ITの総合企業が静岡市で探る、オンラインとオフラインの理想的な共存
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IT企業でありながら、IT事業以外での地方進出を考えていたという、株式会社リンクアット・ジャパン。取締役の森山康弘さんには、コロナ禍以降オンラインが当たり前になったことで失われつつある社内の円滑なコミュニケーションの復活や、社員がリフレッシュやリチャージをしながら働ける環境づくりの糸口を見つけるというミッションがありました。縁あって、イベントに参加するため訪れた静岡市。初訪問の翌週には、サテライトオフィス開設の相談をしていたそうです。森山さんが感じた静岡市の魅力と可能性とは、どのようなものだったのでしょうか。
会社概要
株式会社リンクアット・ジャパン
https://www.la-j.com
1999年9月創立のIT企業。ネットワーク設計・構築、オンプレ及びクラウドサーバ設計・構築、Webシステム制作・開発など、これまでに300社以上のシステム設計・構築に携わってきた実績を持つ。ハードウェア、ソフトウェアともに、特定のメーカーやベンダーに捉われずに扱い顧客に提案。企画、設計、構築、リリース、運用まで、ITに関するワンストップサービスを提供している。企業理念は「いつでも。新鮮!」(Always inspired!)。
東京本社:東京都港区新橋4-5-1 アーバン新橋ビル2F
静岡オフィス:静岡県静岡市葵区鷹匠2-8-10 静鉄のコワーキングスペース/シェアオフィス =ODEN(イコールオデン)内
インタビュー対象者紹介
取締役
森山 康弘(もりやま やすひろ)さん
1978年、沼津市生まれ。父の転勤に伴って、幼少期から中学校卒業までをインドネシアやグアムなどの海外で過ごす。単身帰国し高校に進学するも、なじめずに中退しアルバイトを始める。その後両親も帰国し大阪へ転居。インターネットの黎明期にパソコンのおもしろさに魅了され、大手携帯キャリアの業務委託を行うIT企業に就職、ITエンジニアとして働く。2004年に退職し、カフェ開業を目指し飲食関連の専門学校に通うが、即戦力を求めていた株式会社リンクアット・ジャパンへの入社を先輩に促され、翌年同社に入社。情報システムのネットワーク構築と運用の業務に携わりながら、生産部や営業部の課長、部長を歴任し、2020年、取締役に就任。
ワーケーションと地域課題解決を掛け合わせたイベントに参加して感じた、静岡市との融和性
ITコンサルティングから、WEBデザインの制作やWEBアプリケーションの開発、サーバの構築、運用、保守、監視までの一貫管理など、ハードウェアからソフトウェアまで、顧客の要望に応じたITソリューションの提案をワンストップで行っている株式会社リンクアット・ジャパン。同社の取締役で、静岡市に開設したサテライトオフィスの責任者の森山康弘さんは、自社のことを「ITに関する何でも屋」と表現します。
森山さん:クライアントの要望や課題に応じて、システム全体でも一部分でも、ITの相談役として寄り添いながらサポートします。さまざまなメーカーやベンダーに対応していて何でも扱うというのも特徴で、それによって幅広い選択肢の中からクライアントに合うものを提案することができます。とはいえITはあくまでも道具や手段。解決したい課題や、新たな未来を創りたいという目的があって、そのひとつの手段にITが有効であれば提案するというのが、会社のスタンスです。無理にITを導入する必要がなければ、別のサポートができる会社を紹介することもありますよ。
2020年、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、リモートワークが定着していきました。オンラインによる業務はそれ以前から活用されていましたが、コロナ禍によって、多くの企業でリモートワーク、オンラインミーティングが日常のものとなりました。リンクアット・ジャパンも例外ではありません。しかし、そうした状況に森山さんたち経営陣は、社内のコミュニケーションが難しくなっていると感じ始めたそうです。
