オフィス開設前に地域とのマッチングを図り、リモート環境で働く人の快適なワークスペースを提供する

静岡県東部に位置する三島市。街中には富士山の湧水が水源の清流や緑豊かな公園が点在する、自然豊かな地方都市です。一方で、東京から東海道新幹線で44分というアクセスの良さは首都圏への通勤も可能にするため、転職をせずに移住できる街として人気です。
そのメリットを存分に活かし、東京の会社に勤めながら三島市内での地域活動を充実させている山森達也(やまもりたつや)さん。三島市の関係人口創出を目的として株式会社シタテを立ち上げ、コワーキングスペース「ワーカーズリビング三島クロケット」の運営や、ゲストハウス「giwa」の運営を通して、地域と人とをつなげる活動を行っています。
株式会社シタテ 代表 山森 達也 さん
1985年生まれ、京都市出身。2008年、神戸大学工学部を卒業後、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社、情報セキュリティベンチャーを経て、株式会社Indigo Blueに入社、人材開発・組織開発のコンサルタントとして働く。一方で、地方都市で学生のキャリア教育や地域活性化に貢献する活動に従事してきた。2019年4月、三島市に移住。2021年、株式会社シタテを創業。静岡県三島市のコワーキングスペース「ワーカーズリビング三島クロケット」、ゲストハウス「giwa」を運営する。2023年には、地域資源の活用や社会課題に対応する住民主体のアートプロジェクトの支援などを通じて、まちづくりや観光、福祉、教育など社会のさまざまな分野において、イノベーションが生まれる創造的な地域づくりに貢献するアーツカウンシルしずおかのアソシエイトに就任。三島アートプロジェクト実行委員会として「三島満願芸術祭」を立ち上げるなど、三島市の関係人口創出に貢献する活動を行っている。
・株式会社シタテ
・ワーカーズリビング三島クロケット
https://www.crqt.work
住所/静岡県三島市本町2-4 JR三島駅南口から徒歩10分
三島市に滞在しながら利用できるコワーキングスペースで、サテライトオフィス開設や移住希望者をサポート
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ワーカーズリビング三島クロケットの運営をしている株式会社シタテの山森達也さんは、三島市のことをきちんと知ってもらうことで、地域に溶け込んだ事業ができるよう、サテライトオフィスを開設する前のサポートを重視しています。
山森さん: サテライトオフィス開設を検討している事業者と、地元の人たちや、支援を行う行政をつなぐ仕事をしています。とはいえ、事業者も事業内容も多種多様ですから、まずは、何をやりたいのか、どんな展開をしたいのか、いつオフィスを開設したいのか、など、しっかりヒアリングすることが一番時間を割く部分ですね。その上で、三島市で可能な事業展開や、三島市が抱える課題をお伝えしています。ポイントは、“オフィスを開設する前”にヒアリングをすることです。
地域の外からやってくる人と、もともと地域にいる人とのマッチングには、地域の情報や人とのつながりが重要ですが、それ以上に、事業者がどのような環境を求めているのかをきちんと把握することが求められます。山森さんはゲストハウスの運営を通じて、三島市に関心を持つ地域外の事業者の生の声を拾い、ワーカーズリビング三島クロケットの利便性向上や、サテライトオフィス開設や移住を希望する人への情報発信・サポートを行っています。
首都圏企業に在籍しながら三島市で働く人に、サードプレイス的なスペースをつくりたい

山森さんは、東京にある人材育成のコンサルティング会社で働きながら、学生のキャリア形成のためのワークショップなどを行う地方のプロジェクトに関わってきました。その中で、次第に地方移住を考えるようになったそうです。
山森さん: 学生のキャリア形成の活動は、友人から誘われて参加するようになりました。茨城県つくば市、富山県魚津市、山梨県富士吉田市などで活動していましたが、僕は、東京からリモートで関わっていました。当時はコロナ禍前で、今ほどリモート環境が整っておらず、その場にいないとできないことが多かったんです。そのため、僕のように月に1回だけ現地に行く人は、点でしかつながれず、地域のこともちゃんと理解できていないから、当然活動はやりにくい。それなら、せっかく地域というものに興味も出てきたし、点ではなく面でつながるために、東京ではないどこかの地域に住んでみようと思いました。
三島市に移住したのは2019年4月のこと。縁もゆかりも、友人すらいない土地に移住したわけは?
