天竜トライアルオフィスで地域の課題解決や、ともにエリアづくりに参加してくれる事業者の起業やサテライトオフィス開設等のサポートをしている、山ノ舎代表の中谷明史さんと、ビジネスコーディネーターの圡田哲也さん。前編に続いて、浜松市天竜区という中山間地域で、今求められている事業者について伺いました。

前編より続き

▲(左)圡田哲也さん (右)中谷明史さん
▲(左)圡田哲也さん (右)中谷明史さん

天竜には誇れる特産品がある。生産者に寄り添いながら世界の市場開拓を目指したい

▲浜松市の面積の多くを占める森林。天竜杉は地域の主要産業のひとつ
▲浜松市の面積の多くを占める森林。天竜杉は地域の主要産業のひとつ

天竜トライアルオフィスが、同じ浜松市内の市街地にあるはままつトライアルオフィスと大きく異なる点は、東京など首都圏からスタートアップ企業を誘致して拠点を構えてもらうことが第一ステップではなく、その前に「場を温める」というワンステップがあることです。まず地元の人や浜松市内の企業とともにエリアを活性化させてから、首都圏や県外からの事業者を誘致するという段階を踏んでいくのです。
天竜トライアルオフィスが開設された2020年以降、天竜区の中心地二俣地区には新しい店舗が増え、人が集まることで、徐々に地域に活気が生まれています。地域の雰囲気が変わり始めた今、求められているのは、地元になじんで、ともに場を温める意識を持ったプレイヤーです。

中谷さん: 飲食店は結構増えましたね。ただ、エリアをつくるという観点から希望を言えば、例えば本屋やギャラリーなど、カルチャーに関わるような事業を営んでいる人たちが増えたら嬉しいなと思います。

浜松市天竜区は、良質な木材として名高い「天竜杉」の産地です。それ以外にも優れた産物がたくさんあります。「天竜茶」もそのひとつです。煎茶はもちろん、抹茶やてん茶(抹茶の元になる茶葉)でも、全国茶品評会等で高い評価を受けています。しかし、緑茶の既存の価値観、販売ルートでは先細りが懸念されるのは、他の産地と同様です。そこで、この現状の一つの打開案として、天竜の産物を世界にプロモートしてくれる人を呼び込み、海外での販売を可能にしたいと考えています。

中谷さん: お茶の生産・販売は、過去にすごく輝いていた時代を経験してきましたが、今後はそのやり方のままでは長く続かないと思うんです。だから、今の天竜茶のベースをつくってきた人たちをちゃんと敬いながら、世界に向けた販売戦略をきちんと練られて、未来の天竜茶の姿も説明できるような人にぜひ来てほしいと願っています。僕らもビジョンは説明できるけど、お茶が専門ではないので、茶農家さんに対して説得力が全然ないんですよね。

▲山の斜面に広がる天竜の茶畑
▲山の斜面に広がる天竜の茶畑

エリアを存続させていくためには、地元雇用の創出も必要不可欠な要素です。お茶の販路拡大による生産者育成や関連事業従事者の拡大と同様に、天竜の木材を新しいプロダクトとして加工、販売するノウハウや知見を持ったプレイヤーも求めています。
一方で、首都圏からの移転企業による地元での雇用創出にも期待しています。

圡田さん: 最近、東京の映像制作会社の移転が決まりました。事務所は空いていたお茶工場を改装してつくります。社員も何人かは東京から移住して来ますが、地元で映像制作に興味のある若い人がいたら採用していきたいそうです。映画を撮るような本格的な撮影技術を持つ会社なので、こうした中山間地域でも優れた技術を身につけることができるのは魅力的だし、これがひとつの産業として育つ可能性もあります。

地域の自然を守る人と一緒に、ゼロからのまちづくりに参加する人を呼び集める

▲天竜トライアルオフィスにある、幅110cm、長さ300cmの天竜杉のミーティングテーブル。木を育てる人、加工する人、集まる人をつなぐ空間を象徴するかのよう
▲天竜トライアルオフィスにある、幅110cm、長さ300cmの天竜杉のミーティングテーブル。木を育てる人、加工する人、集まる人をつなぐ空間を象徴するかのよう

中山間地域というと、思い浮かぶのは豊かな自然。環境に魅力を感じる方も多いことでしょう。けれども、中谷さんも圡田さんも、それ以上に魅力的なものがあると言います。それは、豊かな自然を手入れし、守っている地域の人たち。自然を求めて来る人も、もちろん大歓迎なのですが、もっと地域の人と関わり、地域の魅力を引き出し、ゼロからのまちづくりをしていきたいと思う人が、この地でのプレイヤーに向いているといいます。

