製造業が盛んで、全国的に見ても高校生の新卒就職希望者が多い静岡県。2024年4月、高卒就職・採用に特化した支援サービスを全国で手がける株式会社ジンジブが、静岡支店を開設しました。静岡支店長の細野舞夏さんは、静岡県のものづくりを支える企業の多くが続けている、古くからの慣習が残る高卒採用の現状を変えたいと、企業と若者の未来に希望をもたらす新たな採用戦略を提案しています。地域密着型で展開する“ニッチ”な事業について伺いました。

【会社概要】
株式会社ジンジブ
https://jinjib.co.jp

2015年3月設立(グループ創業は1998年9月)。2024年3月、東京証券取引所グロース市場に上場。「若者に希望を与えるNo.1企業」をビジョンに掲げ、高卒就職・採用支援サービスを中心に、人材の採用、教育、定着に貢献する事業を手がける。高校生の就職を支援する「ジョブドラフトNavi」、高校生の採用を科学する「高卒採用Lab」などのwebメディアの運営や、高校生の職業体験イベント「おしごとフェア」・高校生のための合同企業説明会「ジョブドラフトFes」を、全国15都府県で展開する。また、中小企業の人事にまつわる業務のサポート(採用・教育・定着・評価・福利厚生)をする月額サービス「人事部パック」の提供も開始している。

大阪本社:大阪府大阪市中央区南本町2-6-12 サンマリオンタワー 14F
静岡支店:静岡県静岡市葵区追手町3-11 しずおか焼津信用金庫追手町ビル4F


【インタビュー対象者紹介】
静岡支店長
細野 舞夏(ほその まいか)さん

・細野さん略歴
群馬県出身。再入学した高校で、生徒の個性を尊重する教育方針と、新しい価値観を与えられる教員の仕事に魅力を感じ、自らも教員を目指す。大学卒業後、静岡県静岡市にある私立高校に勤務。子どもたちの未来を決める大切な時期に、もっと違う角度から関わりたいと考えるようになり退職し、2021年、株式会社ジンジブに入社。東京支店勤務を経て、2024年4月、静岡支店開設と同時に支店長に就任。

高卒就職・採用に特化した支援サービスを、全国で提供する株式会社ジンジブ

▲ジンジブが運営する、高校生の就職を支援する「ジョブドラフトNavi」
▲ジンジブが運営する、高校生の就職を支援する「ジョブドラフトNavi」

株式会社ジンジブは、高卒就職・企業の高卒採用を支援している会社です。大阪に本社を置き、拠点は全国に10か所。地域の商工会議所や地元密着の金融機関などと連携して、多くの都道府県で事業を展開。将来への不安が大きい若者や中小企業に夢や希望を与えるべく、高校生と人材不足が懸念される中小企業との出逢いを創出しています。
事業内容は、契約企業の採用コンサルティングのほか、主な支援サービスとして、「ジョブドラフトNavi」(求人サイト)の運営や、「ジョブドラフトFes」(合同企業説明会)の開催で、公開求人市場の活性化を図っています。同時に、高校の総合学習授業などで、地元で活躍している経営者を招くなど、企業と学校教育現場を直接引き合わせるためのパイプづくりも行っています。
2024年3月には、「ジョブドラフトNavi」に1,784社が求人を登録。2024年5・6月の「おしごとフェア」、7・10月の「ジョブドラフトFes」には、7,333名の高校生が参加しました。

静岡県の企業の高校新卒採用を、静岡市を拠点に地域密着型でサポートする

▲静岡市の中心部にある静岡支店。今後の人員増加を見越した独立型のオフィス
▲静岡市の中心部にある静岡支店。今後の人員増加を見越した独立型のオフィス

株式会社ジンジブが静岡県静岡市にオフィスを開設したのは、2024年4月のこと。そもそも静岡県は、厚生労働省が発表している「高校新卒者のハローワーク求人に係る都道府県別求人・求職状況」を見ても高校新卒求人数が全国5、6位とかなり高く、同社では市場開拓の可能性が高いエリアとして、早い段階からオフィスの開設を検討していました。計画が具体化すると、社内では挙手制で支店長候補を選出。静岡市で6年間高校教員として働いていた経験がある細野舞夏さんが支店長に就任しました。細野さんにオフィス開設に至る経緯を伺いました。

