東京と横浜という大都市に本社を構える、ソフトウェア開発の㈱システム・サイエンス。2023年9月より、新たに静岡オフィス(静岡市)を開設しました。

同社はすでに北海道や長野県、福岡県など全国に拠点を置いています。各地への進出の陣頭指揮を執ってきたのは取締役執行役員の小泉博之さん。そんな豊富な経験をもつ小泉さんでさえ、静岡県の手厚い助成金制度と行政職員たちの熱意には大変驚いたと言います。

レイアウトにもこだわったという静岡オフィスで、同社はこれからどのようなビジネスを展開していくのでしょうか。

会社概要

1978年設立。通信・制御系やアプリケーションなど様々なソフトフェア開発事業を展開するほか、ロボットやスマートグラスなどの製造も手掛ける。本社機能をもつ東京本社や横浜本社に加え、北海道から福岡県まで5拠点にオフィスを設けている。

株式会社システム・サイエンス
https://www.s-science.co.jp/

本社所在地
東京本社:東京都新宿区新宿2丁目19番1号 ビッグス新宿ビル6階
横浜本社:神奈川県横浜市西区みなとみらい3丁目6番1号

サテライトオフィス所在地
静岡県静岡市葵区御幸町11番地30 エクセルワード静岡ビル4階

インタビュー対象者紹介

株式会社システム・サイエンス
取締役 執行役員 小泉 博之(こいずみ ひろゆき)さん

1987年株式会社システム・サイエンスに入社。携帯電話基地局のソフトウェア開発に従事したのち、2006年取締役に就任。システム部および戦略企画部の本部長を兼務し市場開拓などを担当するほか、グループ会社であるJSホールディングス株式会社と株式会社SFSの取締役も兼任している。

開設のきっかけは「サテライトオフィスしずおか」!視察を経て静岡市を選んだ理由

──御社は本社がある東京や横浜以外にも拠点をお持ちなんですね。

特に2000年代から2010年代にかけ、多くのオフィスを開設しました。今では北海道や長野、福岡など全国各地に拠点があります。今回新たに静岡市にサテライトオフィスを開設しました。

──新しい拠点をつくるのは久しぶりなのですね。経緯についてお聞かせいただけますか?

2023年1月に、横浜支社を横浜本社と名称を変更し、本社機能の多くを横浜市に集約させました。東京の新宿にある本社ビルより横浜のビルのほうがより新しく、面積も広いんです。しっかりとした免震構造も備えています。社員の安全やBCP(事業継続計画)の観点から移すことを決めました。

ただ、そこで一つ問題が生まれました。新宿本社なら埼玉県や千葉県の方も通勤圏内のため採用することができました。しかし、横浜本社ですとそれが難しくなります。採用のために神奈川県に近いところに拠点が必要になり、隣の静岡県に光が当たったという形です。

──他の県は検討されなかったのですか?

関東圏も視野には入れていました。具体的には、群馬県や山梨県、栃木県です。ただ、やはり横浜本社に近いところという条件が譲れなかったので、静岡県になりました。

──その後、具体的にはどのようにして開設まで進めたのか教えてください。

この「サテライトオフィスしずおか」を見て、問い合わせページから静岡県に連絡したところ、様々な部署から5人もの職員の方々がわざわざ説明に来てくれたんですよ。こちらはメールを出しただけなのに、この丁寧さには驚かされました。

私はこれまで静岡と縁がなく、あまり情報を持っていなかったんです。その説明の場で色々な市町の状況を教えてもらい、大変助かりました。結果、学校が多く雇用もできそうな静岡市と県西部の市に視察へ行くことになりました。視察前、どんな物件がどのくらいの賃料で借りられるのか知りたいと県の方にお伝えしたら、各市10件ほどの候補を頂くことができました。ここまでしてくれるなんて手厚いな、とびっくりしましたよ。視察に行くことにした当初は一日で回ろうと思っていたのですが、こんなに候補があるならと二日間の視察になりました。

──現地を視察されて、静岡市に決めた理由はなんですか?

