地方でのサテライトオフィス開設を検討している県外企業の方を県内にお招きし、コワーキングスペース等の視察や地域企業等との交流を通じて、静岡でのオフィス開設を検討できる「静岡県内視察ツアー」が開催されました。
参加申し込みを頂いた企業の要望に応じて行程を作成するオーダーメイド型で実施し、参加者は、産業や地域資源など各市の特性や地域課題についての現状を知り、地域に根ざした事業展開を見据えたサテライトオフィス開設の可能性を探りました。
今回は、静岡県の東部にある御殿場市と富士市、三島市で開催された視察ツアーの1日目についてレポートします。

ツアー概要

1日目(御殿場市)
〜交流〜
 ・リージョンポート合同会社(代表社員 田近義博氏)
 ・御殿場市役所(商工振興課・魅力発信課)
 ・時之栖ツアーズ株式会社(シニアマネージャー 加藤弘一朗氏)
 ・御殿場高原ワイン株式会社(代表取締役社長 門倉栄氏)
〜宿泊〜
 ・御殿場高原ホテル

2日目(富士市・三島市)
〜交流〜
 ・富士市役所(産業政策課)
〜食事〜
 ・金時(富士市)
〜視察〜
 ・コワーキングスペースWORX富士(富士市)

〜視察〜
 ・三嶋大社周辺(三島市)
〜交流〜
 ・三島市役所(企業立地推進課、財政課)


静岡県東部は、富士山や箱根、駿河湾に囲まれた自然豊かな地域です。
御殿場市は富士山周辺や箱根観光への交通拠点となっており、年間を通してアウトレット施設などへの観光客が多く訪れる都市です。
富士市は豊富な緑と地下水に恵まれ、古くから製紙産業が盛んで「紙のまち」として発展してきました。
三島市は三嶋大社、楽寿園など歴史・文化、自然が融和する都市です。富士山の伏流水がいたるところで湧き出ており、「水の郷百選」にも選ばれた水の都でもあります。

いずれの都市も、高速道路や東海道新幹線などの交通ネットワークが充実しており、首都圏からのアクセス性の良さから、工場や物流施設を多く誘致してきました。最近では、首都圏のオフィスに新幹線通勤する人やファミリーで移住する人も増え、新しい暮らし方・働き方が生まれています。

参加者

株式会社マクアケ
 代表取締役社長 中山亮太郎(なかやま りょうたろう)氏

・本社所在地:東京都渋谷区渋谷2-16-1 Daiwa渋谷宮益坂ビル10F
・事業内容:各種支援サービスの運営・製品プロデュース支援事業、応援購入サービス「Makuake」の運営
・会社HP:https://www.makuake.co.jp

静岡県内の視察ツアーに参加した目的は?

▲マクアケ・中山社長(右)
▲マクアケ・中山社長(右)

―今回の視察ツアーに参加した目的を教えてください。

中山氏:
当社は東京本社のほか、全国各地に拠点を設けています。静岡県東部のエリアは、東京本社と名古屋拠点の間にあります。名古屋拠点がこのエリアを管轄していますが、距離もあって私たちが知らないことが多いエリアです。
一方で、静岡県は「体験」をテーマにした観光資源が多く、今後も増えていくことが期待されます。当社が運営するサイト「Makuake」は、新商品や新サービスを応援購入できるサイトです。今後、体験系のメニューを充実させていきたい「Makuake」としても、静岡は魅力的な地域だなと思います。
この地域にどのような可能性があるか、また各自治体の取り組みや産業の特徴など、直接お話を聞ける機会にできればと思って参加しました。

最近「Makuake」では、アウトドアの新製品が増えています。そのアウトドア製品が購入され、実際に使われているのは、静岡県のキャンプ場というケースが実は多いんです。また、以前に訪れたことがある富士宮市の「ふもとっぱら」でパラグライダーをしている光景を目にしたこともあり、静岡県は自然が豊かで、魅力的な体験ができるエリアだなと思っていました。こういった自然を味わえるアクティビティーの先行チケット販売などでもMakuakeが手伝える部分は大きいと思っています。

今日明日すぐにサテライトオフィスを構えるという段階ではありませんが、まずはその前段階として、地域の企業・団体、行政と連動した体験サービスの可能性を探りたいと考えて参加しました。


視察や交流会を通して感じた魅力や収穫は?

―実際にツアーに参加した感想を教えてください。

中山氏:
各地域の産業の解像度が上がったことが良かったです。各地域の企業数や税収など数字だけではわからないことが、実際に現地の人と話せたことによってイメージがつきました。
当社の事業は、新商品や新サービスの後押しをすることですので、地域でのマーケティング展開の道筋が見えてきたことが良かった点です。

―ツアーを通して特に印象的だったことは?

リージョンポートさんの取り組みです。野外音楽フェス「ACO CHiLL CAMP」や富士山トレイルランニング大会「ウルトラトレイルマウントフジ」などのイベント運営に携わっているお話しを伺いました。前例のない新しいことにチャレンジするのは大変そうですが、一人のアクティブな人がいれば、大きなイベントを開催することができます。
最後は人に帰着すると思うので、出る杭を守って育てるということを地域みんなですることは本当に大事だなと実感しました。

―一方で課題と感じたことはありますか?

静岡東部は栄えるのが早く、産業の歴史が長いという特徴があると思います。
昭和の拡大期、平成の加速期がありましたが、消費者の思考やマーケットは変化してきています。令和に入り、平成までの成功体験が通用しなくなってきている中で、アップデートが必要と感じる部分はありました。

―御社が静岡県にサテライトオフィスを開設する可能性は?

