持続可能なまちづくりを提案する都市コンサルティングを行っている株式会社ヴォンエルフ。代表取締役の平松宏城さんは、浜名湖がある豊かな自然の中で仕事も暮らしも楽しめる湖西市に魅力を感じ、浜名湖サテライトを開設しました。以来、湖西市の地域資源を活かすまちづくりの提言や、自社が持つグローバルな知見を共有するなど、地元企業との交流を積極的に行ってきました。浜名湖サテライトの事業拡大に伴い常駐スタッフも増員し、より広いオフィスに移転して2年半。湖西市での現在の事業展開を伺いました。

【会社概要】
株式会社ヴォンエルフ
https://www.woonerf.jp/

建物や敷地を評価する世界のスタンダードとしての国際認証システム(LEED、WELL、SITES、TRUE、JUSTなど)に照らし、日本の都市や建物、公園や街路などの公共空間が持続可能で快適な「ひと」中心の空間へと転換するためのコンサルティングを行っている。東京の二子玉川ライズや虎ノ門ヒルズエリア、虎ノ門麻布台、金沢駅西口再開発、TOKYOオリンピック選手村跡HARUMIフラッグ、大阪大学箕面新キャンパス移転、札幌市、大阪グラングリーン等でのLEED認証取得など、全国各地の建物や再開発、既存自治体におけるコンサルティング実績を持つ。

東京本社:東京都千代田区九段北4-3-26 N-cross KUDAN 2F
浜名湖サテライトオフィス:静岡県湖西市鷲津760-2 2F


【前回記事】
持続可能なまちづくりを提案する都市コンサルティング会社が湖西市に古民家サテライトオフィスを開設

【インタビュー対象者紹介】 
代表取締役
平松 宏城(ひらまつ ひろき)さん

・平松さんプロフィール
1961年、静岡県浜松市生まれ。1984年、大阪外国語大学卒業後、日米の証券会社勤務、環境NPOを経て、社会起業家として2006年に現在の株式会社ヴォンエルフを立ち上げる。創業当時から民間企業、金融機関、公的機関との横断的連携を図ることでサステイナブルランドスケープとグリーンビルディングの普及促進に努め、持続可能な都市環境構築を目指す。都市計画、建築、造園、土木等など各学会誌への論文寄稿のほか、環境不動産、ESG投資などをテーマに、専門誌、新聞への執筆、講演なども多く手がけ、2022年には「オームステッド セントラルパークをつくった男」を翻訳出版する。

業務拡大に伴う人員増で、サテライトオフィスを移転。オフラインミーティングの拠点に

▲ワーケーション的な働き方が可能な浜名湖サテライト
▲ワーケーション的な働き方が可能な浜名湖サテライト

株式会社ヴォンエルフは、2021年5月に湖西市にサテライトオフィスを開設しました。社員はコロナパンデミック以降リモートワークが基本。仕事自体はオンラインだけで可能ですが、オフラインの集まりも大切にしていて、必要に応じて東京本社や大阪オフィスなど、どの拠点へも自由に出社できる働き方を構築してきました。湖西市に開設した浜名湖サテライトは、浜名湖や海が近い立地ということもあり、自然の中でリフレッシュしながら仕事ができるオフィスという他のオフィスとは違った特徴があります。

その後、湖西市や浜松市などの自治体や、まちづくりに関わる団体と連携し、浜名湖サテライトの業務も拡大。開設当時の古民家を改修したオフィスが手狭となり、2023年7月に同じ湖西市内にある約30坪の貸しオフィスに移転しました。開設当時は1人だった常駐スタッフは、現在は5人。不動産の国際認証取得のアドバイスなどグローバルな業務を行っているため人材もグローバルで、浜名湖サテライトでは、静岡大学出身の留学生3名を雇用しています。また、業務委託も含め、静岡県西部や愛知県東部在住のスタッフも3人在籍しています。

平松さん
「浜名湖サテライトの使い方は、開設当時と基本的には変わっていません。常駐以外の社員は、ワーケーション的に出社しています。地元で扱う案件も増え、人員の増加に伴いオフィスを移転しましたが、以前の古民家オフィスはサテライトのそのまたサテライトのような存在で、今でもオフィスとして利用をしています。宿泊もできるので、そこに連泊して仕事をするスタッフもいますよ。
コロナ禍を経て、通信インフラが整っていればどこでも働けると実証されたので、弊社でも引き続きリモートワークは認めています。ただ、昨年あたりから“オフィス出社回帰”の現象が見られる中で、昔ながらのオフィスの意義が見直されているのも事実です。仕事を黙々と進めるだけであればオフィスは必要ありません。だからこそ、リモートワークで普段対面では会えない人たちが、一堂に会する意義とは何だろうかと弊社でも考えているところです。対面で集まることでチームワークの醸成や、共通目的を持った協調行動が期待できます。
浜名湖サテライトでは、東京や大阪オフィス所属や、豊橋市在住の外国人スタッフ10数名が集まり、オフラインミーティングを行うこともあります。業務上のミーティング以外でも、皆が関心のあるテーマで勉強会の開催、飲食を伴う親睦会や映画の上映会、ミュージシャンを招いたライブを行うなど、そんなオフィスの活用の仕方も模索しています」。