ビルの立地条件の面で、静岡市のほうが条件に合っていたのが大きかったです。駅とオフィスが地下道で直結している点がよかったですね。雨の日も傘を差さずにすむので、利便性が高いと思います。静岡市のほうが横浜本社からやや近いのもポイントでした。

視察も県の方がサポートしてくださったんですよ。スケジュールを組んで、全部の物件を一緒に回ってくれたんです。静岡市の方も当日同行してくださって、この熱意も心に響きました。

静岡オフィスの今後のビジネスプランとは?地域との連携は「絶対必要」

▲星空体験ツアーイメージ
▲星空体験ツアーイメージ

──静岡オフィスの内装において、こだわったポイントがあれば教えてください。

牧野武志代表取締役自らレイアウトを考えたくらい力を入れています。受付にはロボットを設置し、来客対応のためのスペースをかなり広くとりました。
来客対応スペースが広いのは、人材確保や地域の企業との関わりを重視しているからです。学生さんや地域の方に訪問して頂いたとき、しっかりとお話しできるような環境を整備しました。ロボットが受付しているのを学生さんが見てびっくりしてくれたら嬉しいですね。

──静岡オフィスはどんな活用法を想定されていますか?

3年で静岡オフィスに関わるメンバーを30人に増やすことを目指しています。私たちの業界はほぼテレワークが中心です。静岡オフィスに所属する方も、勤務するオフィスの場所に縛られず、多様な拠点のメンバーから構成されるチームに入っていただくことになります。具体的には静岡で働きながらも、北海道や福岡の人たちと同じプロジェクトに取り組むイメージです。一つのオフィス内で全員が同じプロジェクトのメンバーだったら、閉鎖的になってしまうからです。静岡オフィスにいる人たちと関わりながら、全国各地の人たちと一緒に仕事ができます。事務職でも同じシステムを採用しています。

それから、ワーケーションの拠点としても活用したいです!静岡には海も山もあり、ワーケーションに最適な土地だと思っています。社員からも使ってみたいという声が上がっています。今そのための制度を作っているところです。

──先ほど地元企業との関わりを重視しているとおっしゃっていましたが、地域とはどのように関わっていきたいと考えていますか?

私たちはこれまでに開設した全国各地のオフィスにおいても「地域密着」を重視してきました。例えば、以前オフィスを所有していた千葉県我孫子市では、地域の清掃活動に参加したり、お祭りに寄付したりお手伝いしたりするなど、積極的に地元と関わっていました。静岡市でも同様の取り組みをしていけないかと考えています。

地域との連携は絶対に必要だと強く感じています。以前、AR(拡張現実)技術を活用した星空体験ツアーのイベントを沖縄県石垣島で企画・運営する機会がありました。その際、現地の方々から、沖縄では一般に浸透しているギリシャ神話とは異なり、土地特有の星の名前があると伺ったんです。そこで沖縄バージョンを作り、イベントを経て、今年沖縄で商材としてリリースしました。このように、地域の方々に聞かないと分からないことはたくさんあり、コミュニケーションを通してビジネスの種にもなることも珍しくありません。

静岡オフィスでは、是非産学官でも連携してビジネスを生み出したいです。過去に長野県の拠点でもそうした取り組みを行っていました。現地の学生さんたちと協力し、弊社が製作したスマートグラスを使った町おこしを企画して、お祭りで展示したんです。弊社は全国に拠点を持つ分、積み重ねてきたノウハウもあります。そうした経験を活用して、静岡の方々とも積極的に関わっていきたいです。

全国各地に拠点をもつサテライトオフィス「熟練者」が読者に伝えたいこと

▲静岡オフィスで働いている㈱システム・サイエンスの方々
▲静岡オフィスで働いている㈱システム・サイエンスの方々

──サテライトオフィスの開設を検討している企業からは、よく「現地で雇用できるか」が懸念材料として聞かれます。先ほど小泉さんから人材確保という言葉も聞かれましたが、地域の人材を雇用するにあたってどのようなことに力を入れていますか?

