持続可能なまちづくりを提案する都市コンサルティング会社が湖西市に古民家サテライトオフィスを開設
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「株式会社ヴォンエルフ」
建物や敷地を評価する世界のスタンダードとしての国際認証システム(LEED、WELL、SITES、TRUE、JUSTなど)に照らし、日本の都市や建物、公園や街路などの公共空間が持続可能で快適な「ひと」中心の空間へと転換するためのコンサルティングを行っている。東京の二子玉川ライズや虎ノ門ヒルズエリア、虎ノ門麻布台、金沢駅西口再開発、大阪大学箕面新キャンパス移転、札幌市LEED認証取得など、全国各地の建物や再開発、既存自治体におけるコンサルティング実績を持つ。
・東京本社
【所在地】〒102-0073 東京都千代田区九段北4-3-26 N-cross KUDAN 2F
・浜名湖サテライトオフィス
【所在地】〒431-0302 静岡県湖西市新居町新居1261
株式会社ヴォンエルフ代表取締役 平松宏城(ひらまつひろき)さん
株式会社ヴォンエルフ代表取締役、株式会社Arc Japan 代表取締役、京都芸術大学非常勤講師
LEEDフェロー、USGBC(米国グリーンビルディング協会)ファカルティ
1961年 浜松市生まれ。
日米の証券会社から環境NPOを経て、社会起業家として2006年に(株)ヴォンエルフを立ち上げ、持続可能な都市デザインへの転換、ESG投資(環境、社会、企業統治を重視した投資手法)との連携を通じた都市環境の再構築を目指す。非営利活動としては、(一社)グリーンビルディングジャパンを2013年に立ち上げ、設立から8年間代表理事を務める。2021年2月には、(株)日本政策投資銀行と米国テクノロジー企業Arc Skoru社との共同出資で(株)Arc Japanを立ち上げ、現在に至る。
製造業・漁業・農業・畜産業も。都会からのアクセスがよく自然豊かな「湖西市」
まずは、湖西市(こさいし)とはどんな地域なのか、湖西市役所産業振興課の山科(やましな)さんにお話を伺いました。
--湖西市について教えてください。
湖西市は、静岡県の最西端で、愛知県との県境に位置しています。東京・大阪の間にあり、浜松市や豊橋市へのアクセスも良好です。産業は自動車関連などの製造業が盛んで、人口は6万人弱と県内35市町中24位ながら、製造品の出荷額は県内3位の「モノづくりのまち」です。
また、湖西市と浜松市にまたがり太平洋ともつながる「浜名湖(はまなこ)」や、静岡県と愛知県の県境に連なる「湖西連峰(こさいれんぽう)」、水平線が見渡せる「遠州灘(えんしゅうなだ)」など、豊かな自然に囲まれています。1年を通して温暖な気候で、漁業・農業・畜産業が活発です。特に浜名湖周辺では牡蠣や海苔の養殖が行われ、国内で初めてうなぎの養殖を始めた場所として知られています。
--企業誘致や企業支援のために取り組んでいることはありますか?
市内に工場を新設・増設する企業への奨励金制度や、中小企業を対象とした運転資金、開業資金の支援をしています。さらに、令和3年度より「湖西市空き店舗等利活用出店補助金」を新設し、空き店舗を活用して出店する事業者への支援にも力を入れています。
--どのような企業に来てほしいですか?