オンラインの普及と対照的に、オフラインに例えられる飲食やエンターテインメント、旅行など、人がリアルに集い賑わいを創出する業界は大きなダメージを受けました。「自分たちがいるオンライン側は、オフラインがあるからこそ成り立つのだ」と考えるようになった森山さんは、社員たちが対面でコミュニケーションが取れる機会や場所づくりを模索します。
森山さん:弊社は少ない方ですが、IT業界では休職者や退職者が常に出てきます。弊社の代表は、リーマンショックの時にリストラされていく仲間たちを見て、自分たちが働く場は自分たちでつくろうと創業しました。オンラインの定着でコミュニケーションが取れないままでは、社員たちは孤立感から心まで疲弊してしまい元気がなくなる。それは自分たちが目指している会社の姿とは違うと危機感を持っていたんです。
そこで、その状況を改善しようと、2年前には飲食事業を手がけるグループ会社を立ち上げて、ITに疲れた社員に飲食店を手伝ってもらったり、栃木県さくら市に借りた古民家と畑を福利厚生施設として活用して、野菜づくりや古民家再生のDIYをしたりと、自由に遊びながらリフレッシュ、リチャージする場をつくりました。
そうした、ITとはちょっと離れた事業を手がけていた時期に、地域創生の活動に参加している社労士と知り合った森山さんは、2023年4月26日に開催された「しずおかBamboo Tour」に誘われて、初めて静岡市に来ました。
森山さん:個人のリフレッシュやアイデアの創出、モチベーションアップを狙いにしたワーケーションと、地域課題解決を掛け合わせたイベントでした。イベントを主催した静岡市環境局環境共生課の目的は放任竹林の認知と課題解決のきっかけを参加者と探るというもの。従業員が自由に、働きやすい環境をつくるために、地方都市でのワーケーションを活用するというところに、弊社が目指すオンラインとオフラインの共存のヒントがつかめると思いました。
オーバーラップした、自治体が抱える課題解決の方針と自社の持続性を維持する取り組み
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森山さんが参加した「しずおかBamboo Tour」は、放任竹林で竹の伐採などの整備作業を行い、静岡市や竹林整備をするボランティア団体から課題を聞き取りました。作業の後は静岡市街地の散策や、地元企業との交流会も開催されました。
森山さん:静岡市の職員の方が「外のリソース、考え方を活用して課題を解決し、未来を創っていかなければいけない。民間企業と協力し合って静岡市を良くしていく」という趣旨のことをおっしゃっていたんです。弊社でも、社内コミュニケーションを活発にするために、社員にも、もっと社外に目を向けて外部の人たちの考え方も柔軟に取り入れてもらいたいと考えていたので、地域の課題を外部の力で解消していくという静岡市の構想は、自社にも当てはまるものでした。
社員の福利厚生的観点からも海、山、川があり自然が豊かな静岡市のフィールドは魅力です。東京からも近いので、本社に勤務する社員も来やすい。さらにご飯は美味しい、市民の人柄もいい、まちも住みやすそう。ここでさまざまな人や企業の方と交流させてもらえれば、ビジネス的にも刺激が受けられるし、オフタイムには自然の中でリチャージもできます。社員の活力を取り戻し、また、静岡の人たちと一緒に新しいことにチャレンジするためにも、東京から通ってくるのではなく、サテライトオフィスを開設して地域に溶け込んだ活動をしていこうと決めました。
実際に静岡には、チャレンジ精神が旺盛な人がたくさん集まっていると感じています。静岡市内のコワーキングスペースやコ・クリエーション施設などの交流拠点で、イベントやセミナーのパンフレットを目にすると、弊社ではなかなか思いつかないような、ユニークなことをやっているので、僕らは静岡市に来るだけで刺激になるんです。これは、都内ではあまり感じない静岡らしさというか、強みだと思う。静岡市は、これからもっとおもしろい地域になっていくと思っています。
コミュニティマネージャーの存在が、地域に溶け込みやすい繋がりと広がりをもたらす
