地方でのサテライトオフィス開設を検討している県外企業の方を県内にお招きし、コワーキングスペース等の視察や地域企業等との交流を通じて、静岡でのオフィス開設を検討できる「静岡県内視察ツアー」が開催されました。
参加申し込みを頂いた企業の要望に応じて行程を作成するオーダーメイド型で実施し、参加者は、産業や地域資源など各市の特性や地域課題についての現状を知り、地域に根ざした事業展開を見据えたサテライトオフィス開設の可能性を探りました。
今回は、静岡県の伊豆エリアにある伊東市と伊豆市で開催された視察ツアーをレポートします。

ツアー概要

1日日(伊東市)
〜交流〜
伊東市役所(企画課)
〜食事〜
 ・レガーロテッラ
〜視察・交流〜
 ・コワーキングスペース「エクレアホール
〜視察〜
 ・コワーキングスペース「Vacation Office 伊豆高原駅

2日目(伊豆市)
〜交流〜
 ・伊豆市役所(観光商工課)
〜食事〜
 ・ささの
〜視察〜
 ・伊豆市サテライトオフィス 狩野ベース
〜交流〜
 ・静岡大学東部サテライト(博士 内山智尋氏)
 ・伊豆市商工会(高橋正樹氏)
〜視察〜
 ・コワーキングスペース「巣素(すす)」
 ・IT交流施設「土肥集学校


伊豆半島のほぼ中央に位置する伊東市と伊豆市。

伊東市は東側を海、西側を山に囲まれた自然豊かな市です。
温泉が湧き出る観光地として栄えたほか、伊豆高原周辺には別荘地が広がり、美術館や博物館も多く点在します。首都圏へのアクセス性も良く、移住検討者から注目される都市の一つです。

伊豆市は伊東市と山を挟んで隣り合わせの市で、西側を駿河湾に面します。
伊豆市も温泉地として有名で、観光スポットが点在します。9世紀に開かれた修善寺など歴史・文化にも所縁の深い地域です。東京2020オリンピック・パラリンピックの自転車競技も行われました。自転車愛好家が世界から集まる「自転車のまち」として世界に発信しています。

参加者

アイビスジャパン株式会社
 取締役 営業部部長 鈴木一文(すずきかずふみ)氏
 営業部 桑原和良(くわばらかずよし)氏

・本社所在地:東京都豊島区南大塚2-45-8 ニッセイ大塚駅前ビル8F
・事業内容:Web系アプリケーション開発、クライアント/サーバシステム系開発、コンサルティング、システムサポートなど
・会社HP:https://www.ibis-japan.co.jp

静岡県内の視察ツアーに参加した目的は?

▲視察ツアーにて自社の説明をするアイビスジャパン桑原氏(左)と鈴木氏(右)
▲視察ツアーにて自社の説明をするアイビスジャパン桑原氏(左)と鈴木氏(右)

―今回の視察ツアーに参加した目的を教えてください。

桑原氏:
弊社は東京に本社を置き、大阪に拠点があります。
コロナ禍を経験し、現在では社員の7割がテレワークに移行してリモート化が進んでいます。
また業界全体として、IT技術者が東京など首都圏で不足している背景もあります。一方で、社内にUターン希望者もいることから、今後のことを考えて地方都市へのサテライトオフィスの開設を検討しています。
具体的には、静岡、仙台、北海道が候補地として上がっています。


―なぜ静岡県でのサテライトオフィスの開設を考えているのでしょうか?

