コロナ禍の2021年に静岡オフィスを開設した株式会社さくらコミュニケーション。現在4年目を迎え、静岡での業務や事業展開もいよいよ本格化。静岡オフィスの存在感はさらに増しているようです。同社取締役、桑村時生さんに、オフィス開設からこれまでの取り組みや、静岡での事業継続に必要なこと、人材の採用状況についてお話を伺いました。

【会社概要】
株式会社さくらコミュニケーション
https://shizukuru.pref.shizuoka.jp

2003年8月設立。生命保険・損害保険・証券・銀行などの金融業界の基幹システムを中心としたソフトウェア開発を主軸に事業展開。近年は、欧米やアジア諸国のクライアントに対するマーケティングコンサルティングや、ウクライナ企業、ルーマニア企業との協業によるオフショア開発など、他分野や海外に向けてビジネスを拡大。事業展開を通じ、世界で活躍できるグローバル人材の育成に挑戦している。2021年11月、静岡オフィスを開設。

東京本社:東京都小平市鈴木町1-466-18 新小金井赤レンガ倉庫
静岡オフィス:静岡県静岡市葵区紺屋町17-1 葵タワー1F リージャス静岡葵タワービジネスセンター


【前回記事】
夢物語だったサテライトオフィス開設が、静岡県からのアプローチを受けて3ヶ月足らずで実現!


【インタビュー対象者紹介】 
取締役
桑村 時生(くわむら ときお)さん

・桑村さんプロフィール
埼玉県出身。18歳でプログラマーとなり、2003年、23歳で株式会社さくらコミュニケーションの創業メンバーとして入社。10年間技術職でキャリアを積んだ後、次期経営メンバーとしての成長の期待を受け、経営全体を把握し管理側の役割を経験するため、営業職となる。2016年、株式会社さくらコミュニケーション取締役に就任。2018年、NPO法人JASIPAの理事に就任。

サテライトオフィス開設からの3年。順調な地元人材採用の秘訣はライフプランの共有

▲サテライトオフィスは、JR静岡駅前の葵タワーにあるリージャス静岡葵タワービジネスセンター
▲サテライトオフィスは、JR静岡駅前の葵タワーにあるリージャス静岡葵タワービジネスセンター

東京エリアでの人手不足を受けた地方人材の活用のため、また、将来地元にUターン、Iターンをしたいという社員の拠点にするために開設を考えたサテライトオフィス。2021年に静岡市に開設した静岡オフィスが、株式会社さくらコミュニケーションの地方拠点第1号となりました。
2025年、開設から4年目に入り、業務自体は完全リモート勤務で行えるため常駐スタッフはいませんが、静岡市に拠点があることで、静岡県出身者の採用は順調に進んでいるそうです。

桑村さん
「もともと、社員の中にはいずれ地元に戻りたいという静岡県出身者がいて、静岡オフィスは当初からニーズがあると思っていました。会社の規模が小さいので、大手と比べると少ない人数ではありますが、毎年4人の新卒採用を行っています。コロナ禍で東京本社の採用がうまくいかなかった年も、静岡の優秀な人材を採用することができました。
社員は完全リモート勤務ですが、それでも新卒採用者は、少なくとも2、3年は先輩社員の元で教育が必要です。静岡採用の社員も新卒採用者なので、まずは東京で経験を積み、その後Uターンするという流れになります。
順調な採用の秘訣は、一度東京に出てきても、最終的には静岡に戻るというキャリアプラン前提で話をしていることだと思います。ずっと静岡にいたいと希望する人もいますが、若いうちは東京で働き、将来的には地元で親と同居したいと考えている人が多いからです。

現在、全国展開している企業の静岡支店との取引はありますが、静岡の地元企業との取引はまだこれからです。事業としては東京周辺の企業へのエンジニア派遣が多いのが現状なので、静岡のメンバーも、そうした現場で活躍しています。将来は静岡に戻ってもらい、静岡での仕事を広げていくことを次のフェーズとして考えています」。

オフィス開設以降の事業展開で欠かせない、静岡での人脈づくりと関係性の深化

▲東京の本社オフィス
▲東京の本社オフィス

静岡オフィス開設時に活用した静岡県や静岡市の補助金では、経済面での支援が大きかったと桑村さん。それと同時に、人的な繋がりを築く上でも、静岡県産業イノベーション推進課のサポートは欠かせなかったと言います。新たに口座を開設した銀行からも、今後の事業展開にプラスになりそうな企業を紹介してもらうことが多かったそうです。

