▲焼津市で実証実験「つなモビ」を実施する森田さん(前列右)
▲焼津市で実証実験「つなモビ」を実施する森田さん(前列右)

うさぎ企画の代表を務める森田創(もりた そう)さんは、静岡県東伊豆町や焼津市、湖西市、山梨県といった行政の顧問をいくつも兼任し、コワーキングスペースの企画運営も手掛けるまさに"地域のキーパーソン"。自身の専門分野も活かしながら、あらゆる地方創生のプロジェクトに尽力されています。

自ら運営する伊東市のコワーキングスペース・サテライトオフィスでは、地元のジビエカレー店を呼び込み、枕投げ大会の必勝講座を開催して地元の方と移住者をつなぐなど、意外な仕掛けも交えて、人と人とをつないでいます。

森田さんによると「静岡県、とくに伊豆半島は首都圏からの交通アクセスもよく、食べ物もおいしいうえ、人口密度も少ないので企業の実証実験にもぴったりの土地」。地域の課題をビジネスチャンスに変え、行政、企業、人も地域まるごと巻き込んで活性化に貢献している森田さんに、サテライトオフィス開設におけるアドバイスや人脈のつくり方などについて聞きました。
 

合同会社うさぎ企画代表 森田創さん

1974年神奈川県生まれ。99年東京大学教養学部人文地理学科卒業後、大手鉄道会社入社。海外事業、社内ベンチャー制度によるフィルムコミッション事業立ち上げ、都心駅直結のミュージカル劇場の開業責任者、広報課長を歴任後、19年4月日本初の観光型MaaSを伊豆で立ち上げる。都市型MaaSの推進に加え、国内の第一人者として全国各地の事例開発に携わった。21年うさぎ企画創業。中小企業4社の顧問、複業人材×中小企業マッチングによる地域活性化、山梨県顧問や焼津市・東伊豆町のまちづくりアドバイザーとしても活躍中。

人どうしをつなげる地方創生のプロがつくったコワーキングスペース「エクレアホール」の魅力とは?

──まず、森田さんの活動内容について教えていただけますか?

代表を務めている「うさぎ企画」では「人づくり」「足づくり」「場づくり」というミッションを掲げています。面白い人を集めて交流の場をつくり、移動手段を整備して足回りをよくすることで、関係人口をその地域に定着させる取り組みです。こうした事業を行政や地域と組んで展開しています。

具体的には静岡県東伊豆町や焼津市、湖西市、山梨県といった行政や様々な企業の顧問職を担い、地方創生のお手伝いをしています。自分の強みであるMaaSなどモビリティ分野の知見を活かして実証実験するなど、特定地域のまちづくりにも参画しています。

さらにコワーキングスペースやサテライトオフィスの運営・企画もしています。伊東市にある「エクレアホール」では、改装計画にはじまり運営の一切を担っています。


──「エクレアホール」は最近静岡で話題の施設ですね。開設の経緯を教えていただけますか?

エクレアホールは元々、大企業の保養所だったのですが、その後伊豆の会社が買い取り、葬祭場として長年使ってきました。私は伊豆の会社の社外役員を務めていた時期があり、コロナ禍でお葬式が行われなくなり、数年後稼働していなかったので、別施設に転用できないかと社長に相談を持ちかけられたのがきっかけでした。ちょうど伊豆でのテレワークやワーケーション需要が高まっていたタイミングだったので、首都圏の方と地元の方が交流する施設としてリノベーションすることを提案しました。伊東市に補助金を申請し、改修費用の半分を補助していただきました。


──森田さんのアイデアから生まれた拠点ということですが、改修にあたりこだわったポイントはありますか?