桑原氏:
まずは「雇用のための拠点づくり」という役割が大きいです。地方の学生の雇用につなげることと、Uターン実績を作ることを形にしたいと思います。
社内のテレワーク導入も進んでおり、従業員の多様な働き方にも対応していく環境を作りたいと考えています。

特に静岡県東部エリアは都内からのアクセス性が良いという利点があります。緊急時のリスク対応という点で、すぐに東京本社から駆け付けることができるという安心感があります。

また、現在裾野市にトヨタ自動車が建設中の「ウーブン・シティ」も近く、私たちも最先端技術を学べる期待感もあります。

鈴木氏:
Uターンに限らず、最近では静岡県へのIターンが増えていると聞いています。
大学生に自社をアピールして雇用につなげられればと考えています。


―サテライトオフィス開設の検討段階としてはどの程度でしょうか?

鈴木氏:
私自身が函南町在住ということもあり、すでに都内とのアクセス性の良さは実証済みです。静岡県であれば、東京に近い三島から東方面で検討をしたいと思います。
今年中にはサテライトオフィスを設置する都市を決めて、来年には開設する計画です。もし先にサテライトオフィスで働く人員が決まれば、計画より早まる可能性もあります。

単独で物件を借りてオフィスを開設するのではなく、身動きが取りやすく、地域・企業とのコミュニケーションが図れるコワーキングスペースでの開設を考えています。

弊社の平均年齢は33歳で若い従業員も多く、伊豆のことを知らない従業員も多くいます。サテライトオフィスが設置できれば、定期的に伊豆に集まって地方の良さを実感してもらったり、従業員同士の交流を図ってもらったりする役割も期待しています。

視察や交流会を通して感じた魅力や収穫は?

▲コワーキングスペース「エクレアホール」での視察の様子
▲コワーキングスペース「エクレアホール」での視察の様子

―実際にツアーに参加した感想を教えてください。

桑原氏:
実際に今回の視察ツアーに参加するまでは、伊豆エリアは次世代産業への取り組みが遅れているイメージがありましたが、参加して行政や企業の方から話を聞いてみると、産学官連携や先進技術の実証実験など積極的に行われていることがわかりました。

一方で地域課題は多く、サテライトオフィスを設置して事業を始めたとき、自社にとってのやりがいがありそうなイメージを持ちました。弊社はこれまで、BtoBtoCがほとんどで、直接エンドユーザーと接する機会がありませんでした。エンドユーザーの声を直接聞くことができれば、従業員にとってもサテライトオフィスで仕事をするやりがいにつながることが期待できそうです。ビジネスとしても大きな可能性が転がっていると感じました。


―ツアーを通して特に印象的だったことはありますか?

桑原氏:
伊東市と伊豆市を視察しましたが、全体的に弊社の事業展開の可能性を感じることができ、サテライトオフィスを設置するメリットがあると思いました。

伊東市の「エクレアホール」はアクセス性と周辺環境の良さを実感しました。
サテライトオフィスを設置するに当たっての行政サポートもしっかりしています。開設するための補助金だけでなく、視察の補助金も用意されています。
設置の検討や準備段階でもお金が掛かってしまうので、このような補助金があることは非常にありがたいです。

【伊東市】サテライトオフィス等支援事業補助金


伊豆市で視察した「狩野ベース」内にある「静岡大学東部サテライト」は、地域の企業や住民、大学の学生とのつながりを大切にした取り組みをしていることが印象的でした。
学生とのつながりは、地域に雇用を生み出すために欠かせないことなので、弊社にとっても採用につなげられる取り組みができればと思いました。

コワーキングスペース「巣素」は宿泊もできる施設で、空間やコンセプトも素晴らしいです。このような場所で従業員同士の交流を図ることができるイメージを持てました。

弊社はIT企業なので、セキュリティー面と従業員の働きやすさを重視しています。
長時間パソコンに向かっていても疲れないように、和室よりもデスク設備があるなど、コワーキングスペースを選ぶ際には重視したいポイントです。

地元企業・団体との交流で盛り上がった話題はコレ!