桑村さん
「ビジネスマッチングのプラットフォームを紹介されて、それは今も活用しています。また、弊社は海外事業も手がけているので、留学生との繋がりができる静岡県や静岡市の国際交流協会もすぐに紹介してもらえました。東京本社がある小平市には、こうした支援の体制はないので、非常に心強く感じています」。

静岡オフィスを開設して改めて感じているのは、静岡での事業展開には、静岡の人材を活用することが大事だということ。桑村さんは、静岡にオフィスを構えたことのデメリットを感じることはないそうですが、敢えて言うなら「関係性をつくるまでの時間が長いと聞いている」ことだそうです。

桑村さん
「確かに、東京から来た我々が、一緒にビジネスをしましょうと言っても、すんなりとはいかない地域性があると感じます。だからこそ、名刺にも静岡オフィスを記載するし、地元出身社員の存在が大事になっています。実際に東京や首都圏から、静岡に進出してくる企業は多いですが、単純に東京で使われているソリューションを紹介するのではなくて、静岡で採用した人材と、静岡の地元企業とともに、静岡にナレッジを残すことが、事業の成功に繋がるのだと考えています。

私は、静岡にいる時は、夜、飲みに出かけますが、隣り合わせた地元の人とよく話をします。みなさん郷土愛が強くて、地元のいいところを、初対面でもいろいろ教えてくれる人が多いです。それだけ、静岡の人は横のつながり、地元社会とのつながりを大切にしている人が多いのだと思います。
それはビジネスの場でも同様で、極端にビジネスライクにはならず人の繋がりを優先するのだと感じます。メリットだけを取るのではなく、一緒に事業を発展させようという思いが根底にあって、共存を大切にしているのでしょう。
海外で仕事をしていても、日本の共存性のアイデンティティが求められることは多いです。海外企業からは日本の会社は仕事がしやすいと言われる。その点、静岡人の共存性は、弊社の海外ビジネスにも大いに貢献してくれると思っています。

静岡県は自動車産業などものづくりの創業者を多く排出していて、イノベーターが生まれる土地だと思っています。これは、ビジネス的にも非常に魅力的な地盤となっています。弊社は海外系の事業が多いので、東京発だけでなく、静岡からの海外進出という希望も持っています。地元のものづくり企業と連携して、静岡発の海外展開も模索したいですね。
静岡市には、あらゆる業界の企業が揃っていると思います。静岡オフィスを置いているリージャス静岡葵タワービジネスセンターにも、ユニークなサービスをしているスタートアップ企業が入居しています。その上で、私たちと事業をともにするために進出してほしい企業を挙げるなら、地方創生に関わるスタートアップ、でしょうか。静岡をメイン拠点にして、地方を元気にしていく企業があったら、コラボしていきたいです」。

国内や海外でアップデートしたソリューションを、静岡県で本格展開

▲オフショア拠点のウクライナオフィス
▲オフショア拠点のウクライナオフィス

静岡県内の事業者との取引は、現状ではまだありませんが、東京で企画しているサービスの中には静岡の企業などでも需要が見込めるものがあり、積極的に展開していくそうです。
そのひとつが、医療事業者向けのサイバー保険や、セキュリティ対策ソリューションです。

桑村さん
「首都圏の保険会社と一緒に企画・開発を進めているものです。医療現場では、マイナンバーカードの保険証利用でIT化の必要性に迫られています。しかし、小規模診療所や歯科医院などでは、セキュリティ対策が追いついていないのが現状です。サイバー保険に関しては、大手の保険はほとんどが小規模の病院を対象としていませんし、個別に対策すると高いコンサル料がかかります。そもそもの前提として、セキュリティ対策をして個人情報の流出やシステムダウンを防ぐことが重要になるのです。
これは、まず東京、埼玉でスタートしますが、2025年中には静岡でも運用を開始する予定です」。

海外ソリューション事業では、日本では開発されていないシステムを日本向けにローカライズして、同社が再販しています。その中で、
①飲食業卸業者向けの顧客管理システム
②製造業の現場で導入する業務ワークフローのローコード開発プラットフォーム
③ディープフェイク検知ソリューション
の3つは、静岡での展開も視野に入れているそうです。

桑村さん
「①②に関しては、静岡は飲食店も製造業の中小企業も多いので、必ず役に立つと思っています。こうしたシステムやソフトウエアは現状でもあるのですが、多くが大企業向けで、中小企業では価格的にも導入が難しいでしょう。安価なソフトウエアでは柔軟性に欠けるため使い勝手が悪く、かといって独自にシステムを組むのにも費用がかかりすぎます。
今回、私たちが手がけているものは、コストと導入までの期間を短縮できるローコード開発なので、こうした課題を解消して、地方の中小企業のDXに関する課題を解消できるものだと思っています。それを、他の地方都市に先駆けて静岡で展開していきます。
③は現在、アメリカの大学のチームとの共同開発を進めていて、弊社から市場にリリース予定です。対象になるのは、大企業やwebサーバの販売会社、他にはSNSのシステムやセキュリティ関係の会社ですが、大手だけでなく、スタートアップや行政機関なども対象になるため、全国展開も期待できます。静岡県にもスタートアップのイノベーターが多いので、こちらも静岡での展開が可能です。

