地方でのサテライトオフィス開設を検討している県外企業の方を県内にお招きし、コワーキングスペース等の視察や地域企業等との交流を通じて、静岡でのオフィス開設を検討できる「静岡県内視察ツアー」が開催されました。
参加申し込みを頂いた企業の要望に応じて行程を作成するオーダーメイド型で実施し、参加者は、産業や地域資源など各市の特性や地域課題についての現状を知り、地域に根ざした事業展開を見据えたサテライトオフィス開設の可能性を探りました。
今回は、静岡県の西部にある浜松市と湖西市で開催された視察ツアーについてレポートします。

ツアー概要

1日目(浜松市)
~視察・交流~
 ・The Garage
 ・はままつトライアルオフィス
 ・Co-startup Space&Community「FUSE」
~食事~
 ・はままつ楽市

2日目(湖西市)
~視察・交流~
 ・株式会社ヴォンエルフ 浜名湖サテライトオフィス
 ・UGO ウゴ 2号店
 ・浜名湖れんが館
~食事~
 ・ロンポワン(カフェ)


浜松市は静岡県西部にある政令指定都市で、首都圏と関西圏のほぼ中間に位置しています。チャレンジ気質を表す「やらまいか精神」があり、世界的企業も輩出しているものづくりが盛んなまちです。「都心オフィス進出支援事業費補助金」「ベンチャー企業等進出支援事業費補助金」「ファンドサポート事業」などを通して、サテライトオフィス開設やスタートアップを支援しています。

湖西市は浜名湖や太平洋、愛知県との県境にまたがる湖西連峰など、雄大な自然に囲まれています。隣接する浜松市同様、製造業が盛んで、豊かな自然環境や新鮮な食材といった地域資源を堪能しながら「職住近接」という、ゆとりあるライフスタイルを提唱。ITやDXによる産業及び地域振興を担う企業の進出も求めています。


参加者

株式会社Asian Bridge
 松田 悠(まつだ はるか)さん・馬場 美帆(ばば みほ)さん

○本社所在地:東京都港区芝3-1-15 芝ボートビル 7F
○事業内容:アプリ、Webシステム開発、IT基盤構築運用、Webサービス、ソーシャルゲーム向けイラスト制作事業、会社インフラ関連IT事業、ITエンジニア派遣事業
○サテライトオフィス開設検討理由:磐田市在住の社員を核とした地域連携拠点の構築
○会社HP:https://asianbridge.co.jp/


株式会社ネットアクティビティ
 佐田 正利(さだ まさとし)さん

○本社所在地:東京都豊島区池袋2-61-8アゼリア青新407
○事業内容:アプリ・システム開発、WEBサイト制作
○サテライトオフィス開設検討理由:コロナ禍で客先訪問の機会が減少。将来の地方への拠点移設を検討
○会社HP:https://netacti.com

リモートとリアルオフィスの共存、地域との連携で、多彩な事業展開が可能に

今回の視察ツアーには2社が参加しました。
株式会社Asian Bridgeは、東京本社以外に金沢市に2拠点、富山市に1拠点を構えるIT企業です。地方の拠点では主に、自社で開発したシステムを運用し、高校生から社会人まで、年齢・職歴問わず職業体験ができるインターンシップマッチングサービス、結婚や出産後の女性の復職や、高齢化に伴い増加している高齢者の就職支援などを行っています。

株式会社ネットアクティビティは、企業のHPシステムの構築支援の他、多数のアプリを開発、リリースしています。今後BtoCのスマホアプリ開発に力を入れていく予定です。
2社ともリモートワークが可能で、地方拠点の活用の仕方と地域との連携による事業拡大の可能性に、特に興味を示していました。

▲株式会社ヴォンエルフの浜名湖サテライトオフィスでの交流会。サテライトオフィスの活用方法や地域との連携について話す平松宏城さん(奥左)
▲株式会社ヴォンエルフの浜名湖サテライトオフィスでの交流会。サテライトオフィスの活用方法や地域との連携について話す平松宏城さん(奥左)

湖西市で最初に訪れたのは、築100年超の古民家を改装した
株式会社ヴォンエルフの浜名湖サテライトオフィスです。代表の平松 宏城(ひらまつ ひろき)さんは、東京と湖西に生活拠点も持っています。交流会では、「住む」という視点からの湖西の魅力も伺いました。

