気軽に遊び・仕事をしてほしい! 「ワーキングスペースバガテル」の運営者・和田さんに聞く、河津町への想い

静岡県の伊豆半島東海岸に位置する河津町。早春に咲き乱れる河津桜が美しく、観光名所の一つとして多くの人に知られています。そんな観光カラーの強い河津町に2021年4月、コワーキングスペースがオープン。それも町が運営する美しい公園の真ん中にぽっかりとたたずんでいます。一体なぜこのような場所にコワーキングスペースを設けたのでしょうか?コワーキングスペースの運営者であり、河津町まちづくりアンバサダーである、和田 佳菜子(わだかなこ)さんに開設までのストーリー、そして和田さんの河津町との出会いや、町で働き暮らすことについてお話をうかがいました。
<取材対象者プロフィール>
河津町 「ワーキングスペースバガテル」運営
河津町まちづくりアンバサダー 和田 佳菜子さん
1988年生まれ、静岡県浜松市出身。大学卒業後、地元企業に就職。人材派遣・施設管理の営業・企画などに携わり仕事の面白さを学ぶ。2018年に河津町地域おこし協力隊に着任後、情報発信やイベント企画運営を担う。2021年に河津町から「河津町まちづくりアンバサダー」の委嘱を受けて“河津らしいまちづくり”のお手伝いをしている。
<施設概要>河津町 「ワーキングスペースバガテル」
https://www.nano-hana.online/
河津バガテル公園内で、かつてレストランとして利用されていた建物の2階部分をリノベーションし、2021年4月にコワーキングスペースとしてオープン。河津バガテル公園は、フランス・パリのバガテル公園の姉妹園であり、約6,000株のバラが咲き誇るフランス式庭園です。
バガテル公園を活性化したい 気軽に訪れる場所を目指して再生プロジェクトを開始
河津町の観光スポットとして名高い「河津バガテル公園」。その中心部に2021年4月、コワーキングスペースがオープンしました。色とりどりの花に囲まれた美しいロケーションで観光のついでにちょっとした仕事や作業ができると好評です。
それにしても一体なぜこのような場所でコワーキングスペースを始めたのでしょう。
「実はここは以前、レストランだったのですが、閉店して空き店舗となっていたスペースを生かしたいと考えたのが始まりです」と話す和田さん。
2021年に開園20周年を迎えた河津バガテル公園は、入園者数の減少に悩んでいました。当時、地域おこし協力隊に就任していた和田さんは、町役場の担当者と共に、公園に活気を取り戻すための再生プロジェクトを立ち上げます。

もともと浜松に暮らしていた和田さん。「同じ静岡県内にある他の町のことをもっと知りたい」と、河津町の地域おこし協力隊の募集を見て応募したそうです。
河津町へ移住してからは、主に観光PRの活動をしていましたが、任期の最後に携わったのが、河津バガテル公園の再生プロジェクトだったといいます。
そんな和田さんにはタイムリミットがありました。協力隊としての任期終了後の身の振り方を決めなくてはなりません。別の地に身を移す選択肢もありましたが、期限が近づくにつれ河津町への思いが溢れていきます。
「もっと河津町をよくしたい!プロジェクトを見届けたい!」
ついに彼女は、河津町で暮らしながら、個人事業主として独立することを決意。ワーキングスペースバガテルの運営を担うことになります。
「中途半端な仕事のまま、河津の町を去るのは嫌だったんです。“自分がここで何か事業をやりたい”というよりは、“この町をよくしたい”という自分の“思い”を一番大切にしました」
紆余曲折の開設ストーリー 多くの人の力を借りてオープンする
コワーキングスペース開設プロジェクトは、“一体何から手を付ければいいのか”という状態でスタートします。レストランとして使用していた建物は、当時の跡形が残ったまま。空き店舗として5年が経過していて、傷みのある場所も目につく状態です。
和田さんたちは、まず建物内の残置物を整理するところからスタートします。
といっても、再生プロジェクトは誰もが未経験。手探りで改修方法を探っていきます。
「片づけをしたり、備品を整理したりする中で、コワーキングスペースに使えそうなものもあるな、と感じました。試しに椅子を自分で補修してみたら上手くできたんです。『これなら自分達でもやり通せるかも』と思い、椅子やテーブルなどは自分たちで補修しました」と笑う和田さん。

