社のある企業が2社、愛知県に本社のある企業が1社、静岡県内に本社のある企業が2社となっています。


【その他沼津市にサテライトオフィスを開設した企業の記事はコチラ】
株式会社REVOLEA
セブンセンスマーケティング株式会社
株式会社casaliz

【沼津市の紹介ページはこちら】

ブリッジインターナショナル(株)はなぜサテライトオフィスを沼津市に開設したのか

▲ブリッジインターナショナル(株)のサテライトオフィス内観
▲ブリッジインターナショナル(株)のサテライトオフィス内観

ここからは、沼津市にサテライトオフィスを開設した5社のうちの1社であるブリッジインターナショナル株式会社の吉田社長に開設の理由を伺います。


――どうして吉田社長は多数のサテライトオフィスを地方に開設されているのですか?

吉田さん:私たちはインサイドセールスという新しい営業手法を軸に、法人の営業改革を支援する会社です。クライアントの企業名で電話・メール・SNSなどを駆使し顧客の発掘や案件の醸成活動を行い、その中で集められた情報をクライアントの営業部門に引継ぎます。その後、顧客への訪問・提案をクライアント側で行い、その先の関係構築は我が社が担うというプロセス分業体制で、クライアント企業の生産性を向上させています。

私たちの業務はすべてリモートなので都市部に対する営業活動が地方のどこからでもできるんです。だからこそ、基本戦略として地方へサテライトオフィス開設を進めています。


――地方の大都市ではない場所に展開するのはなぜですか?

吉田さん:優秀な人材の確保のためです。私たちの顧客の9割が大手企業です。誰もが知っているようなグローバル企業のパートナーとなり、その法人顧客と長い時間をかけた丁寧な関係構築を行います。そのため、人好きな性格でロジカルな思考の素養を持った方を採用したい。けれど、東京はもちろん、地方でも札幌・仙台などの大都市には大手競合企業が多く、その確保が難しい状況です。

そのため、地方都市に小さなサテライトオフィスを設けて、その土地の優秀な人材を少しずつ採用して全体でチーム編成するという戦略をとっています。


――優秀な人材は地方にもいるんですね!

吉田さん:むしろ地方だからこそなんですよ。特に沼津・松山・徳島は、地元に対しての愛着が高い地域です。我々の扱う商材は最先端の技術と市場理解が必要で、それをリモート研修などを通して身につけていきます。専門性の高い教育を受けながら、東京と変わらないIT業務に就くことへ意欲がある方で、かつ地元愛が強い方というのは、非常に優秀な傾向があります。


――なるほど、それが沼津市を選んだ理由なんですね。

吉田さん:沼津市を選んだ理由はもう1つあります。それは、沼津市を障がい者雇用モデルの拠点にしたかったからです。沼津市にはアイエスエフネットという会社があり、この会社の渡邉社長は障がい者雇用に大変力を入れておられます。サポートの仕組みやインフラも沢山お持ちなので、こちらと協力することで障害者であっても安心して活躍できる環境がつくれると考えました。

また、こうして採用したメンバーに緊急でサポートが必要な場合、マネージャーが直行できる都心からのアクセスの良さも大きな要因です。マネージャーが地方拠点にいなくても、東京から急行できるというのは教育面でも大きなメリットです。


――障がい者雇用に力を注ぐ意図はどんな所にありますか?

吉田さん:個人の意欲・能力を存分に活かせる仕事ができる場をつくっていきたいんです。私たちは直接訪問することなく仕事ができますから、障がいを抱えた方であっても、人とコミュニケーションを取るのが好きな方であれば、全く同じ仕事ができます。

また、通常、大手の法人営業に携わるには、東京・大阪に居なければ難しいですが、インサイドセールスのようなプロセス分業システムならば、地方からでも十分携わることが可能です。仕事を通じて個人が成長する機会を、障がいをお持ちの方にも提供できると考えています。

サテライトオフィスでは東京と全く同じ仕事ができる

▲サテライトオフィスでの仕事風景
▲サテライトオフィスでの仕事風景

――沼津サテライトオフィスの設置まではどのように進みましたか?