近年では、大手企業のようにニュースにならならないだけで、中小企業のシステムにおいてもハッキングが多発しています。自社が他社を攻撃しているように見えてしまう被害もあり、被害に遭ってみないと、どのような事態に陥るのかわかりません。中小企業でもサイバーセキュリティ対策は必須です。漠然と対策の必要性を考えている経営者は多いと思いますが、コストや人員の問題もあり実際に対策にまで至らない会社がほとんどです。
中小企業は、企業規模に合わせた対策が必要だと認識するためにも、弊社では、無料のセミナーを開催して、本場のハッカーが何を狙って、どのようにシステムに入り込むのかという話をして理解を深めてもらったり、社内エンジニアへのサイバーセキュリティ教育を提案したりすることで、啓蒙活動を始めています。静岡の企業の皆さんにも、まず話を聞いてほしいと思っています」。

今後の事業展開で、ますます高まる静岡オフィスと、静岡採用人材の存在

▲ルーマニアのメンバーと桑村さん
▲ルーマニアのメンバーと桑村さん

いよいよ静岡での事業展開を本格化させる(株)さくらコミュニケーション。静岡エリアの営業活動や保守などは、最終的には静岡採用のスタッフに任せる予定でいます。それは、今後の静岡オフィスでの採用計画にも現れています。

桑村さん
「IT業界は、理系やプログラミングの勉強をした学生の採用が中心です。コンピューターはロジカルシンキングが大事ですが、プログラム言語は自然言語に比べ習得に時間がかからないので、文系出身者にも非常に期待をしています。さらに文系の学生は、将来マネージャー、管理職、経営者の有力な候補になりえます。実際に海外では人事や、マネジメント、経営、グローバル力のある人材は、文系出身者が多いです。
また、文系のほうがシステム屋らしくなくていいと、お客様からも言われます。傾聴力があるため、顧客の安心感に繋がります。その点、静岡の学生は気質がおだやかで、いい意味でのんびりしていてマイペース。県民性なのか、人懐っこく、まわりを気にかけながら物事を進める能力があるという印象を持っています。上司と部下の関係で見るととても良い部下です。よく話を聞くし、共感力もある。心身共に健康に育ってきたという印象があり、今後の成長が大いに期待ができます。お互い助け合っていこうという県民性が出ています。
東京本社のメインの事業はエンジニアの派遣と、海外に委託するオフショア開発の企画です。企画側の人間は日本中どこにいてもいいので、静岡で企画をして海外で開発、事業展開も充分考えられます。静岡オフィスでの採用では、そのための人材を、理系、文系問わず増やしていきたいです」。

サテライトオフィスで働く桑村さんに聞きました!

① 静岡県の好きなグルメは?

静岡市の鮨は、美味しくてコスパがいいです。静岡オフィスのある葵タワーに入っている「入船鮨」をよく利用します。海鮮系全般もおすすめですね。静岡おでんも好きですが、個人的には黒はんぺんだけでなく、白いはんぺんも入っていると嬉しいかな。

② 静岡県でおすすめor 行ってみたい場所は?

飲みに行くなら、静岡おでんの店が並んでいておでん横丁と呼ばれている「青葉横丁」や「青葉おでん街」がおすすめです。カウンター席のみの小さなお店が集まっていますが、それぞれがバーのようで、コミュニケーションが生まれる場所です。
行ってみたいのは「サウナしきじ」ですね。

③ オフタイムの過ごし方は?

基本的に休日は東京で家族や友人と過ごします。バイクでツーリングに出かけることも。静岡県では静岡市や浜松市に来たことがあります。静岡市の用宗地区は、地元の人と触れ合えるいい場所です。

サテライトオフィスしずおか情報発信ライター・竹内友美(たけうちともみ)

静岡での事業展開がいよいよ具体化する株式会社さくらコミュニケーション。静岡県も中小企業の人材不足は例外ではなく、その対策として省人化に貢献するシステムや、DXのサポートは導入が待たれるところだと思います。
一方で、将来のUターンが転職なしで叶うライフプランを会社と共有できる採用方針は、これから就職をする静岡の若者から支持される選択肢になりうるのではと感じました。静岡から誕生するグローバルな人材にも期待します。