自社の強みや知見を活かして、官民学の交流、連携を密にして地方創生を加速させる

▲移転した浜名湖サテライトは、社員が集まりワークショップを開催してもゆとりのある広さ
▲移転した浜名湖サテライトは、社員が集まりワークショップを開催してもゆとりのある広さ

平松さんは自社が培ってきた知見を湖西市の地域活性化に役立ててもらえるよう、市の若手職員を対象とした年に3回程度の勉強会を継続しています。

平松さん
「勉強会では、まちづくりや市街地緑化に関わる活動をしている組織の代表者などを招いて、湖西市の今後のまちづくりに何が必要か提言をいただき、ディスカッションしています。若手職員がさまざまな情報をインプットし、気づきを得る機会を設けることが目的です。
昨今は、地方創生の気運が再び高まっています。むしろ、今やらなければという意識が強くなっていると感じます。そうした状況を受けて、GX、カーボンニュートラルを念頭においた新たな取り組みで、地方都市の可能性を引き出す実証実験などを誘致するために、東京の大学と自治体のコーディネート的なことをさせてもらっています。湖西市や隣の浜松市は製造業が盛んで、優れた技術を持つ企業も多い。現在の社会課題を解決するような地域を挙げた実証実験を、湖西市で、あるいは、浜名湖の周辺でできないかと考えているんです」。

自治体だけでなく、地元企業やコミュニティとの交流、連携も積極的に行っています。浜松市で立ち上がったカーボンニュートラルの研究会には「オームステッド セントラルパークをつくった男」の推薦文を寄稿された京都大学の諸富徹教授が委員長に就任し、ヴォンエルフを含む地元企業からの若手社員が参加。地方都市におけるカーボンニュートラルがもたらす可能性を、地元企業とともに学んでいます。

平松さん
「環境問題をキーワードに、地元企業や経済団体と交流できる機会を得たことは、浜名湖サテライトを開設してよかったと実感する実績のひとつです。また、浜松市のまちづくりを推進している会社が開催している「水ヨル(水曜日のヨル喫茶)」では、イベントやトークショーで、若手スタッフが弊社のサステナビリティコンサルティングについてお話させてもらったり、そこで繋がりができた企業さんの課題を伺い解決法を提案したりもしています。
こうした機会は、東京や大阪ではなかなかありません。「水ヨル」は地元で名の通った企業の方が集まっています。弊社は、世界基準の認証や取り組みでグローバル企業や日本の大企業と仕事をしていますが、それとは違った異なる地元企業の視点を学べます。弊社スタッフは地方都市の課題感がつかめ、地元企業の皆さんは、地方都市にいながらグローバルな感覚に触れられる。お互いに目新しく、ないものを共有し合えるおもしろさが、交流に繋がっていると思います」。

地域に開いた場所やイベントで、積極的にコミュニティに溶け込む

▲カフェで開催した、養蜂家を招いたトークショー&ワークショップ
▲カフェで開催した、養蜂家を招いたトークショー&ワークショップ

平松さんは、地域に溶け込み事業を広げ、サテライトオフィスを継続させるためには、地元の既存のコミュニティに敬意を持ち、ルールを守り、応分の役割を果たすことが大切だと言います。実際に最初に開設した浜名湖オフィスに古民家カフェを併設したのも、地域の人が気軽に利用できる開かれた空間をつくるためでした。地元の特農家から仕入れた新鮮な野菜や専用農場で育てた農薬不使用の果物、平飼いの卵を使ったランチメニューやスイーツは口コミで評判となり、カフェスペースも拡張しました。また、平松さんが湖西市内に購入した古民家と農園では、古民家の解体や改修のワークショップなど、地域の人だけでなく他地域からも人を呼び込むイベントを開催してきました。

平松さん
「古民家解体ワークショップは、東京をはじめ他地域の人も地元の人に交じってたくさん参加して、ずいぶん盛り上がりました。自分たちでやらずにどこかの会社に解体を発注していたら、こうした交流は生まれていなかったでしょう。そんな実績から地域の人たちから誘われて、地元のお祭りに呼ばれたり花火を出させてもらったり、一緒に飲んだりできるような関係性が生まれました。古民家改修のワークショップ開催は、現在では減っていますが、地元と東京の養蜂家がコラボしたトークショーを開催するなど、イベントは継続して企画しています。
また、スタッフはボランティア休暇を利用して、地元のNPO法人が行う弁天島の海岸清掃活動に参加しています。ゴミ拾いで地域に貢献し、身近な環境問題に関心を持つのです。そして作業の後のバーベキューにも参加して、地域の人たちと交流を深めています」。