市内の企業と連携し、産業の活性化や、空き店舗・空き家の活用、地域資源を用いた「職住近接」のゆとりあるライフスタイルの実現を目指す企業などに来ていただき、市の特性を活かして、地域内循環型社会を一緒に目指していけたらと思います。
東京一極集中にリスクを感じて。自然豊かな湖西市での多拠点生活を実践
湖西市にサテライトオフィスを設置した、株式会社ヴォンエルフ代表取締役 平松宏城さんにお話を伺います。
--湖西市に開設したサテライトオフィスは、築100年超の古民家と聞きました。開設したきっかけを教えてください。
弊社は、東京に本社がありますが、地方でのサテライトオフィス開設を以前から考えていました。きっかけは、16年程前に、パタゴニア創業者イヴォン・シュイナードさんの本『社員をサーフィンに行かせよう パタゴニア経営のすべて』を読んだことです。そこには、社員は勤務中でもサーフィンなどのアウトドアを楽しんで良い、仕事と遊びと家族の境目をなくし、自由に過ごすからこそ仕事で責任を果たす、といった内容が書かれておりました。働き方について弊社でもまったく同じことを実践しているということではありませんが、組織経営において、『会社が従業員を信頼し、従業員は責任のもとに自身の判断で業務に柔軟かつ効率的に取り組むことで成果に繋げる』というパタゴニアの経営方針に対して、「会社はこうあるべきだ」と感銘を受けました。こうしたきっかけがあり、現在の浜名湖サテライトオフィスの開設へと繋がっていきました。
--サテライトオフィスの場所に湖西市を選んだ理由を教えてください。
浜松市出身なので、浜松市に設置したい気持ちもありましたが、やはり湖西市がよかったんです。
私はこれまで大阪、東京、ニューヨークと大都市で過ごしてきましたが、自然の中で農業をしながら仕事も両立できると良いと思っており、自然が残っていて、魚釣りやカヤック、SUP、サイクリングなどが楽しめ、農業もできる湖西市に大変魅力を感じていました。
実は、サテライトオフィス開設前から浜名湖周辺に農場と古民家を取得し、地元の仲間と農作物を育てて東京で販売していたんです。プライベートで東京と湖西市の行き来が多くなり、仕事場もあると良いなと思っていたところで、近年の気候変動の影響で激甚化する自然災害を目の当たりにし、東京だけに拠点を置く危なさを実感して、湖西市にサテライトオフィスを設置することを決めました。
--サテライトオフィスの場所はどのように見つけたのですか?
市内の知り合いを介して湖西市新居町(あらいちょう)の新居関所(あらいせきしょ)前にある古民家を紹介してもらいました。新居町は漁師町、宿場町なのでコミュニティが濃く、人との関わりが深い地域で、朝登校している小中学生たちはみんな挨拶をしてくれます。東京だと、隣の人ともほとんど関わりがないのが普通ですので、都会のスタッフたちも、湖西のコミュニティで、東京での常識が当たり前じゃないと感じるのではと思っています。
サテライトオフィスからオンラインで全世界のビジネスパートナーやクライアントとつながる
--サテライトオフィスではどのような業務をしていますか?
弊社は、持続可能なまちづくりを提案する都市コンサルティングをしています。ものづくりのような形がないので見えづらいのですが、国際的な認証基準に沿って、サステナビリティやウェルビーイングといった「何が生活を豊かにしてくれるのか」という視点を、街づくりに反映させています。
私は、2021年5月のサテライトオフィス開設以降、月の半分以上をサテライトオフィスで仕事していますが、国内外のクライアントやパートナーたちとは、オンラインにより会議等を実施するなど、東京と変わらない業務が行えています。
また、コロナ禍により現在オフィスを使っているのは、私を含め2~3人ですが、サテライトオフィスは宿泊も可能なため、将来的には6~7人が滞在しながら仕事をする予定です。
その他には、サテライトオフィスを地域に開かれた場とするため、私設図書館のような古書店を併設したカフェの開業を計画しています。
--サテライトオフィス設置にあたり行政の支援制度の活用はありましたか?
湖西市は街の景観に統一性を持たせるための街並みガイドラインがあり、そちらに沿った形での施設の改修に補助金が出るので活用を予定しています。また、空き家を活用する場合の補助金制度(湖西市空き店舗等利活用出店補助金)もあるため、カフェの開業の際に活用する予定です。
サテライトオフィス設置により柔軟な働き方を実現し、生産性も向上
--サテライトオフィスで感じているメリットを教えてください。
リモートでも支障なく働けることがわかったのは大きいです。東京から湖西市までは、2時間もあれば移動できるため、不自由さは感じていませんし、業務の生産性も上がっています。
コロナ禍以前は週に5日、スタッフ全員が東京のオフィスへ通勤していましたが、リモートワークが進んだこともあり、コロナ禍が収束した後は週2日の出勤に減らすことを決めました。サテライトオフィスも活用し、気分と都合に合わせて場所を選び、自由な働き方ができるといいと思っています。
また、浜松市にある静岡大学工学部と情報学部からミャンマーとベトナム、タイの留学生をインターンとして受け入れており、採用への期待もあります。浜松市の企業から仕事の相談もあり、湖西市にサテライトオフィスを設置したことによる、これからの新たな出会いが楽しみです。
--サテライトオフィスの環境は、クリエイティブな仕事への影響はありますか?