平松さん: 湖西市では自然を身近に感じ、生活の質の高いライフスタイルが叶います。東京と比べて物価、公共料金はあまり安いとは言えませんが、野菜、魚は安くて美味しい。家賃は安く、オフィスに活用できそうな空き家の古民家もたくさんあります。リモートワークでも特に不自由は感じません。とはいえ、市内の移動には車は必需品かなと思います。

拠点を構えた後、平松さんは農業や古民家解体・改修などのワークショップを開催して、地域に溶け込むきっかけにしたそうです。また、ヴォンエルフの役員である永積紀子さんがサテライトオフィスの1階を改装して、2022年にカフェロンポワンをオープンしました。誰もが利用できる、地域に開かれたカフェで、地元で育てた無農薬野菜をたっぷり使ったランチや、オリジナルのスイーツ、ドリンクが人気です。

「環浜名湖をサステナビリティの聖地に」というコンセプトで湖西での事業展開をしている平松さん。湖西市は、貴重な資産が放置されていると言います。大都会の再開発も仕事としては大事だけれど、行政や地域の金融機関と一緒に行う地域活性化も必要だと考えています。湖西市には外から来た人が滞在できる施設がないので、現在、ワーケーションの需要にも応えられるよう、市街化調整区域でのキャンプ場の整備を提案しています。事業のパートナーでもあるカフェオーナー永積さんの娘さんは建築が専門なので、地域に残る古民家を改修し賃貸する事業も検討中です。


株式会社ヴォンエルフ 浜名湖サテライトオフィスの記事・動画はこちら

地方にこそITが必要。積極的な意見交換で見えてきた具体的な地域課題

▲UGO2号店での交流会。サテライトオフィスの特徴や湖西市の課題を説明する、徳増真宏さん(右)
▲UGO2号店での交流会。サテライトオフィスの特徴や湖西市の課題を説明する、徳増真宏さん(右)

湖西市にあるコワーキングスペースUGO ウゴ 2号店では、施設見学と、経営者の徳増 真宏(とくます まさひろ)さんにお話を伺いました。徳増さんは
UGO 鷲津駅前店」「UGO ウゴ 2号店」のふたつのコワーキングスペースを運営。いずれもドロップインが可能で、駅に近いという利便性があります。併設している学習塾では、元システムエンジニアの経歴を活かしてプログラミング教育も行い、子どもの頃からITになじむベースづくりに取り組んでいます。

徳増さん: 湖西市は車産業に関連した製造業は強いのですが、IT分野は弱いのが実情。人材も少ないので、市民のITのレベルを一緒に上げる事業展開をしてくれる企業さんの進出を望んでいます。


▲浜名湖れんが館での交流会の様子
▲浜名湖れんが館での交流会の様子

次に、湖西市の中心部にある、明治時代に建てられた倉庫を活用した貸しホール「浜名湖れんが館」で、湖西市の担当者から地域の産業や資源、課題などを伺い、意見交換を行いました。

湖西市では、「職住近接の暮らし」をコンセプトに、移住定住支援空き店舗等利活用出店補助金、クラウドファンディング手数料補助金制度などを用意しています。工業、ものづくりが盛んで、市内の企業では人材確保やITの導入、DX、湖西版ゼロカーボンシティの実現などの対応が課題になっています。
意見交換では、商工会や金融機関も巻き込んで問題解決にあたるネットワークの構築や、ITを活用したインターンマッチングを取り入れるといった提案が、ツアー参加者から出されました。

地域での具体的な事業展開のヒントを得た、視野の広がりを感じた視察ツアー

▲株式会社Asian Bridge  松田悠さん(左)・馬場美帆さん(右)
▲株式会社Asian Bridge  松田悠さん(左)・馬場美帆さん(右)

松田さん: 浜松市のサテライトオフィス事情を探る目的で参加しましたが、自分たちだけでは得られない情報もあり、視野が広がりました。浜松市は企業誘致のための仕組みがきちんとできていて、すぐにでもオフィスを開設できる土壌が整っているところに魅力を感じました。