身近に自然がある静岡県の魅力をさらに高める取り組みに関わり、地域の活性化に貢献したい

▲浜名湖周辺地域の活性化にさまざまな知見を提供し、課題解決のために連携をしている
▲浜名湖周辺地域の活性化にさまざまな知見を提供し、課題解決のために連携をしている

ヴォンエルフでは、中長期的な事業展開の構想として、地域経済を活性化させるための都市部と地方都市との人的交流の活発化を掲げています。浜名湖サテライトは、身近に豊かな自然が広がっていて、SUPやカヌー、サイクリング、釣りなどで、手軽にその魅力に触れることできます。一方で、外から人を呼び込むには、地域の交通インフラと自然へのアクセスの利便性を高める必要性があります。この課題解消に向けた実証実験なども積極的に企画したいと、平松さんは考えています。

平松さん
「同じ湖西市内でオフィスを移転しましたが、1日に数本しかないコミュニティバスに地域内の交通手段が限られるという点は、率直に言って不便を感じる部分です。湖西市内にはJRの駅が3つあり、それぞれの区間の乗車時間は4〜5分でも、まず駅に行くまでに10分くらい歩くので、車でわずか7〜8分の距離の移動に、公共交通機関を使うと30〜40分かかってしまうのです。人的交流を活発にするためにも、自転車やスローモビリティも含めた新しい交通網の構築を手がける事業者と一緒に、湖西市で実証実験に取り組めたらいいなと思います。市民の生活が便利になるだけでなく、浜名湖や海へのアクセスがさらに良くなれば観光客をもっと呼び込めるので、地元の宿泊業や、インバンド誘致の旅行会社など、観光関連事業者が潤います。そうした分野の人たちとも連携して、地域経済の活性化に取り組んでみたいです。

浜名湖サテライトの最寄り駅、JRの鷲津駅や新居町駅は、本当に浜名湖のすぐ近くなんです。ただ、それが広く認識されていないのも残念です。社内では、浜名湖サテライトは仕事の前後に、海まで自転車で行くとか、浜名湖の湖畔をランニングするとか、そんなワーケーション的拠点として利用されています。実際に事務所の近くにSUPやカヤック、自転車を置いてあります。二拠点目を検討する関東や中京圏の企業の中には、我々が先行事例として取り組んでいる浜名湖サテライトと同じような利用の仕方のニーズがあるはずです。
JRの駅近くのシェアオフィスに拠点を置き、さまざまな企業の人たちとの接点が持て事業の拡大にも繋げる。加えて、浜名湖には湖畔を周遊する自転車専用道があり、レンタサイクルの拠点も点在していて、気軽に自然にアクセスでき、社員は仕事をしながらリフレッシュできる。こうした環境こそが、静岡県にサテライトオフィスを構える魅力のひとつだと思っています。

我々は、空間バリューアップカンパニーです。建物、インテリア、店、まち、自治体など、さまざまなスケールの“空間”がありますが、そこで何を手がけることでどういう価値を生み出せるかという視点で仕事をしています。2026年は開始設立20周年を迎えます。次の20年は、地域課題を解決して地方都市を活性化するという、今までと違ったスケールの取り組みをしていきたい。その点では、地域に文化的な厚みをもたらすギャラリーや古本屋など、湖西市にない施設や店舗を手がける人たちとも一緒に、湖西のまちづくりにも関わり続けたいですね」。

サテライトオフィスで働く平松さんに聞きました!

①静岡県の好きなグルメは?

桜えび、しらす、牡蠣ですね。地元で採れるものは新鮮で安くて美味しいです。旧オフィスに併設した「カフェ ロンポワン」は、妻でヴォンエルフの取締役COOでもある永積紀子の娘が地元の若手スタッフたちと切り盛りしているのですが、地元特農家さんや自社菜園で育てた新鮮な野菜やフルーツを使ったメニューを提供しているので、皆さん、湖西に来たらぜひ立ち寄ってください。

②静岡県でおすすめor 行ってみたい場所は?

おすすめは、やはり浜名湖ですね。SUPやカヤックなど湖上で遊ぶのもいいですが、湖畔のサイクリングや散策を気軽に楽しむのもおすすめです。

③オフタイムの過ごし方は?

東京にいるときは散歩に出かけます。湖西にいる時は、農場やカフェの整備をしていますね。

サテライトオフィスしずおか情報発信ライター・竹内友美(たけうちともみ)

農業をしながら仕事もできる環境が気に入って、湖西市にサテライトオフィスを開設した株式会社ヴォンエルフの平松さん。浜名湖サテライトは、リモートワークが基本のスタッフたちがオフラインで顔を合わせる場所としての拠点であり、地方が抱える課題や環境問題を身近に知る拠点でもあります。5年目の現在の状況を伺うと、地域や自治体、民間が主導するコミュニティの中でも存在感を増しているように感じました。湖西市・浜名湖を拠点にしたこれからの取り組みが楽しみです。

竹内友美プロフィール