弊社が北陸に拠点を作ったときのように、サテライトオフィスを作る前に、地域の事業者と一緒に新たな商品づくりやサービスづくりなどで地域を盛り上げ、走り出せる体制をつくることができれば、開設する未来が見えそうだと思いました。
各市には必ず一人二人はいるだろうイノベーターやチャレンジャーのコミュニティーと手を取り合っていければ、拠点を構えやすくなりますし、静岡にはそのポテンシャルがあると思います。
人を呼び込める伸び代がある地域だと感じました。


地元企業との交流で盛り上がった話題はコレ!

時之栖ツアーズ株式会社
 シニアマネージャー 加藤弘一朗(かとう こういちろう)氏

・本社所在地:静岡県御殿場市神山719
・事業内容:旅行企画全般、自社主催旅行商品の企画および販売、国内旅行の取り扱い
・会社HP:https://www.tokinosumikatours.com

時之栖グループは、リゾート型複合施設を中心とするホテル事業・温浴事業・レストラン事業・食品加工販売事業・スポーツ施設運営事業などの16事業36施設から成ります。時之栖ツアーズはその旅行部門を担当するグループ会社です。
時之栖ツアーズの加藤氏との交流で盛り上がった話題をピックアップしてご紹介します。



―サッカービジネス、スポーツビジネスについて

2022年に亡くなった株式会社時之栖の会長・庄司清和さんは、スポーツ事業にも力を入れてこられました。特にサッカーグラウンドの整備に注力。時之栖では現在、サッカーグラウンド18面とフットサルコート2面を御殿場市・裾野市に所有しています。
「サッカー合宿の聖地」と言われ、サッカー日本代表選手から高校サッカー部、少年団まで多くのチームが年間を通して利用しています。最近では、海外チームの合宿地にも選ばれているそうです。合宿は滞在期間も長く、同社の宿泊事業にも貢献しているとのことです。
充実した施設と周辺の自然環境を生かし、ラグビーや陸上競技、駅伝、自転車競技など、他のスポーツ競技への展開も始まっており、スポーツビジネスの拡大にさらなる可能性が期待されます。

中山氏自身がサッカー経験者であること、周囲の経営者がスポーツビジネスを始めていることから、スポーツと地域との結びつきには強い関心を持っているとのことです。
特にサッカーは地域経済との結びつきが強く、ドイツでは地元サッカーチームが地域のボランティア活動を行うことで、行政予算の節約に一役買った事例も紹介されました。
全国から強豪チームが集まるという時之栖の特色を生かした、新たなビジネスの展開の可能性を感じていました。

▲時之栖のサッカーグラウンド
▲時之栖のサッカーグラウンド

―「ケモコン」イベントの開催

Kemocon(ケモコン)とは、ケモノ系の着ぐるみを着て楽しむイベントで、「Kemono Convention」の略称です。
御殿場高原時之栖で2022年10月、「Kemocon15“修学旅行”」が開かれました。ハロウィンイベントを兼ねて開催し、全国から「ケモナー」と呼ばれるケモノの着ぐるみを着た人たちが集まり、交流や撮影会、パフォーマンスを楽しみました。

中山氏はケモコンの事例から、「ニッチな領域でディープかつハイクオリティーな物やサービスに人が集まる時代になっている」とし、時之栖がこのような機会を提供できることを積極的に発信することで、他の団体やコミュニティーでの利用にも広がる可能性があるのでは、と期待を膨らませました。
面白いイベントは、イベントと宿泊をセットにした特別なプランを企画し、Makuakeを使って限定数を販売するイメージも共有されました。

▲時之栖でのケモコンイベント
▲時之栖でのケモコンイベント

―「実証実験リゾート」案について

加藤氏から、広大な敷地や充実した設備を生かして時之栖を「実証実験リゾート」にする構想が話されました。過去には、自動車メーカーが自動運転の実証実験をした実績もあるとのことです。
時之栖が運営する御殿場高原ホテルには、宿泊施設だけでなくコワーキングスペースや会議室など充実したオフサイトとしての設備もあり、「オフサイトとリアル」を兼ね備えた実証実験リゾートへの発展の可能性が期待されます。

首都圏からのアクセス性の良さも他地域にはない優位性があり、都内のベンチャー企業にとっては使いやすい環境にあるとのことでした。


―「eスポーツ」「Mリーグ」について

「eスポーツ(エレクトロニック・スポーツ)」、麻雀プロリーグ戦「Mリーグ」の話題でも盛り上がりました。Mリーグは、麻雀のプロスポーツ化を目的に2018年に発足。中山氏の出身・サイバーエージェント社長の藤田晋さんがチェアマンを務めています。

時之栖でも昨年のワーケーション企画にて、eスポーツを通じて、都内からの退屈な移動時間を高付加価値化な体験に変えてしまおう!という実証実験を行っており、今後の社会実装に向けて新しい可能性を感じているということでした。

静岡県サテライトオフィス情報発信ライター・磯部洋樹(いそべひろき)

都内の成長企業が静岡県への進出をどのように考えているのか気になっていましたが、インタビューを通して、サテライトオフィスを構えることでいかにビジネスの発展をイメージしてもらえるかが大切だと気付きました。
各地域にいる同世代のキーマンとの継続的な交流を通して、一緒に事業でこの地域の発展に貢献できることを創造していく機会提供の必要性を感じました。
【磯部洋樹プロフィール】