細野さん「名古屋支店や東京支店からの出張営業で、静岡県での開拓は少しずつ進んでいましたが、静岡の人たちは地元の人や企業との繋がりをとても大切にしていると感じ、やはり静岡県内に拠点は必要だと判断しました。開設の準備が動き始めたのは、少なくとも1年ぐらい前からです。
その頃、静岡県からオンラインや直接対面で、サテライトオフィスの誘致に関するアプローチがありました。具体的な動きは、静岡県の「ICT・サービス関連企業進出事業費等補助金」の提案をいただいて、一気に加速しました。2023年11月末からやり取りが始まって、2024年1月にはオフィス物件を紹介してもらったので、かなりのスピード感で進んだと思います。
首都圏、中京圏の間にある静岡県に拠点を置くなら、やはり県の中心地がいいということで、静岡市にオフィスを構えました。他県の支店はレンタルオフィスからスタートすることが多いのですが、静岡県は当初から腰を落ち着けた事業展開を考えていたので、初めから独立したオフィスを希望しました。こちらの要望に合った物件を、静岡県と静岡市が連携していくつか紹介してくださり、現在のオフィスに決定しました。ここはJR静岡駅から近く、官公庁が建ち並ぶ一画にあること、地元の信用金庫が入るビルで、セキュリティや対外的な信用度が高いことが決め手になりました。」

静岡県では、県の補助金の他、各市町でもサテライトオフィスの立ち上げや事業継続のサポートなど、それぞれの段階に応じて活用できる補助金制度があります。同社では、静岡支店の安定した運営のために、来年度は静岡市企業立地促進事業(事務所賃借事業)補助金を申請する予定だそうです。

魅力的な中小企業があり高校新卒採用率が高い静岡県に、若者を定着させる

▲高校生のための合同企業説明会「ジョブドラフトFes」
▲高校生のための合同企業説明会「ジョブドラフトFes」

教員時代の細野さんは、生徒に新しい価値観を与え、自分が進む道は自分で決められるような教育を目指していましたが、高校教員の仕事は大学に進学させることが優先になっている現状に、次第に限界を感じていたそうです。

細野さん「確かに間違いではないけれど、大学進学だけが全てではない、もっと子どもたちの将来を考えた進路指導で関わりたいと悩んで転職をしました。教員は教育のプロですが、ほとんどの人は民間会社に勤めた経験がなく、就職に際しては企業の選び方など的確なアドバイスができません。株式会社ジンジブの仕事は、若者たちの将来の選択肢を広げられます。私たちは、就職に関するプロとして、求人をする企業と就職をする高校生の両方をサポートしています。
大学に進学した生徒も、最終的には就職をします。それならば、給料や会社の規模など条件面だけではない企業選びの視点や、就職先にはさまざまな選択肢があることを、高校生の段階から知っていてほしいと思っています。」

6年間教員を勤めた経験と、改めて静岡に来たことで感じた、静岡県の特徴や静岡県で育った高校生の印象は、どういったものなのでしょうか。

細野さん「静岡県はほどほど都会で、温暖な気候で、季節に応じた変化を感じる恵まれた自然があり、食文化も豊かです。こうした環境で育った県内の高校生は、地元愛が強く、優しく平和的で、協調性があります。そこに、若さゆえのがむしゃらさ、素直さが備わっています。ただ、真っさらな人材ほど、素直に大人のアドバイスに従ったり、先輩のマネをしたがります。そのため、自分で考え、選択する意思を持たずに、なんとなく進んでしまうことが多いと感じていました。私個人としては、高校生たちが主体的な選択ができるように、早いうちからさまざまな事に目を向け知ってほしいと思っています。それが回りまわって、静岡の地元企業を支える新しい原動力になるはずだと信じているからです。」

静岡県での「ジョブドラフトNavi」の掲載社数は、県外に本社を置き静岡でも求人を出している企業も含め100社を超えています。静岡支店開設から半年で、20社以上の新規取引も始まっています。

