▲南雲さん(左)と山形さん(右)
▲南雲さん(左)と山形さん(右)

東京に本社を置くIT企業のグース。2022年1月に、静岡県富士市吉原商店街にサテライトオフィスを構えました。実は、グースにとってサテライトオフィスは大分県佐伯市に次ぐ二カ所目。今後も全国にサテライトオフィスを増やすビジョンを掲げています。
なぜグースはサテライトオフィスを広げるのか?サテライトオフィスが地方で果たす役割とは?
グースの南雲社長と山形さんにお話を伺いました。


会社概要
グース株式会社
http://www.goos.co.jp/

・事業内容
ECサイトの開発・運用・コンサルティング、システム開発・運用・コンサルティング、モール出店・運営・コンサルティング
・本社所在地
東京都千代田区神田神保町2-14-11-901
・サテライトオフィス所在地
静岡県富士市吉原2-8-20 中川ビル1F

代表取締役 南雲亮さん、コンサルタント 山形哲也さん

代表取締役 南雲亮(なぐもりょう)さん
東京都出身、埼玉県在住。46歳。
物流システムなどの開発を行う会社やiモード関連サービスを展開する会社の副社長を歴任。
中小企業や個人店向けのシステム開発、ECサイト構築を支援するため、2006年2月、29歳の時に都内でグース株式会社を設立。

コンサルタント 山形哲也(やまがたてつや)さん
青森県出身、静岡県富士市在住。54歳。
米国や国内の大手通信会社、コンサルティングファーム等でシステムエンジニアやIT・サイバーセキュリティコンサルタントとして従事。
2018年からグースに入社し、現在は富士市のサテライトオフィスを拠点に、金融機関や行政と連携して地元企業の支援にあたる。

立地環境の良さと行政担当者の「熱意」が富士市を選ぶ決め手に

――最初のサテライトオフィスは、大分県佐伯市だったと聞いています。経緯を教えてください。

南雲さん:東京で勤務していた社員の一人が家庭の事情で、2014年に大分県佐伯市に移り住むことになりました。今でこそ、リモートワークは珍しいことではありませんが、当時としてはあまりない試みだったと思います。

佐伯市の自宅で、いわゆる「テレワーク」を続けてもらっていましたが、5年ほど経ち、佐伯市での人員を増強しようと考えるようになりました。
大分にオフィスを構えようと大分県東京事務所に相談したところ、閉園した保育園のリフォーム物件を勧められ、そこを2020年4月にサテライトオフィスとして開設しました。

佐伯市で新しい仕事を作ることの難しさはありますが、人材採用の点では大きなメリットを感じています。いわゆる「IT企業」に就職できることに魅力を感じてもらえます。地方には私たちのようなIT関連の会社は少ないためです。
未経験者でもしっかり教育することで、都内で取った仕事を開発ラボという位置付けのサテライトオフィスで形にしていくという流れを作っています。
現在は、7人のスタッフが佐伯市のサテライトオフィスで働いています。


――二カ所目のサテライトオフィスを開設しようと思ったのはなぜでしょうか?

南雲さん:コロナ禍でECサイト構築の仕事が増えました。その中で、サイトを作るだけではなく、サイトの運用や商品の発送に至るまで、ECビジネス全体に関わる相談を多くいただくようになりました。
請け負った商品を保管・発送する場所を作ろうと考えた時に、物流の拠点として東京も関西も行き来しやすい静岡県を候補にしました。

静岡県東京事務所に相談に行ったところ、当時、富士市役所から東京事務所に派遣されていた田尾哲也さん(現:富士市 産業交流部 産業政策課 誘致担当)と出会いました。

他の市町の担当者とも話をしましたが、一番熱心に話を聞いてくれたのが田尾さんでした。
企業誘致の補助金だけを取ってみれば、他に良い条件のところはありました。田尾さんは、富士市で事業を始めた場合の具体的な想定事例を説明してくれたり、クライアントになり得そうな企業を紹介してくれたりと、とても親身に対応してくれました。そのことにより、富士市でサテライトオフィスを構えた後のイメージを持つことができました。
ですので、富士市にサテライトオフィスを開設した決め手は、田尾さんの存在が大きかったと言えます。

「DX宣言」の富士市と地方商店街から見た景色のギャップがビジネスチャンスに

――サテライトオフィスの物件はどのように決めましたか?