圡田さん: 正直、豊かな自然っていうのは、3ヶ月もすれば飽きちゃいますよ。天竜区で事業を営む本当の魅力は、ここの自然や文化、歴史とともに生活している地域の人と一緒に生活したり、仕事をすることだと思っています。自然をつくる手入れの仕方や、その人の生活自体がすごく素敵なんです。人と人との付き合いは、飽きることがない。そればかりか、いろいろな人が集まってさまざまな事業を行うことで、地域はどんどん磨かれていくので、僕は、それが魅力だと思っているんです。

▲シイタケを育てる原木。守る人がいてこその特産の山の幸
▲シイタケを育てる原木。守る人がいてこその特産の山の幸

そして、天竜トライアルオフィスが最終的に目指すのは、天竜という中山間地域の良さを多くの人に知ってもらい、ここに住み、一緒に働いてもらうこと。その先にあるのは、子どもたちが戻りたくなる魅力的なエリアにしたいという、次世代に向けた想いです。

圡田さん: ここで育った子どもたちが大人になって、東京や外国で働いていたとしても、将来的には戻ってきて働きたいと思える場所にしておきたい。それは、今仕事をしている大人の責任じゃないかな。それから、外からの人の流れを呼び込むために、地域の人にも、もっとまちづくりに参加してほしいですね。この記事を読んでくれている地元のあなた!『ここ空いてるから、ぜひ活用してね』って、空き店舗や空き家などの物件情報を、僕たちに教えてください。単に借り手、買い手を見つけるんじゃなくて、地域を活性化してくれる人とマッチングをしますから。もちろん、不動産屋さんを間に入れて、重要事項説明もしっかりやりますので安心してください(笑)。

中谷さん: エリアを面白く、楽しくしていくことは、ビジネスとして捉えても非常にやりがいがあると思いますよ。さらに、さまざまな人たちと知り合いになって、ライフワークとしての何かを始めることも、このエリアは最適な場所なんです。
単純に田舎という環境を求めて来る人よりは、エリアをつくっていきたいという意識が前提にあって、何か事業を始めるという人に来てもらえたら、相乗効果で僕らもさらに一歩踏み出せるんじゃないかな。

中谷さん&圡田さんに聞きました!

① 静岡県の好きなグルメは?
・中谷さん: 浜松市街地にある「34DINER(サンシーダイナー)」の鹿肉のパテ。天竜区はジビエもおいしいです。
・圡田さん: 卵かけ生しらす丼(磐田市の福田漁港あたり)。やっぱり鮮度抜群!


② 静岡県でおすすめor 行ってみたい場所は?
・中谷さん: 渓流から海まで、どこでも釣りができる、釣り好きにはたまらない場所です。サーファーには、遠州灘のサーフスポット。家族で行くなら磐田市の今之浦公園です。
・圡田さん: ルパン三世の気分に浸れる天竜川の堤防。せひ、バイクで走ってください。あと、静岡市の日本平パークウェイもおすすめ。家族で行くなら浜北区の「大橋牧場」です。動物と触れ合えて、ソフトクリームがおいしいですよ。


③ オフタイムの過ごし方は?
・中谷さん: 今はほとんど家族とお出かけですね。ひとりの時は釣りかサーフィンに出かけてリフレッシュします。
・圡田さん: ここのところ、完全オフはないです。家族と出かけても、夜は仕事をするとか。そんな時のお楽しみは、クロモジを漬けたウイスキー。家族が寝静まった後、飲みながら仕事をします。

静岡県サテライトオフィス情報発信ライター・竹内友美(たけうちともみ)

交通アクセスや生活面で利便性のある市街地と、自然豊かな中山間地域。新しく事業所を構える時には、そうした対比の中で検討されがちですが、天竜トライアルオフィスは、地域での暮らしと事業を一体と捉えた創業支援の視点が際立っています。また、少子高齢化が進む地域を「課題先進エリア」とする考え方は、まさにパラダイムシフトではないでしょうか。なにより、地域を大切に思う中谷さんと圡田さんの想いが、天竜区をさらにワクワクするエリアに変えていくのではないかと思います。そして、天竜から世界へ。パートナー企業の進出を期待しています!
【竹内友美プロフィール】