森山さんが参加したイベントの交流会が行われたのは、静岡市内にあるコワーキングスペース「静鉄のコワーキングスペース/シェアオフィス =ODEN(イコールオデン)」でした。その際、「オフィスも適度な広さで、時間がゆったり流れる感じがある」と印象に残り、森山さんはイベントの翌週には=ODENにオフィスの契約について相談しました。
リンクアット・ジャパンでは、2022年に札幌市にオフィスを開設しています。その経験からも地域に拠点を持つことで地域の課題が見え、地域の人たちと繋がりもできると実感していました。また、外の視点から自分の会社を見られることもサテライトオフィス開設のメリットだと実感していました。
森山さん:=ODENは市街地に近いのに、学生さんが多い文教地区という静かな周辺環境が気に入っています。運営をしているのは静岡鉄道不動産部と母体が大きい点、また、事前審査を通った人たちが利用している会員制という点で、安心感があります。=ODENの会員以外のさまざまな人や団体を紹介してくれるコミュニティマネージャーの存在は頼もしい限りで、そこから生まれる繋がりにも信頼感が増します。来るたびに顔を合わせる会員さんが必ずいるので、東京から来ていてもアウェイ感がないんですよ。今、人材紹介の事業をしている会員さんと、弊社にとって初めての外国人採用の話を進めているところです。
他県と比較、検討して静岡市にサテライトオフィスを開設したのではなく、「きっかけがあってノリと勢いできたというのが正直なところ。それでも、間違っていなかった」と森山さん。
森山さん:僕自身、右も左もわからない状態だったので、地元企業の方と話がしてみたいと=ODENのコミュニティマネージャーに相談したところ、静岡県が運営する、デジタル技術の習得や新たなビジネスへのチャレンジを目指す多様な人が集まる拠点「SHIP」と合同でランチ会を開いてくれたんです。そこで地元のIT企業や、若者チャレンジファンドの事務局の人たちともご縁ができた。その後すぐSHIPの会員にもなりましたが、1、2回相談しただけでも多彩な人脈が築けたことに驚いています。しかも無料で。
同じ静岡県内でも、首都圏への通勤圏としての利便性が高い熱海市、三島市、沼津市や、近年IT企業の誘致やスタートアップの支援に力を入れている浜松市に比べると、静岡市の魅力やポテンシャルは、まだあまり知られていないと感じるのですが、すごく可能性がある地域。静岡市で活動することでチャンスがつかめると思っています。
地域のキーパーソン【イノベーション拠点「SHIP」に集う、静岡県で新たなビジネスにチャレンジする人材をマッチング】の記事はこちら
地域のキーパーソンSHIPコミュニティマネージャー玉城陽子、阿部祐大、森山康弘
サテライトオフィスの立ち上げには、シェアオフィス利用料を1か月分助成する静岡市の補助金制度「Move To しずおか」を活用。これにより、初期費用はほとんどかからなかったそうです。そして、静岡市への企業版ふるさと納税も行い、地域に貢献する意識を高めました。
森山さん:2023年7月にサテライトオフィスを開設しましたが、静岡市と接点を持ってから、静岡市東京事務所でも頻繁に相談に乗ってもらいました。静岡市に企業版ふるさと納税ができることはこの時初めて知ったので、もっと認知度が上がったらいいのにと思いますね。
その後、静岡市長には8月の表敬訪問と12月の都内の交流会でお会いして、DXでも外部のソリューションを積極的に活用するという方針を伺いました。そこで本業のIT分野での事業展開も模索することにしました。
地元IT企業との連携から実現した、静岡市の第二の拠点を開設
森山さんは、静岡市をもっと知りたいという想いで、=ODENの会員や、地元金融機関からの紹介で、積極的に人脈を広げています。当面は会社の名前を認知してもらうことが目的で、直近の売上や利益を求めるのではなく、長期的な投資として考えているということですが、現在、焼津市にあるIT企業との業務提携の計画も進んでいます。
森山さん:IT業務のひとつに、パソコンやタブレットなどの端末を、使用する学校や会社、団体に合わせて、導入後すぐに使えるようにセットアップするキッティングという作業があります。一口にIT企業と言っても、当社はパソコン、特にウインドウズ系が得意ですが、タブレットやMacが得意な会社もあります。そこで、案件を共有して、お互い強みを持つ部分を担当する業務提携の相談をしています。