できることは何でも自分たちでやる、企画からDIYまでこなす姿は、まさにスーパーウーマンのようです。
さらに、家具のリフォーム費用をクラウドファンディングで募ることにも挑戦。
「今まで、クラウドファンディングのような手段を河津町では利用したことがなかったんです。前例がなかったので、失敗したらどうしようと、とても緊張しましたね。でも、初めてだったからこそ周りの方から関心を多く持ってもらえたことは良かったです」と振り返る和田さん。
コツコツと努力する姿を見守る人たちから、次第に「資金の協力するよ」「補修は自分が担当しようか」などと差し伸べられる手の数が増えていきます。
そして2021年の4月、ついにオープンにこぎつけたのでした。
公園の中にあるコワーキングスペース 一体どんな使い方をしている?
オープン後、すでに多くの人が利用しているコワーキングスペースですが、いったいどのように営業をしているのでしょうか。日々の様子について聞いてみましょう。
「ここは平日、公園が開園している時間帯にオープンします。主にドロップイン(単発)での利用をしていただいていますね。席が空いていれば誰でも気軽に入っていただけます」と、和田さん。
その中で、和田さんは日々訪れる人のチェックインアウトの手続きや、交流イベントの実施をしています。
「もちろん普段はコワーキングスペースとして機能しているのですが、ここはイベントスペースとしても利用ができます。例えばトークイベントやワークショップ。使い方は自由ですので、皆さんの希望をお聞きしながらできることにお応えしています」
色鮮やかで香り立つ空間でのイベント……。想像するだけで心が躍ります。社外ミーティングや研修で利用するのもいいですね。いつもと違う空間で膝をつき合わせれば、思わぬアイデアも湧いてくることでしょう。

和田さんは施設の運営だけではなく、時には訪れる人へ河津町のおすすめスポットの案内もするそうです。
「町を訪れる人は土地柄、観光客がメインです。そのついでに、“あ、こんなところに仕事ができる場所があるのね!”と、利用してもらえています。ところが最近は、“観光ついで”ではなく、“ワーケーション”として、長期滞在する人も増えてきているんです。うれしいですね。
河津町には他にコワーキングスペースがないので、長期滞在中に当スペースを利用してくださっているんだと思います」
河津町でゆっくりと長期的にワーク・ライフを満喫する人は、住民の日々の営みにも興味を持ちます。こうした希望を持つ人のために和田さんは“ハブ”として間に入り、住民の方と積極的につなぐようにしています。
「観光だけでは知ることができない“町の面白い人”や“地域の人が集まる交流スポット”などの案内や紹介をしています。住んでいる人が伝える面白い情報というのは、“より日常”を意識してもらいやすいし、ひいては“この町で暮らし・働く”ということをイメージできるからです」
河津町にはポテンシャルがある サテライトオフィスにも移住にも適した地域の人の良さ
暮らす人、訪れる人にとって、町の水先案内人となる和田さん。想い一筋で河津町で暮らし始めましたが、実際に町のどんなところに惹かれたのでしょうか。
「河津町はなにより皆さん人が良くて。そこが一番の魅力です。一見内輪でのつながりが強そうに感じるけれど、河津町に引っ越してきた人のことや、別の町に住む人のことを『よそもん(よそもの)』と言いながらも、その『よそもん』をかいがいしくお世話をするのが好きな人たちばかり。みんないい意味でお節介さんなんです」とくすっと笑う和田さん。