テーマは「大人の部室」です。「部室」というのは誰にも何も強要されることのない自由な空間だと思っています。私はかつて大企業に勤めていたのですが、大企業だからこそできることがある一方、様々な制約もあることを、身をもって体験しました。大人になったからこそ自由にできることだってあるでしょうし、大人の方々がやりたいことを追求する場になったらいいなと思い、このコンセプトにしました。

▲「エクレアホール」内観
▲「エクレアホール」内観

そのコンセプトにのっとって、施設は自由な雰囲気を大切にしました。元々非常に頑丈なつくりで無機質な窓があるだけの空間だったので、重厚なドアを取り外して、緑や光を取り入れて開放感を意識しました。古い木材などを利用してドアや椅子を作り、肌ざわりのある空間にできたかなと思います。


──「エクレアホール」にサテライトオフィスを開設した企業があると伺いました。入居企業と地域間の交流はどのように生まれていますか?

都内に本社がある企業2社が入居しています。様々なイベントを通じて、地元との関わりができるよう工夫しているところです。また昨年秋から伊豆高原のジビエカレー店に毎週木曜日、出店いただいていますが、カレーを食べに地元の方が多数お越しくださるようになりました。カレーがきっかけとなり、エクレアホールでテレワーク頂ける方やお客様同士の交流も出てきて、改めて食べ物の持つパワーを実感しました。

▲評判のジビエカレー
▲評判のジビエカレー

ほかにも色々なイベントを企画しています。伊東市では2013年から「まくら投げ大会」というイベントが開催されているのですが、エクレアホールでその必勝講座を開きました。優勝経験のある方をお招きして講義を受けたあと、駐車場に敷いた50畳の畳の上で、デモンストレーションもしました。地元だけでなく都内からも30人ほどの参加者が集まり、マスコミから取材も受けました。必勝講座をあえてジビエカレーが出る日に設定したのもミソです。その日限定でカレーを無料提供したことで、参加者の輪も強まったのではないかと思います。エクレアホールにサテライトオフィスを開設しているIT企業さんも参加してくれて、自社の顔認証システムの体験会も同日、開いてもらいました。

▲まくら投げ大会必勝講座の様子
▲まくら投げ大会必勝講座の様子

──地域に合わせたユニークな取り組みをどんどん仕掛けていらっしゃるんですね。今後エクレアホールでやっていきたいことはありますか?

利用者の方々に施設内で天然温泉を楽しんでもらうようにしたいです!実現すれば、エクレアホールでより多くの方が交流できるようになると思います。たとえば近くの城ケ崎では夏にロッククライミングが盛んに行われるのですが、そうした方々に汗を流してもらう拠点にもできるでしょう。企業合宿の需要もより取り込めるようになります。ただ、温泉は権利金が高いため、なんらかの交付金が適用できないか検討しているところです。

便利で風土も食べ物もいい静岡で地元とつながるための秘訣を伝授!大切なのは…

──森田さんから見て、静岡県内でのサテライトオフィス開設のメリットや注意したほうがいい点はありますか?

メリットでいうと、やはり静岡県の特に東部は東京から非常に近いので、利便性は抜群にいいです。なにかあれば本社にすぐ戻れますし、気軽に来訪できる距離感は大きな利点だと思います。また静岡は風土も食べ物も最高なので、迷わずおすすめしたい場所ですね。

一方で、その土地で何をやるのかというビジョンは必須だと思います。景色の良いところに出先機関を置くだけだと、使わなくなってしまうので……。進出する以上は、その土地で事業開発することが目的なので、その点は会社の意思として明確に考えていただきたいと思います。私も地元の企業等とおつなぎすることはできますが、目的意識だけは作れません。


──事業を続けていくうえで、地元とのつながりというのはやはり必要でしょうか?

大都市圏の企業にとっては、新しい技術やサービスをリリースしたいときに、実証実験をリアルな場所で実施し、少しずつ大きくしていくのがセオリーです。そういった観点から言うと、新しいモノを試す際にはその場に寄り添うことが非常に重要です。どんな技術やサービスでも、最終的にはどれだけその地域に定着できたかが大切ですから。

静岡県は利便性や規模からいっても実証実験に最適な土地だと思います。逆に静岡側からいっても、伊豆などでは人口が減って地域の担い手が少なくなっているのも事実ですから、新しい技術やノウハウをもった人たちが来てくれるのはありがたい話だと思います。そういった点でもお互いが握手してウィンウィンの関係になることは大事ですね。