隣接する湖西市のことは全く知りませんでしたが、実際に足を運び地元の人に話を聞くことで新しい発見も多く、自分たちの事業にも改めて向き合うきっかけになりました。まだ仕組みが整っていなかったり、課題を抱えている自治体では、地域の役に立つことで私たちの伸びしろもあると感じました。まずは一か所オフィスを借り、地域に根ざしたネットワークを構築し、その後、次のオフィスや事業展開についてじっくりと考えていくのもひとつの方法だと思いました。

視察ツアーでは、私たちのように新たな考えが湧くかもしれないので、迷っているのなら参加してみることをおすすめします。
本気で地方進出するためにオフィスを構えようと考えているのなら、自社の何をもってその地域で事業をやりたいのかというビジョンを持つことが大事です。自分たちのスタンスがどこにあるか、そのフェーズに合わせた準備をした上で地域の人と話をしないと、お互いに響かないし、せっかくの機会を活かせないと思います。

エリアにこだわりがないのであれば、「こうしたことをやりたいので静岡でいいところはないですか」と、率直に相談すればいいと思います。
いずれにしても、自社の事業内容、地方進出のスタンスをきちんと整理しておくことをおすすめします。


馬場さん: 視察ツアーは、行政がやっているので堅いイメージがありましたが、最初からいろいろな話をざっくばらんにしてもらえたので、リラックスして参加できました。
浜松市は新たに進出する企業をサポートする体制がすでに整っていて、ステップに合わせた補助制度がありました。自分たちの状況に合わせて利用できたらいいと思いました。

湖西市は、野菜は美味しいし自然の中で楽しめるアクティビティも豊富にあります。暮らしながら地域に根付いた事業ができたら、仕事もプライベートも充実する憧れのライフスタイルが送れると実感しました。

いずれにしても、人が集まるコミュニティが熟しているところへの進出は、会社にもメリットがあると感じました。


▲株式会社ネットアクティビティ 佐田正利さん
▲株式会社ネットアクティビティ 佐田正利さん

佐田さん: コロナ禍でリモートワークが普通になりました。打合せもオンラインが主流になり、東京にこだわる必要もなくなったと感じます。これから不動産が安い地方にも拠点を持つ、もしくは自分も地方に移住する可能性はあり、今は情報収集で動いています。私の地元は静岡市です。以前、静岡県のサテライトオフィスのセミナーに参加したことで、地方拠点の設置にいっそう興味がかきたてられました。静岡県内にIT系企業が進出するなら、西部地域の方が事業拡大できる可能性が高いと感じ、今回のツアーに参加してみました。

浜松市はスタートアップの創業に適していますね。製造業が盛んで大企業が多いにも関わらず、小さな会社も大切にする対応に、本気で誘致しているのだと感じました。自治体のセミナーで、浜松市長が企業誘致について熱く語っていたのを覚えていて、その際にITやDXの促進に力を入れている印象を持ちました。
これからは製造業もITやデジタルの導入が求められるので、自社の事業拡大においても可能性を見いだせます。また、サテライトオフィス開設費用補助の充実によって、持ち出しの負担が少なくなるので、具体的な検討がしやすくなります。
さらに、サテライトオフィスやリモート採用の人材に対しても、受け入れてくれるコミュニティがあると、取引先からも聞いています。静岡大学の情報学部があり、学生にアルバイトから始めてもらって社員に登用することも考えられます。

湖西市は独自の繋がりのあるコミュニティが、いろいろなものごとを推進しようと動いていて、それに自治体も協力してくれるのだと感じました。私は旅行が好きなので、ワーケーションも経験していますが、ヴォンエルフの平松さんの話を聞き、浜名湖や海の景色がきれいで、自然環境に癒やされる湖西市で過ごすのもいいなと思いました。

静岡県サテライトオフィス情報発信ライター・竹内友美(たけうちともみ)

IT企業2社が参加した視察ツアーは、2日目の湖西市で同行させていただきました。前日の浜松市の視察では、サテライトオフィス開設に関するサポートの充実ぶりが印象的だったようです。また、リモートワークが普及した現在、自然が豊かな土地にサテライトオフィスを構えることが可能です。湖西市の視察では、暮らしも充実するという株式会社ヴォンエルフの平松さんの話に、都市部とは違った魅力を再認識しているようでした。
【竹内友美プロフィール】