築100年超の古民家を自ら改修をすることで、私自身の創造性が刺激されています。湖西では東京と違って、自分たちで工夫しなければならないことが多く、湖西のサテライトオフィスも、借りた当時は老朽化が激しく、サテライトオフィスとして借りたいと申し出た際には大家さんは大変驚いていました。
--サテライトオフィスのデメリットがあればお聞かせください。
デメリットは特に思いつきません。強いていえば、仕事の効率が良すぎてせっかく湖西にいるのになかなか自然を満喫できていないことですかね(笑)。これについては、業務の時間配分を見直したいと思っています。
湖西市の資源は世界にも通じる!多くの方へ魅力を届けたい
--会社の代表ご自身がサテライトオフィスへ月の半分勤務していることで、社内の変化はありますか?
やはり、代表が動かないと社員はついてこないと思うんです。私自身が、月の半分を湖西市で過ごすことで、スタッフも地方への移住を考え始め、湘南などへ引っ越した者もいます。湖西のサテライトオフィスにはスタッフが滞在できるように二段ベッドを用意していますし、古民家二階を使って家族単位の宿泊も可能にしてあります。
地方での生活は、地域に馴染むまでには人間関係などのハードルもありますが、湖西市では数年かけて地ならしをしてきて、知り合いも増えています。カヤックができるポイントを教えてもらい、SUPで遊べる場所も見つけました。
--そんな会社で働いてみたいです!
湖西市のサテライトオフィスには、若いスタッフたちにも来てもらいたいのですが、コロナ禍により実現できていません。弊社は20~30代のスタッフが半数以上で、6カ国7名の外国人スタッフもおります。急拡大している新しい産業なので、建築、土木、エンジニア、ランドスケープデザイン、情報科学など、さまざまな経験を持つ人が集まっています。世界とつながる仕事で、脱炭素に関する最先端の情報が入ってきますし、サステナビリティの知見と情報を豊富に持っているとの自負があります。
--今後の湖西市での展望があれば教えてください
湖西市の地域資源には、大きなポテンシャルがあります。私たちは、浜名湖周辺をサステナビリティの聖地に変えることを目指しており、興味を持ってくれる人や企業が集まってくれたらと思っています。
湖西市の皆さんと一緒に、地域の魅力を全国に伝えていきたいですね。良い街には人が集まります。湖西市は空き家が多いので、サテライトオフィスやワーケーションの拠点とすれば、人の行き来も生まれるでしょう。湖西市を拠点に、脱炭素や環境配慮を企業や街という単位で具体的にどうしていけば良いのか、といった研修プログラムの提供もしていく予定です。
--サテライトオフィス開設を検討している企業へのメッセージをお願いします。
都会のライフラインやインフラはもろい部分があり、災害で物流が止まれば、物が手に入らなくなってしまいます。一方、自然豊かな土地では、海や湖で魚貝が獲れ、無農薬の野菜や果物を栽培できます。生産者の顔が見え、誰がどのように調理しているかわかる。そんな土地にサテライトオフィスという拠点を設置することで豊かさを実感しています。
ただ、地方へ入っていくには、都会の常識を持ち込まない慎重さも必要です。丁寧に地元の方たちとの間に互恵的な信頼関係を作っていければ、サテライトオフィスを持つことは仕事の効率だけでなく、クオリティ・オブ・ライフ=生活の質の向上につながると思います。
《ライター・片岡由衣》