山森さん: 知り合いがすでに活動している地域に入っていくと、それは点の延長線上になりますよね。すでに活動している人たちの流れに乗っかるのは、おもしろくなさそうだなと。それで、誰も知り合いがいないところへの移住を考えたんです。当時は、毎日オフィスに出勤していたので、新幹線通勤ができる三島市は移住候補としてベストでした。
さらに、僕はウインドサーフィンが趣味で、沼津市や西伊豆エリアにはよく来ていたんです。三島市に住めば、西伊豆が近い。東京の会社で働きながら、週末ごと大好きな海で遊べるのは最高じゃん!と(笑)。
移住後はNPO法人みしまびとのメンバーに。地域のことをより深く知り、いろいろな人との関係を築きながら、山森さんらしい地域との関わり方を探りました。
山森さん: 活動に参加しながら、改めて三島市はいいところだと思いました。純粋にいい土地柄だな、と。一方で、東京からもアクセスがいい、街の人たちも外から来る人に対してウェルカム。なのに、思ったよりも移住者が少ないなと感じたんです。充分に首都圏通勤圏なのに、移住者はこの程度なの?って。その時に「もったいない」と思ったことが、三島市の関係人口を増やして、その先の移住につなげる今の事業を始めるきっかけになりました。
そこで考えたのが、シェアハウス付きゲストハウスの運営でした。ちょうどその頃、三島市にある企業がコワーキングスペース付きゲストハウスの開設を検討していると、知人が教えてくれて、ワーカーズリビング三島クロケットを一緒に立ち上げ、運営することになりました。
コロナ禍で多くの人が自宅でのリモートワークが可能になると、仕事環境に悩む人も増えました。山森さん自身も、コワーキングスペースを必要としていたといいます。
山森さん: 妻も東京の会社に在籍して、自宅の同じ部屋でリモートワークをしていました。WEBミーティングが重なることも多かったので、ちょっと困っていたんです。移住を考えた時に、三島市の最大の魅力は、転職なき移住ができるというところ。自宅の近くに、コワーキングスペースやサテライトオフィスがあれば、便利ですし、仕事とは別に、地域とつながりたいという人は、サードプレイスとしても利用できます。
さらに、ワーケーションも、ホテルの一室に籠もっていてはおもしろくない。ちょっと街中に出られて、地域の人とも交流もできるコワーキングスペースがあれば、地域に人を呼び込めると考えたんです。
三島市は、県の「ふじのくにフロンティア推進エリア」に「首都圏の子育て世帯から選ばれる「転職なき移住推進エリア」として認定されています。
コンパクトな街と程よい距離感の人間関係を活かして、新しいサービスを育てる場所に

山森さんは、「三島市はウェルカムな気質があり、人のチャレンジを応援する文化があるから、新構想事業の実証実験が向いている」と言います。
山森さん: 実際に、アプリケーションの開発会社で働くエンジニアが移住してきて、近接地域にいる人たちをつないで、そこからコミュニケーションを生み出すようなアプリの実証実験をしている例があります。三島市には新サービスを受け入れる土壌があって、人々も協力的なので、新しいことを試してみるにはおすすめの場所です。
これから進出してほしい事業の業種に特にこだわりはないですね。本当に、誰でもウェルカム。ただ、個人的には地域との接点をつくることに興味がある人に来てもらった方が、経験上、うまくいく気がしています。最初から目的や目標を固めすぎると、それがうまくいかなかったり、達成された瞬間に、その地域にいる意味がなくなってしまい、事業の持続性が失われてしまうからです。事業を展開し続けるためにも、ここで働く人自身が地域の集まりに顔を出したりして、楽しみながらやっていけると、よりいいんじゃないでしょうか。
一方で、三島市の課題はどんなところにあると考えているのでしょうか。
山森さん: この地域には分厚いコミュニティがあります。ケースバイケースではありますが、外から来る人には、その濃厚さゆえに関わりにくいと感じるかもしれません。でも、そこに飛び込むことで三島市の本当の魅力がわかるともいえます。だから、最初の一歩のハードルを下げるのが大きな課題のひとつですね。
それから、サテライトオフィスの開設を考える時に、同じ三島市でも、どのエリアに拠点を置くか、事前のリサーチが必要だと認識しておいてほしいです。街中と郊外ではインフラやアクセス手段にギャップがあります。来てからこんなはずではなかった、とならないように、僕もそこはしっかりアドバイスをしています。
実は、僕自身は三島市がどんなところなのかというイメージを全く持たずに移住してきました。下見にはほとんど来なくて、住むと決めてから家もぱっと決めて。だから、知らない土地にいきなり住んだ感じでしたが、三島駅を中心とした街中は、ほとんど歩いて移動できる。コンパクトなエリアという点がすごくいいんですよ。東京に住んでいる時は、今日は何時にどこで、誰と会ってと、アポイントが入っている人以外には、基本的に会わないのが日常でした。移住してからは、街を歩いていると誰かしら知り合いに会うんです。そこで「最近こんなこと考えているんだけど」「それだったら、この人と会った方がいいよ」「今度こんな集まりがあるからおいでよ」なんて、ちょっとおしゃべり。ばったり会うところから、情報やつながりが広がっていくのは、本当におもしろいんです。
