▲川根本町サテライトオフィスでの集合写真
▲川根本町サテライトオフィスでの集合写真

インドに本社を置くIT企業「ゾーホーコーポレーション」。その子会社「ゾーホージャパン」は2001年に設立し、IT運用管理ソフトウェア「ManageEngine」や企業のIT化と業務効率化を図るクラウド型ソリューション「Zoho」など、使いやすい製品をさまざまなビジネスニーズに合わせて提供しています。2017年に川根本町にサテライトオフィスを置くための実証実験をした後、2018年4月に正式に川根本町サテライトオフィスを開設しました。
2021年に当サイトで同社への初めての取材を実施。インドのIT企業が「秘境の街」とも呼ばれる川根本町に進出し、地域でさまざまな活動に取り組む様子に注目が集まりました。
あれから4年。これまでの軌跡と現在地について、取材しました。

会社概要
ゾーホージャパン株式会社
HP https://www.zoho.co.jp

・事業内容
企業向けIT管理製品「ManageEngine」、クラウド型ソリューション「Zoho」の販売・サポート

・本社所在地
神奈川県横浜市西区みなとみらい3-6-1 みなとみらいセンタービル13階
・サテライトオフィス所在地
静岡県榛原郡川根本町千頭990-5

インタビュー対象者紹介
・管理総括部総務部 新川 靖文(しんかわ やすふみ)さん
長崎県生まれ、広島県育ちで、京都の大学へ進学し、就職後は転勤により名古屋市・長崎市・横浜市を経て東京都町田市で過ごす。国内外のメーカーで営業職を経験の後、ゾーホージャパン前社長に誘われ、2018年4月に同社へ転職。同年7月より川根本町サテライトオフィス責任者として、町内に大きな戸建てを借りて単身赴任。川根本町では、神楽の笛、太鼓、木こり、カヌーなどを体験したり、裏庭で農作業をしたりして楽しんでいる。

【前回記事のURL】
住民の温かさが企業の誘致を成功に導いた!インドの世界的企業が人口6,500人の小さな町にオフィスを開設

地域と共に歩む−多国籍チームの変化と地域貢献の今

▲川根本町でのイベントの様子
▲川根本町でのイベントの様子

――前回2021年の取材時には、川根本町のサテライトオフィスには日本人4人、インド人6人が在籍し、日本人はコールセンター業務、インド人は本社の技術サポートをしていたと思います。現在までのサテライトオフィスの変化や現状を教えてください。

多い時にはインド人が6人の時もありましたが現在はインド人4人、日本人は私を入れて2人の合計6人が在籍しています。現在のインドメンバーは、日本語が上手なので直接お客様をサポートする仕事をしています。お客様の疑問に答えたり、立ち上げ支援をしたりしています。
直接お客様を訪問する機会も増えたため、2人のインドメンバーは配置転換で横浜本社に勤務しています。

8月にインド本社に行って驚いたのは、日本語を話せるメンバーが20人ほどいたということです。インド本社が日本のマーケットを重視しているという印象を受けました。今度はその中のメンバーが来日すると思います。

――以前はITサマーキャンプやカレー教室などを川根本町で実施していました。その後、地域での取り組みに変化はありましたでしょうか?

当時行っていた地域での取り組みなどは継続しています。
ジュンというインド人スタッフは町のイベントに積極的に参加し、この地域で彼のことを知らない人はいないというくらい人気者でした。彼は多くのイベントでラップを披露するなどして地域を盛り上げていました。

昨年8月に専属のインド人シェフは交代しましたが、地域の方向けにカレー教室を開きました。
学校の家庭科室で実施したので、小・中学生や先生も入ってきてわいわい楽しく行うことができました。開設当初は、ゾーホーが何をしている会社かわからないという声もありましたが、現在では社名を覚えてもらい、インド人スタッフに対する理解もしてもらえています。

川根本町の高校生向けのITサマーキャンプも継続しています。昨年8月に行った3回目のITサマーキャンプには、5人の高校生が参加しました。1週間、インド本社に併設する「ゾーホースクールズ」という企業内学校で200人ほどのインド人の生徒と一緒に授業を受けてもらいました。プログラミングや英語、デザインの勉強などをしています。
川根本町は少子高齢化が進んでいて、高校がなくなるとさらに高齢化が進行してしまい、町の存続にも影響が出る可能性があります。そのようなことにならないように、ゾーホーとしてできる限りのことをしたいと考えています。
このITサマーキャンプは、他の高校にはない特色になっており、今後も続けていきたいと思います。

働く場所はどう選ぶ?−川根本町と静岡、それぞれの強みと課題

▲川根本町サテライトオフィスの中で働くスタッフ
▲川根本町サテライトオフィスの中で働くスタッフ

――静岡県の良いところや悪いところは感じたことがありますか?