──人脈をつくるうえでのアドバイスをお願いします。

当然のことですが、やはり上から目線にならないことですね。その土地、その企業の背景をちゃんと理解したうえで優先させる意識が欠かせません。


──森田さんもエクレアホールでのジビエカレーの入店や枕投げ必勝講座など、その土地に合わせた形で企画していらっしゃいますね。

はい、その土地の温度を見ながら調整するようにしています。たとえば東京の大手町でバリバリ仕事をしている大企業が伊豆高原でも同じテンションにはならないですよね。ある程度縛られないフリーな状態で来るので、あえてちょっとゆるい形にしています。地元の方々も東京の大企業が来るって聞くと少し構えてしまうところがありますからね。ハードルを下げて「ちょっと枕投げしてみようよ」とか、そうした入り口にしたほうが先入観もなくなります。一緒に楽しい時間を共有した延長でビジネスでもつながりが生まれたら十分だと思います。
 

人口減少、技術の持て余し…プロが見つけた、静岡に転がるビジネスチャンス

▲講演で登壇される森田さん
▲講演で登壇される森田さん

──森田さんがアドバイザーとして静岡県内の市町と関わるなか、どのような課題を感じていますか?

まず東伊豆に関しては、景観も食べ物も人柄もとてもよく、熱川温泉という伊豆では一番泉質のいい温泉も出るなど、いいところがたくさんあります。ですがやはり人口減少に歯止めがかからないのは大きな課題です。それからアップダウンが非常に激しい地形ということもあり、移動に制約がかかっているんです。ここでは子育てしづらいと言ってファミリー層が別の地域に流出している現状もあります。高齢者にとっては買い物やコミュニケーションの機会が減ると認知機能が低下する恐れもありますし、悪いスパイラルに入りかねない可能性もあると感じます。

焼津の場合は、素晴らしい水産加工技術や食文化、観光名所がありながら、十分には活かしきれていないと思います。街全体としてBtoB企業が多いので、BtoC向けのサービスや視点が遅れをとっている印象があります。移住者の方が、伝統的な食材をおしゃれに加工して売り出す取り組みや、新しい店舗を開き始めていますが、そうした事例が出てくることを期待しています。

湖西は、自動車や電気製品関連の工場が多く集積しています。素晴らしい技術がある中小企業が多いのですが、大手企業の下請けを続けてきたため、世間的に存在を知られておらず、モノづくり集積の魅力をどう分かりやすく伝えていくかがカギではないかと考えているところです。景観としては江戸時代の新居の関所や運河、浜名湖など、独特のものが残っていますので、そうした特徴を活かしたテレワーク層の誘引にも取り組んでいきたいですね。


 ──そうした地域で求められている企業像とはどのようなものでしょうか?

地域課題は、ビジネスチャンスでもあると思います。例えば東伊豆の場合、人口が1万人強ということで、過疎型社会向けの実証実験をしたい企業には最適かと思います。私もモビリティとまちづくりを一体的に解決する取り組みを実施するので、一緒にやりたい方々がいたらうれしいですね。ほかの地域でも、地元に密着しつつ課題解決に向けて一緒に取り組んでくれる企業なら業種問わず大歓迎です!

地域のキーパーソン・森田さんに聞きました!

──静岡県で好きなグルメは? 
静岡はなんでもおいしいですが、稲取(東伊豆町)の肉チャーハンが大好きです。東伊豆町のアドバイザーもしているのですが、役場に通うたびに食べています。


──静岡県でおすすめの場所、あるいは行ってみたい場所は?
おすすめはエクレアホールの近くにある城ヶ崎海岸です。日の出が拝めて溶岩台地からパワーがもらえる気がします。明るいムードが好きです。


──オフタイムの過ごし方は? 
沼津のバッティングセンターでフルスイングしています。
最近電動自転車を買ったので、箱根まで往復しています。


静岡県サテライトオフィス情報発信ライター・まゆ

人脈づくりはもっとビジネスライクなものだと思っていました。土地に寄り添ってユニークな取り組みを発案してくれる森田さんのような存在は本当に頼もしいですね。
【まゆ プロフィール】