三島市に来てもらう“きっかけ”づくりに力を入れると同時に、コワーキングスペースを地域の交流の場としてもっと活用する
まちづくりや観光、福祉、教育など、社会の様々な分野と文化芸術との連携を進める、「アーツカウンシルしずおか」という静岡県の事業があります。そのアソシエイトも務めている山森さん。自身の活動としても、現在、アートプロジェクトに力を入れていて、三島市での三島満願芸術祭に向けた準備を着々と進めています。そこには、三島市のことを全く知らない人でも、興味あるコンテンツをきっかけに足を運んでほしいという想いがあります。
山森さん: 三島市って、県外の人にはあまり知られていないんですよ、残念ながら。でも、訪れた人は、みんないい街だと言って帰って行くんです。だから、極端にいえば、三島市には興味も関心もないけど○○があるから行ってみる、という、入口をたくさんつくりたいんです。その○○のひとつが、アートです。とにかく一度来てもらって、三島市を好きになって帰ってもらう。すると、その人はまた来てくれる。そうして、まずは関係人口を増やして、その先の“転職なき移住者”を増やそうという作戦です。
そこで必要となるのが、移住者も利用しやすいリモートワークの環境が整ったコワーキング施設の存在と、事前のマッチング、ということなのです。
山森さん: 企業でも個人でも、ここに来てから合う・合わないを考えるのは、時間と機会の損失になります。サテライトオフィスをつくる、移住する、その前に地域との関係性をつくるサポートをするのが、僕が本来やりたいこと。まずは何度か通って、自分を受け入れてくれるネットワークが構築された場所にオフィスをつくってから、移住する、というのがベストでしょう。地域に入ったその日から、活動ができますし。
三島市は、古くから「伊豆の玄関口」として、多くの人が行き交い賑わってきました。山森さんも、そうした地の利を活かして、他地域、特に西伊豆地域との交流や連携を深めていくことも考えています。
山森さん: 西伊豆町で地方創生や地域活性化の活動をしている会社「株式会社西伊豆プロジェクト」さんが、サテライトオフィスとして三島クロケットを利用してくれているのですが、三島市と西伊豆エリアの人の流れを一緒につくっていきたいよねと、話をしているんです。実際に、コワーキング施設のメンバーを対象に西伊豆ツアーを開催して、現地での活動を紹介してもらったりしているんです。互いに学んだり、刺激を受ける部分がたくさんあるので、これからも続けていきたいですね。
また、最近では、三島クロケットの貸し会議室の需要が増えているため、オフィススペースの稼働率アップだけでなく、1階の交流スペースや会議室の活用方法を工夫し、さらに移住者や新たな事業者が地域に浸透するための活動や、人々の交流の場としての活用も模索していくそうです。
その先に、山森さんのマッチングによる、三島市でチャレンジをする事業者と地元の人とのコラボで生まれる「新たな三島発」のモノやコトが誕生しそうです。
地域のキーパーソン・山森さんに聞きました!
① 静岡県の好きなグルメは?
ちょっと難しい質問ですね(笑)。特定のグルメを味わえるからというよりも、店主の顔が見える店が多いというのが三島市の飲食店の魅力なので。それぞれの店で独自のコミュニティが形成されている、そんな感じです。飛び込んでみると、とても居心地がいいですよ。ちなみに、僕がよく行く店は、三島クロケットにも近い「クラフトビール+ワイン abiert(アビエルト)」という店です。料理のベースはイタリアンですが、ちょっと特別なランチやディナー、仲間と楽しく食事をしたい時など、いろいろなシーンで頼りになるお店です。
② 静岡県でおすすめor 行ってみたい場所は?
街中で散策するなら、源兵衛川沿いがおすすめです。特に、広小路商店街よりも下流側から、散策路の終着点になる中郷温水池(なかざとおんすいち)までが、特に落ち着いた雰囲気でいいですよ。三島市は県外の人も参加しやすいイベントが至るところで開催されているので、そうした場所に飛び込んでみるのもいいと思います。
③ オフタイムの過ごし方は?
今は、ほとんどオフがない、というのが現状ですが、時間があれば、やっぱりウインドサーフィンに出かけたいですね。三島市からなら、お隣の沼津市の牛臥海岸や、山梨県の本栖湖がアクセスしやすいですね。それから、家族揃って早春の伊豆に桜を見に行くのも毎年の楽しみのひとつです。伊豆半島は河津桜など早咲きの桜が多く、一足先に春爛漫気分が味わえます。
静岡県サテライトオフィス情報発信ライター・竹内友美(たけうちともみ)
ご自身は三島市への移住前に、あまりリサーチをしなかったという山森さん。先入観なしで飛び込んだからこそ感じた街の居心地のよさを伝え、体験してもらうことで、オフィス開設や移住時のミスマッチをなくすという活動は、まだまだ大きなうねりを伴って広がっていきそうです。コンパクトな街での実証実験から誕生する、三島市発の新しいサービスも期待しています!
【竹内友美プロフィール】