静岡県は雪がなく、暖かくて気候が良いところが気に入っています。また、静岡駅は全国各地へのアクセス性が高く、イベントで現地訪問するメンバーにとって、大変便利です。

一方、川根本町のサテライトオフィスは景色も素晴らしく非常にアットホームな雰囲気ですが、少し交通の便が良くないところがあります。


――静岡県での企業との出会いはありますか?

ゾーホーに興味を持っていただく機会も増えているので、静岡県でもビジネスパートナーやお客様は増えています。
静岡オフィスは採用を強化していますが、静岡には外資系企業が少ないということもあり、首都圏と比べて認知度が高いと思います。
最近では、ご主人がインド人、奥様が日本人というご夫婦で、奥様が当社に入社して活躍しているケースもあります。県内にインド系企業が少ないこともあり、当社を知ってもらえたようです。
静岡県内でのテレビ番組だけでなく全国ネットの番組にも紹介していただき、認知が広がっている感触もあります。

IT×地方創生−サテライトオフィスで広がるインド系コミュニティーの期待

▲サテライトオフィスで働く新川さん
▲サテライトオフィスで働く新川さん

――2023年8月に静岡駅近くにも新たにオフィスを構えました。

現在、静岡オフィスには、営業、サポート、マーケティングなどさまざまな役割をもつ15人のメンバーが常駐しており、今後も拡大する予定です。

静岡オフィスは交通の便が良く、採用面でのメリットが大きいと感じています。県外出身者もいますが、静岡県内出身のスタッフが多く在籍しています。静岡では数少ない外資系企業ということで、雇用につながっていると思います。

――現在、川根本町で他にサテライトオフィスを置く会社はありますか?

最近、起業して東京から川根本町に家族と一緒に移住してきた方はおられますが、サテライトオフィスを開設された会社はないと思います。

――今後、川根本町に進出してきてほしい業種の会社はありますか?

インド系のIT企業が川根本町に進出して来てくれたら、インド料理が食べられる町として知られるようになるかもしれません。
また、インドにあるゾーホースクールズの分校やクリケット球場を、廃校を活用して川根本町に作るのも面白いと思います。そういう場所があれば、インド企業も進出しやすいと思います。

――お伺いしていると町や住民と良好な関係を築けているようですが、5年間で特に問題になるようなことはなかったでしょうか?

問題になるようなことは特になかったです。
町で人気者だったインドメンバーがインドに帰国する時の送別会には100人近い人が公民館に集まるなど、町の方とは良好な関係だと思います。

――サテライトオフィス検討している方へのメッセージやアドバイスがあればお願いします。

非常に気候が良く、静岡県はどこもお薦めできます。
温暖な気候もあって、人が優しいことも静岡県の良さだと思います。地元の人たちからインド人スタッフへの手厚い支援も受けているので、とても良い町だと感じています。ぜひ静岡に進出してきてください。

ゾーホージャパン新川さんに聞きました!

▲カヌーを楽しむインド人スタッフ
▲カヌーを楽しむインド人スタッフ

①静岡県の好きなグルメは?
静岡おでんが好きです。店は開拓中ですが、青葉横丁にも行きました。
最近、静岡オフィスの立ち上げで静岡駅周辺の店を回っています。

②静岡県でおすすめor行ってみたい場所は?
大井川鉄道・井川線の方にドライブをしに行くことが多いです。
奥大井湖上駅の景色がテレビでも話題になっています。ダム湖があり、カヌーで湖上駅まで行くツアーもあり、3、4回参加しました。町の主催ということもあり、半日1500円程度と格安で遊べます。

③オフタイムの過ごし方は?
現在の自宅が畑つきの貸家なので、自分で耕して野菜づくりを楽しんでいます。

静岡県サテライトオフィス情報発信ライター・磯部洋樹(いそべひろき)

川根本町のサテライトオフィスの現状や変化について、とても興味深く感じました。日本人とインド人スタッフが協力しながら業務を進めている様子や、将来を見据えたインド本社での日本語教育の成果には驚きました。特に、インド人スタッフが日本語で直接顧客対応をできるようになっていることは、文化や言語の壁を越えた強い信頼関係を感じます。また、ITサマーキャンプやカレー教室などの地域との交流が続いていることも素晴らしいと思いました。地元の人たちとのつながりが強まることで、単なる企業活動を超えた地域貢献ができていることに感心しました。
静岡オフィスの開設や採用の強化など、企業の成長を感じる一方で、川根本町ならではの課題も見えてきます。交通の便や地域に住む外国人スタッフへの理解など、今後解決すべきことが発生してくる可能性もあります。文化の違いによる誤解が生じやすい問題ですが、最終的には円満に解決されたことを期待しています。
地域と企業が共に成長していくために、同社が積極的に地域との関係を築き、未来を見据えた取り組みを続けている姿勢に共感します。インド企業の誘致や「ゾーホースクールズ」の分校設立など、新たな挑戦もぜひ成功してほしいです。