キッティングの仕事は年々増加していて、作業する端末は、一度に何百、何千という数になるため、東京本社の事務所は、作業するにはかなり手狭な状態になっています。そこで、東京よりも家賃が安く広い物件が借りられる静岡市内に、キッティング専用の倉庫兼作業場を契約しました。本社機能を一部移転する、ふたつ目のサテライトオフィスです。ここでは地元採用も考えています。ITは未経験でも、社会人経験があれば現場で必要なスキルを身に付けながらステップアップできます。定着率を上げるために、インターンやアルバイトでマッチングしてからの採用も考えています。
定年退職後でも活躍したいという意欲ある人たちの再就職、それから、アスリートのセカンドキャリアにも役立ててもらいたい。静岡はさまざまなスポーツのプロチームがありますが、引退後はスポーツで培ったメンタルやスキルを、弊社で活かしてほしい。これに関しては、競技引退後の就職をサポートする事業を行っている静岡市内の企業と連携していこうと思っています。
静岡市が持つ魅力を未来に受け継ぐためにIT企業として貢献していく
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初めて静岡市に来てから1年足らず。サテライトオフィス開設に続き、ふたつ目の拠点も稼働させているリンクアット・ジャパンは、静岡での地元採用の拡大も見据えています。静岡県には大学や専門学校はあっても、就職先にIT企業が少なく産業として育たないのが課題と認識しているからです。
森山さん:僕らが静岡にオフィスをつくることで、学生が東京や名古屋などではなく、地元静岡で就職する受け皿になります。実際に一部業務の移転が実現しつつあり、さらに突き詰めていくと、都内でやっている業務はどこでやってもいいんです。社員の中には、親の面倒を見るからと、退職して地元に帰る人が多いです。初めから地元で仕事ができる環境があれば、家族にも安心してもらえる。地元の課題解決に貢献できて地域も潤う。人材が確保できるので、弊社も持続的に発展できます。個人的には、シェアオフィスで全国各地に社員が散らばっていてもいいんじゃないかと思っているので、静岡市でのチャレンジを、モデルケースにしていきたいですね。
『サテライトオフィスで働く森山さんに聞きました!』
① 静岡県の好きなグルメは?
静岡はまぐろがおいしいですね。静岡駅の南口近くにある「清水港みなみ」は、静岡市に来た日はまず足を運んで、まぐろ丼を食べます。弊社の社員にも大好評です。=ODENの近くにある「蕎麦心 きりがね」も気に入っています。サイクリング途中に見つけた久能街道近くの「大石しらす店 どんぶり工房」しらす丼も、絶品でした。
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② 静岡県でおすすめor 行ってみたい場所は?
サウナスパ健康アドバイザーの資格を持っている僕としては、「サウナしきじ」ははずせません。静岡市はシェアサイクル「パルクル」の設置場所が充実しているので、気軽にサイクリングを楽しみながら出かけます。駿河湾沿いをめぐるサイクリングも気持ちいいです。これから行ってみたいのは、静岡市の中山間地域オクシズエリアです。家族も連れてきて、一緒にドライブしたいですね。
③ オフタイムの過ごし方は?
・東京にいても静岡にいても、サイクリングやスーパー銭湯に出かけることが多いです。子どもとショッピングにもよく行きます。
静岡県サテライトオフィス情報発信ライター・竹内友美(たけうちともみ)
地域のキーパーソンで、SHIPコミュニティマネージャーの玉城陽子さんと阿部祐大さんにお話を伺った際に、SHIP会員を代表して取材に応じてくださった森山さん。その約3か月後に改めて取材をさせていただきました。驚いたのは、当初漠然としていた静岡市での事業展開が、わずかな期間で具体的に動き出していて、ふたつ目のサテライトオフィスも開設するということ。地元企業と繋がることから、引退したアスリートの積極的な採用というユニークな方針も生まれたようです。地元で多彩な人材を採用して、静岡を元気にする事業を続けてほしいと思います。