たとえば困っていることがあれば一緒についてきてくれたり、ちゃんと食べているか心配になれば、時にはおすそ分けをしてくれたりもするそう。
「一見ぶっきらぼうなようでいながら、温かさがあるんです。不器用なんですよね」と和田さんは言います。
「ちょっとアピールがうまくなくて。自分たちの町のよさについても上手に伝えられていないんですよ。町や観光PRの面でも同様に感じています」
人の好さや観光立地としての良さなど、移住やオフィス開設地としてのポテンシャルがありつつも、その表現方法は今後伸ばしていきたいところだそうです。
そのために、和田さんはこんな点を変えていきたいと話してくれました。
「町は観光色が強いため、サテライトオフィスの開設という点では、インフラ面の整備がもっと必要だと感じています。その点が充実するともっと働きやすく、暮らしやすくなるのではないかと思いますね」
現在和田さんは、コワーキングスペースの運営に限らず、町内の様々な活動にかかわっています。次なる産業の芽を育てるべく、食用バラの6次産業化(栽培、商品開発や販売)などにも着手しているそうです。

このように様々な産業が育つとインフラ面の充実とともに、さらに働き・暮らしやすくなり、観光の町を一歩抜きん出ることができるのかもしれません。
新しい町で暮らし、仕事をすることはとても勇気のいることです。簡単には決断しにくいことでしょう。そして、その地域の人たちと良好な関係を作っていくことが大切です。
先輩である和田さんは、地域の人たちと関係を作るために意識していることをこう話してくれました。
「とにかく臆することなく人と接することです。失敗してもまた次!そんなことが起きるの!?とトラブルやハプニングすらも楽しむ。それを受け入れてくれる土壌が河津町にはあると思っています。挑戦してみたいことがあったら相談してください。いつでも待っています」
和田さんに聞きました!
――静岡県の好きなグルメを教えてください!
餃子です!地元浜松の『浜松餃子』は有名ですが、河津町でも町中華やスーパーなどで餃子を食べていて、その味の違いを楽しんでいます。先日久しぶりに帰省をしたら、浜松餃子の店舗も増えていたので行ってみたいと思ってたところです。
――静岡県内のおすすめ場所や行ってみたい場所は?
河津バガテル公園はもちろんおすすめです(笑)
帰省する際に、河津–浜松間をドライブすることが好きです。時間帯と場所によって変化する海のある景色が見られたり、富士山が見えたり、道中にある気になるお店に寄ったり……。静岡県を満喫する旅の感覚が味わえます。コロナ禍で少し出控えていた間に新たにオープンしたスポットやカフェが沢山あるので、お出かけの機会を増やしていきたいです。
――オフタイムには何をして過ごしていますか?
読書など、まったりと過ごすことも多いですが、最近はジョギングを始めました。
1日お休みの日は、ドライブに出かけます。日頃、インスタグラムなどでチェックして気になっていたスポットに訪れます。今度、友人とヌン活(アフタヌーンティを楽しむ活動)の計画を立てていてそれを楽しみに仕事を頑張っています。
静岡県サテライトオフィス情報発信ライター・永見 薫(ながみ かおる)
好奇心旺盛で、終始軽やかにお話をされた和田さん。人との関わりがとても好きなんだなと、心から感じられる時間でした。生まれ故郷のことはもちろん、今暮らす河津町のことをよくしたいという熱い思いがあり、静岡への愛がヒシヒシと伝わってきました。
街が活性化するときというのは、そこに必ずキーパーソンがいます。そして人の交流が密である地域が発展していく印象があります。和田さんのような方がいらっしゃると町はますます活性化していくでしょうし、彼女に惹かれた人が街へ集まるのではないかと期待しています。
【永見 薫プロフィール】
河津町について

伊豆半島の東海岸に位置し、河津桜発祥の地として知られるまち、“かわづ”です。
基幹産業である観光業は、2月の河津桜まつりはもちろんのこと、山・川・海の三拍子そろった豊富な自然が魅せる四季折々の景色やアクティビティが楽しめ、食・温泉も満喫できます。
一次産業は、わさび、いちご、柑橘、花卉などの農作物のほか、漁業も盛んであり、6次産業化も進めていくことで活性化を図っていきたいと考えております。
令和3年度には国から過疎地域指定を受け、人口減少や生産性が顕著になっている地域ですが、第5次河津町総合計画の将来像である「住みたい・来たいまち河津」を目指し、すべての町民が快適な生活を営みが続くまちづくりを進めていきます。