これまで全国各地にオフィスを開設してきた経験を振り返っても、地元の大学や専門学校と連携を取っていくことがとにかく大切だと考えています。今回、静岡県から教育機関の方々をご紹介いただいたのはとても助かりました。実際に静岡産業技術専門学校で説明会を開催し、2024年春に入社する新卒の方を採用できました。今後も現地の方を採用し、しっかりと研修を行っていきたいと思っています。長期的な目線で、まずは土台からしっかりとつくっていきます。

──県からは、サテライトオフィスの開設から雇用に至るまで様々なサポートを受けたのですね。他に活用された支援制度はありますか?

「ICT・サービス関連企業進出事業費等補助金」の交付を受けました。これは最初に静岡県の方々とお会いした際に教えていただきました。静岡県内に新たに設置した事業所においてICT活用サービス業を行う企業を対象に、一定の条件を満たせばオフィスの貸借料などを補助してくれる制度です。初めて聞いたときは、そんないい制度があるのかと驚きました。他の大都市では、本社を移転したら助成金を出すという内容のものは見たことがありましたが、この制度は事業所の設置を前提としているので、対象の幅が広いという印象を受けました。

──この制度も静岡市のサテライトオフィス開設への後押しになったんですね。

この制度がなければ進出できていないと思います。新しい拠点の開設というのはやはり社内の理解がないと実現できませんから。金銭的負担が少ないと、会社から承認を得やすいですよね。この制度と、静岡県の方々の熱意によって進出を決めたと言えます。

──最後に、サテライトオフィスの開設を検討している方々へ向けてメッセージをお願いします。

私はこれまでも様々な地域における拠点開設をリードしてきましたが、静岡県のサポートの手厚さには何度も驚かされました。助成金制度の素晴らしさと、人の熱意は段違いだと思います。静岡県は開設者にしっかりと向き合ってくれます。こちらが求めた情報はちゃんと提供してくれます。今回開設にあたって色々な質問をしてしまいましたが、嫌な顔一つせず親身になって答えてくれました。私たちも、色々なサポートを受けた分、恩返ししないといけないという気持ちでいます。このようにちゃんと関係をつくってくれる静岡県は本当におすすめです!

サテライトオフィスを開設した小泉さんに聞きました!

①静岡県の好きなグルメは?
静岡県に行くたび、静岡駅にある居酒屋「魚河岸大作」さんに行くのですが、そこで食べるマグロやウナギ、生シラスは絶品です。東京で食べるより安いですし、本当においしいんですよ。

②静岡県でおすすめor行ってみたい場所は?
静岡県職員の方から、静岡市駿河区の用宗エリアでは、倉庫街をリノベーションする取り組みが進んでいると伺いました。弊社でもそこでなにかビジネスができないかと思っているので、是非見に行きたいです!

③オフタイムの過ごし方は?
まだ静岡県で休日を過ごしたことがないんです…。今後、弊社でもワーケーション制度を作ろうとしているので、まずは私自身が行かないといけないですね。特に気になっているのは日本平。静岡には様々な名勝地がありますから、色々と回ってみたいです。

静岡県サテライトオフィス情報発信ライター・まゆ

北海道や長野、福岡など、これまで様々な地域への拠点開設を先導してきた小泉さん。そんなサテライトオフィス開設の「熟練者」とも言える小泉さんが、静岡県から受けたサポートの手厚さについて「驚いた」と繰り返していたのがとても印象的でした。産学官連携などにおいて、(株)システム・サイエンスにはたくさんのノウハウが蓄積しています。それらを総動員して、静岡市発のビジネスを生み出していってほしいですね!
【まゆ プロフィール】