細野さん「高校新卒者の採用というニッチな分野での支援ということで、物珍しさもあるかと思いますが、地元金融機関のご協力もあり予想以上の広がりを実感しています。実際に初めて高校新卒採用に踏み切った企業様でも成果が出ていて、静岡でも手応えを感じています。
高校新卒者の求人は、企業が特定の高校に対して求人を出す指定校求人(非公開求人)と、高校を選ばずに広く公開して募集をかける公開求人があります。静岡県では、他県に比べて指定校求人が多いのが特徴です。指定校求人では、学校側も自校の生徒が選考から落とされにくいという安心感があり、長くから続く信頼関係を意識していると思います。しかし、それだけの理由で、公開求人より、指定校求人を優遇して紹介するのには違和感を覚えます。企業にとっては、専門高校で必要なスキルを学んだ生徒を集めることで選考がスムーズになるということもありますが、それだけ門戸を閉じてしまうことにもつながります。公開求人によって、企業側は開かれた市場でより自社にマッチした生徒を獲得できますし、生徒側も多くの求人の中からしっかり見極めて自分に合う企業を選べるように、経験を積ませてほしいと願っております。」

静岡県にはさまざまな産業がありますが、特徴としては製造業の割合が多いことです。東部は製紙、中部は水産加工、西部は車の部品関係と、エリアごとで主な業種も明確に分かれています。高校の側にも、静岡県はものづくり大国という認識があり、高校新卒者の5000人ほどの求職者のうち、3000人近くが製造業に就職しています。さらに若者、特に女性を地元に定着させるには、自社の魅力や女性経営者の存在を、企業側も積極的にアピールすべきだと、細野さんは考えています。

細野さん「静岡県は中小企業が多く、地元ならではの優れた商品やサービスがあるのに、あまり知られていないのは残念です。また、私が東京から来たから余計に感じるのかもしれませんが、大手、中小問わず女性の経営者や女性の支店長など役職者はやはり少ないと感じます。積極的に経営者や管理職を目指す女性は、すでに東京に出ているのかもしれません。でも逆に都会で埋もれてしまうよりは、静岡の企業で上を目指すというのもありなのではないでしょうか?そういう女性経営者の話を直接聞けたら、『私もいずれ地元で経営者を目指すんだ』という高校生も出てくるはずです。
高校生が地元企業の魅力や可能性に気づき、興味を示せば、企業も求人に積極的になります。それは、若者の地元定着にもつながると信じています。」

持続可能な企業経営のためにも、自社の魅力を発信する採用戦略を提案

▲高校生が、自ら目的意識を持った進路選択が実現できるよう導くキャリア教育コンテンツも展開
▲高校生が、自ら目的意識を持った進路選択が実現できるよう導くキャリア教育コンテンツも展開

さまざまな場面で、「静岡は保守的」という言葉が聞かれます。細野さんは、そこに静岡の企業の課題を感じるそうです。

細野さん「求人に対して応募がないから成果を上げるためにどこを改善しようか、とか、抜本的に変えていこうという姿勢は、あまり見られないですね。こちらから提案しても『ちょっと考えておきますね』と、棚上げされてしまうんです。
もうひとつ大きな課題は、ほとんどの中小企業経営者が、自社の魅力に気づいてないことです。例えば、県内の小さな会社が自動車で欠かせない重要な部品づくりを担っているのですが、この機械や部品がないと車は作れないんだ、という誇りを、もっと高校生たちに伝えてほしいなと思います。中小企業という括りの中に、自ら閉じこもっている気がするんです。『こんな小さな工場に高卒生は来てくれない。みんな大手に就職してしまう』とか、『ものづくりの現場には女性が来てくれない』という、思い込みもあります。もちろん、安定を求めて大手企業を希望する生徒はいます。けれど、地元が好きとか、地元に貢献している会社で働きたいという思いは、高卒で就職する生徒にとって、会社を選ぶ大切なポイントになるんです。
なにも対策をせずに人材が確保できず、地元の中小企業が無くなってしまうほうが、静岡県にとっては大きな損失になります。でも、多くの経営者が、高校新卒者を採用できなくても、自社の需要がなかったからだと諦めているようで、すごくもったいないと思います。
県内の中小企業が持っているすごい技術や歴史を、合同説明会などでしっかりPRするようアドバイスをしています。上手に話ができるとか、映像やスライドを駆使してかっこよくプレゼンするよりも、社長自身の言葉で学生たちに語ってほしい。地元に愛着を持つ高校生たちは、そこに魅力を感じ、目を輝かせて話を聞きますよ。特に中小企業には、仕事のやりがいや社長の思いを伝える求人票の書き方をサポートするほか、高校生の前で直接話をしてもらう機会をつくるなど、できるだけ多くの接点が持てる場を提供したいと思っています。
また、高卒採用を行う企業のほとんどが、高卒採用だけではなく、大卒や中途など他の採用も平行しています。人事部門や社員教育の専門職がいる中小企業は多くはなく、社長や経営層が兼任しているケースも多くあります。働く人を「人財」へと育てるため、「採用」「教育」「研修」「評価」「賃金」「定着」などの人事戦略についてのアドバイスや、設計・運用のサポートを行う「人事部パック」というサービスも開始しました。」