吉田さん:実は、沼津市の発展に尽力された大沼元市長とは日本アイ・ビー・エム時代の知人だったんですよ。縁は重なるもので、アイエスエフネットの渡邉社長も沼津市のご出身だったんですよね。そこで渡邉社長に橋渡しをしてもらい、市長にアプローチする運びとなりました。市からは補助金の制度も新設頂くなど手厚いご支援を頂き、本当に助かりました。


――本社とサテライトオフィスで担う業務に違いはありますか?

吉田さん:本社と沼津でやっている仕事には1ミリの違いもありませんね。全く同じ仕事ができています。


――本社と地方拠点の仕事に全く違いが無いのですか!?

吉田さん:はい。1つの法人企業に対して各拠点のメンバーでチームを組んで仕事を進めており、地方拠点のマネージャーの下で本社のメンバーが仕事をすることもあります。例えば、現在受注している某グローバル企業の難しい案件では、沼津のメンバーが中心となり、福岡のマネージャーに東京、松山のメンバーを加えてチームを組んで進めています。


――沼津のメンバーはどのような方なんですか?

吉田さん:地元、沼津出身のメンバーのみならず、東京から沼津へ移住された方で、ITや法人営業出身ではなく、アパレル販売出身のメンバーもいます。「お客様の意向を伺って提案するのが好き」という点が我が社とマッチして採用しました。個人のお客様への営業経験が法人顧客にも存分に活きており、顧客からもピカイチの評価を得ています。


――沼津で東京の経験に磨きがかけられるんですね!他のメンバーは皆、沼津市出身なんですか?

吉田さん:もう1名、東京から来たメンバーがおり、障がい者雇用の3名を含む4名が沼津市出身です。計6名体制で、みんな本社と全く変わらない仕事をしてくれています。


○ブリッジインターナショナル株式会社が受けたサポートはこちら

(1)沼津市ITオフィス等進出事業費補助金

自分のやりたい仕事を自分の好きな土地でできる幸せ

▲自分の好きな土地でプライベートを楽しむ優太さん
▲自分の好きな土地でプライベートを楽しむ優太さん

吉田さん:その東京から来たもう1名のメンバーである優太さんが、一緒に来てくれています。当初彼を東京で採用しようと考えていたんですが、「勤務地は沼津市にしたい」と希望が出まして。勤務地が変わっても同様の業務はできますから、すんなりと彼の希望は通りました。


――優太さんはどうして沼津市での採用を希望したのですか?

優太さん:大好きなものがある地域で生活をしてみたいという思いがあったからです。

私は高校生の頃からアニメのラブライブ!シリーズが大好きでした。特にラブライブ!サンシャイン!!は都内の大学在学中に放送されていたので、仲の良い友達と聖地の沼津に訪れていました。

その後「人を幸せにする仕事をしたい」とウェディングプランナーになりましたが、お客様の幸せを優先するあまり、自分のプライベートを我慢する日々が続き、沼津にも来られなくなりました。

それからずいぶん経って、久しぶりに沼津を訪れたときに「本当に好きなものがすぐ近くにある沼津で生活できれば、より良い人生が送れるのではないか」と強く感じたんです。


――社長としては優太さんの希望を聞いて、どう感じたのですか?

吉田さん:大歓迎でしたよ。ラブライブ!の雰囲気はポジティブで明るく、私もいいなぁと思っています。人事担当と採用活動を秋葉原でしようかなんて話しているぐらいで(笑)。

その土地に居たいというのは、色んな理由がありますよね。それがラブライブ!であっても、子育て環境に海のそばを選びたいというものであっても、本人にベースとなる能力と意欲があればどんなものでも構いません。自分の住みたい土地で働ける時、人は非常に一生懸命仕事をしてくれます。


――優太さんにとって現在の沼津での業務はどうですか?