▲「狩野ベース」での視察の様子
▲「狩野ベース」での視察の様子

静岡大学東部サテライト 内山智尋(うちやまちひろ)氏
・所在地:静岡県伊豆市青羽根65-1
・HP:https://future.shizuoka.ac.jp/sanyojuku/

「静岡大学東部サテライト」は、地域課題に答える役割と地域連携に関わる目的で2020年7月に「狩野ベース」内に開設されました。
東部サテライトには、「協働のパートナーを見つける場」「学びの場」「情報を得る場・仲間に出会う場」という3つの機能を果たすために、静岡大学の教職員が常駐し、人や企業、プロジェクト同士を結ぶこと、市民や小中高生向けに講座を開くこと、新たな出会いや自由な対話を生み出すことに取り組んでいます。


―地域の中高生や企業と連携したプロジェクトについて

内山氏から東部サテライトを拠点として取り組んでいるプロジェクトや活動が紹介されました。
「2030松崎プロジェクト」は、伊豆半島西側に位置する松崎町の中高生が静岡大学の教職員や学生、企業、行政、住民と一緒に、「松崎町の将来を考え、行動する」まちづくりプロジェクトです。
地域課題である荒廃農地(耕作放棄地)や空き家活用、地域資源の活用、高齢者の住みやすいまちづくりなどのテーマを掲げ、ワークショップやチーム活動を通して課題解決のための取り組みを進めています。

「伊豆未来デザインラボ」は、狩野ベースに入居する静岡大学、静岡鉄道、スルガ銀行のほか、地域の企業が参加して月1回のペースで情報交換会を開いています。ここをプラットフォームにし、共同プロジェクトや新規事業・新サービスの開発につなげていくことが狙いだそうです。

このほか内山氏から、伊豆市にある高校との連携として探究学習の授業を静岡大学の学生がサポートし、プレゼンテーションのレクチャーを行ったという話もありました。
また、伊豆半島地域の高校生を対象とした探究サミットを開催するなど、継続的な連携を進める計画もあるとのことでした。

このような取り組みを聞いた鈴木氏は「東部サテライトのプロジェクトや活動に自社も参加することで、将来的に採用につなげられるのでは」という期待を抱いていました。また、内山氏の研究テーマの一つ「地域福祉」の話題で、高齢化が進む伊豆エリアでもロボット介護の実証実験が始まっている事例も紹介され、介護業界におけるIT化についても鈴木氏と桑原氏は興味を持たれている様子でした。

伊豆市商工会 経営指導員 高橋正樹(たかはしまさき)氏
・所在地:静岡県伊豆市修善寺838-1
・HP:https://izucci.jp

―伊豆エリアのIT化の現状と可能性について

高橋氏からは伊豆エリアのIT事情について現状報告がありました。キャッシュレス決済や在庫管理システムの導入など、少しずつ進んではいるものの、当面の課題は「ITの底上げ」とのことです。
地域通貨の導入について話題が上がっており、導入されれば事業の広がりが見えることに期待を抱いている一方で、その前段階のデジタル化を進める共通理解が必要だという見解でした。

商工会には、宿泊施設からの受発注や予約管理に関するデジタル化の相談が増えているそうです。デジタル化やDX化に関するアドバイスは、提携しているITコーディネーターと連携しており、ITコーディネーターとアイビスジャパン様が連携することで、事業者の課題解決につなげられるのでは、という話もありました。鈴木氏もそこからビジネスに発展できる可能性を感じていました。

静岡県サテライトオフィス情報発信ライター・磯部洋樹(いそべひろき)

今回視察ツアーに参加したアイビスジャパン様は、サテライトオフィスを開設する目的やスケジュールをはっきり持って参加しており、事業発展や雇用の確保に最適な「場所選び」「施設選び」の観点が大きかった印象です。
特に、その地域で連携して活動できる企業や行政のサポートがあることで、サテライトオフィスのスムーズな立ち上げにつなげることができ、地域にとってもそのサテライトオフィスの存在意義が高まることになると思います。
引き続きアイビスジャパン様の取り組みには注目して参ります。
【磯部洋樹プロフィール】