課題解決のためにもうひとつ模索しているのは、高校生が就職について自主的に考える機会を与えるイベントを共同開催できる、他企業との連携です。

細野さん「企業の意識を変えることも大事ですが、高校生の自主性をサポートすることも重視しています。仕事をするとはどういうことか伝え、高校生同士の横の繋がりもつくれる、そんなイベントの企画、運営が得意な会社があれば、合同企業説明会やワークショップなどでコラボしていきたいです。同業の企業にもぜひ静岡県に進出してもらって、高校新卒採用の市場の活性化に、一緒に取り組んでほしいですね。それが静岡県の製造業を支えることにもなると考えています。」

地元好きな人材は大歓迎!再来年には静岡支店を10名以上の体制に

▲高校生のための合同企業説明会「ジョブドラフトFes」では職業の疑似体験ができる企業ブースも
▲高校生のための合同企業説明会「ジョブドラフトFes」では職業の疑似体験ができる企業ブースも

今後は、これまでの慣習で指定校求人を続けている企業にも、合同企業説明会への参加を促し、さまざまな生徒が集まる機会に触れてもらい、採用の可能性を広げてほしいと細野さん。

細野さん「弊社と新規に契約していただいた企業様は、イベント参加によって、希望する高校生たちを採用できるチャンスが増えたと実感していただいています。高校生側も、もっとたくさんの企業のことを知りたいという欲求が叶えられ、地元の企業はとても魅力的だということを肌で感じてもらえます。指定校求人だけにこだわらず、企業と高校生がWin-Winになる採用方法をいろいろと試してほしいのです。」

現在は2人が常駐している静岡支社。来年度はスタッフも増え、再来年には10名以上の名古屋支店や福岡支店を超える規模の支店づくりを目指すことが、細野さんの目標です。

細野さん「静岡支店のスタッフは、他県出身でもいいのですが、静岡に愛着を持つ、静岡県在住者を採用していきます。その上で、私たちはものを売るのではなく、子どもたちの将来に向き合う仕事だということをきちんと理解してくれる人と、ぜひ一緒に働きたいですね。

『サテライトオフィスで働く細野さんに聞きました!』

① 静岡県の好きなグルメは?
海鮮系は全般に安くて美味しい。普通にスーパーで買っても新鮮です。オフィスからも近い「のっけ家」はランチでよく行きます。静岡県が発祥の「沼津魚がし鮨」は、ちょっぴり贅沢したい時に行くと満足度が高いです。

② 静岡県でおすすめor 行ってみたい場所は?
久能街道(国道150号)沿いの石垣いちご狩りは、教員時代によく行きました。「静岡市立日本平動物園」もおすすめです。シロクマのロッシーを見ていると癒やされて飽きないですよ。浜名湖の遊覧船も楽しいです。行ってみたいのは「浜松市フルーツパーク」です。

③ オフタイムの過ごし方は?
海に行くことが多いですね。夏はダイビングで伊豆半島、特に伊東の海によく行きます。静波海岸も好きですね。今は富士市に住んでいるのですが、新幹線駅があるので熱海や浜松方面にも出かけやすく、食べ歩きのプチ旅行を満喫しています。

サテライトオフィスしずおか情報発信ライター・竹内友美(たけうちともみ)

今、地方都市は若者の定着が重要な課題になっていますが、静岡県も例外ではありません。
高校生は、学校の先生や親がすすめる企業に就職するパターンがほとんどだと思いますが、今回、細野さんのお話を伺って、高校生が地元企業の魅力をきちんと知った上で、自主的に就職先を決めることが、若者定着につながる、ひとつの解決策なのだと感じました。これからも、静岡県の企業の採用活動と高校生の就職活動をサポートし続けてほしいと思いました。

竹内友美プロフィール