優太さん:業務の面でも「できること」よりも「やりたいこと」に挑戦したくて転職しました。だからこそ、ブライダル業界でメインだった対面接客からの、オンライン接客・営業への挑戦は自分の中でとても新鮮でした。現在担当するPCメーカーのマーケティング部門でのPC入替や新規導入の案件発掘も、お客様に合わせた提案の難しさがある中でお客様の潜在的なニーズを発掘できたときのやりがいは強く、面白いです。


――実際に沼津に移住してみてどうでしたか?

優太さん:やはり聖地が近くにあるということが、私の生活を非常に豊かにしてくれました。アニメを見返した直後やキャラクターの誕生日には聖地にすぐに行けるというのは幸せですよ。また、新鮮な海の幸が食べられるのも休日の楽しみです。

「好きなことを仕事に」という言葉はよく聞きますが、「好きな地域で仕事をする」ことも同じくらい心を豊かにしてくれると思います。環境を変えることは勇気のいることでしたが、一度きりの人生だと思い踏み出して良かったです。


――「好きな地域で仕事をする」、求めている人はたくさんいるでしょうね。

吉田さん:現在、首都圏では仕事が大量にある一方で、優太君のように愛着のある地域で仕事をしたい人に活躍の場を供給できていないというアンマッチが起きています。こうした点に都心の企業も地方の企業も気付いて、人材確保に動いていかないといけませんよね。

弊社では、沼津オフィスの存在をもっと多くの方に知ってもらい、10人、20人、ゆくゆくは100人規模になってくれたらうれしいと考えています。

地方の意欲ある人材がサテライトオフィスで最先端の仕事を担う

▲沼津サテライトオフィスが入居しているビルの外観
▲沼津サテライトオフィスが入居しているビルの外観

――沼津市や地元企業が、東京の企業と関係を深めていくにはどのような方法が考えられますか?

吉田さん:地域や会社の枠を越えて戦略的に提携していく、すなわちアライアンスを組むのが1つの手でしょう。例えば市を挙げて、IT技術者の卵を育成し、地元企業が人材を確保するんです。東京のIT企業は技術者が不足していますから、海外ではなく距離的に近い企業への業務外注、いわゆるニアショアにつながっていくと思います。

また、ビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)と呼ばれる、データ入力など簡易的な作業を切り出し外注することのできる企業を地元で育ててマッチングするというのも1つでしょう。

私たちが拠点を置く地域ではエンジニア育成に力を入れていて、優秀なエンジニアになるベースを持った卒業生を毎年輩出してくださっています。こうした若者を東京で採用しようとすると、競争は熾烈です。しかし、地方に拠点を置くことで、新卒採用で前途有望な人材と出会える。我が社のメリットは計り知れません。

特定分野の人材を育ててくれる地域には、その分野の人材を必要とする東京の企業がいずれ根付いていくはずです。


――では、どういった企業がサテライトオフィスを地方に持つべきなのでしょうか?

吉田さん:優秀な人材を求めるのであれば、どの企業も視野に入れるべきだと思いますよ。サテライトオフィスという仕組みを導入することはまったく特別なものではないんです。クラウドを利用したITサービスのおかげで、大きな設備投資なしで地方に拠点を作れますから。

よく地方は人材不足と言われますが、それは地域に力を発揮できる仕事がなかっただけなんです。東京でITの仕事をしていた優秀な人材が、結婚後の転居先ではITの仕事がないから書店でパートをしているというようなケースがたくさんあります。こうした人たちに長く自社で活躍してもらえるなら、企業としては開設を検討しない手は無いでしょう。

サテライトオフィスは、誰もが愛着のある地域に住みながら、最先端の仕事を担って活躍してもらえる場を提供する仕組みなんです。


《ライター・北原 泰幸》