南雲さん:サテライトオフィスの場所を決めるのには、想定よりも時間がかかりました。
最初は、よくある物件情報サイトで候補物件を集め、実際に富士市まで来て、物件を見て回りました。オフィスビルやマンションの一室なども候補に挙がっていましたが、それには違和感がありました。
都内ならいざ知らず、地方にまで来てそのような場所にオフィスを構えるのはどうなのだろうと思うようになりました。

たまたま商店街にあるコワーキングスペースを紹介してもらった時に、吉原商店街を通りました。地方の商店街でよく見るようなシャッターが閉まった店が連なる光景があり、逆にこのような場所だからこそ、中小事業者や店のお困りごとを聞けて、何か役に立つ提案ができるのではと考えました。

その際にも行政に相談しました。
シャッターが閉まっていても、空き物件として情報サイトには出ていないケースがよくあります。行政に調べてもらい、今回の元ブティックの物件を紹介いただくことができました。

コロナ禍で東京本社を都内移転し、下がった賃料分でサテライトオフィスの家賃をまかなうことができ、2022年の1月14日にサテライトオフィスを開設するに至りました。しばらく空室だったそうですがきれいな物件だったので、ほとんど改装をしていません。ほぼそのままの状態で使うことができたので、オフィスの開設費用もかけずに済ませることができました。


――サテライトオフィスで事業を始めるにあたり、行政からのサポートはありましたか?

南雲さん:国の認定を受けたIT導入支援企業に対する補助を受けることができ、家賃の2分の1を3年間、市に補助してもらえます。

富士市IT導入支援事業者等立地促進事業補助金

また、富士にサテライトオフィスを構えた直後から、富士市の担当者が積極的に地元の企業や金融機関を紹介してくれました。地元企業がIT導入補助金を申請する際には、弊社が身近な存在としてサポートできるので、とてもありがたいという声をもらっています。

山形さん:富士市が2020年8月に「デジタル変革宣言」を出して地元企業や行政のDX化を推進するという宣言をしました。最近ではようやくDXの取り組みが少しずつ始まっていますが、本格的にはまだこれからだと思います。
その点で言えば、私たちと行政がうまく連携して進めていく余地が大きいと期待しています。

EC事業を加速させるサテライトオフィスの重要な役割とは?

――山形さんに伺います。現在、サテライトオフィスはどのような役割を担っていますか?

山形さん:現在は私が富士のサテライトオフィスに常駐し、月に1度くらいのペースで南雲が東京から富士に来ています。
まずは商店街にしっかり溶け込もうと、吉原商店街振興組合にも入り、現在は商店街のまちづくり活性化の組織である「タウンマネージメント吉原」の理事にも選んでいただいて、まちづくりの活動にも参加しています。

事業としては、地元企業への営業とコンサルティングの拠点として活用しています。金融機関から紹介を受けた企業のIT導入補助金の資料作成サポート、ジャパンブランド育成支援事業の補助金活用や海外向け販売のコンサルティング業務などを行っています。

富士市が主催したITマッチングのイベントにも出展し、顧客の獲得に繋げています。


――実際にサテライトオフィスを構えて良かったことは?残念だったことはありますか?

山形さん:まずは出会った人が良い人ばかりだということです。都会と比べると狭い地域なので、顔が見える安心感があります。地域性なのか、誰と話をしていても悪意を感じません。

南雲さん:行政と金融機関が積極的に動いてくれて、どんどん輪が広がっていく実感があります。
市が主催するイベントにも積極的に出ることで、弊社の認知も進んできています。富士のサテライトオフィスは、山形が行政や商店街、金融機関とコミュニケーションを取って、円滑に事業を進めてくれています。

都内を中心に営業活動をしていた時と比較して、今までに出会ったことのない業種の企業と仕事ができるのも地方でビジネスをする魅力の一つです。
会社にとっての事業の幅が広がり、地域に貢献できる余地が大きくあることを感じます。

残念だと思うことは特にありません。
こちらからの要望があったとしても、すぐに行政と金融機関が動いてくれています。

山形さん:今後行政に求めることで言えば、富士市内の事業者がDX化でどのような改善ができるか、またどれだけの効果があったのかを検証して次に繋いでいくことだと思います。

「地域課題の解決」と「地方の魅力の発信」を全国に広げたい!

▲山形さんが相談にのる商店街のお茶屋
▲山形さんが相談にのる商店街のお茶屋

――今後の展望について

山形さん:サテライトオフィスの開設からずっとお世話になっている富士に貢献して恩返ししたいと思います。

地方の課題の一つに、バス路線など赤字の公共交通機関の存在があります。これまで私たちが培ってきた経験や大手IT企業との繋がり、デジタル技術を活用して、地域課題の解決にチャレンジしたいと考えています。

また、静岡には世界的に誇ることができる特産品の「お茶」があります。お茶は軽くて単価が高いので、海外向けEC販売に向いた商品です。
現在、北米や欧州では、日本国内で流通している商品が2~4倍の金額で流通していることもあり、商店街のお茶屋さんと海外向け商品の開発を進めているところです。地元の特産品を掘り起こして、ECで世界に発信していくことにも、今後特に力を入れていきたいと思います。

サテライトオフィスでの仕事が増えることで、地元の人の雇用にも繋げていきます。


――サテライトオフィス検討者へのアドバイスをお願いします

南雲さん:サテライトオフィスを開設したことで、商店街、地域の金融機関、企業との出会いがあり、そこから新しい仕事が次々と生まれています。大分オフィスは、市内のメインストリートから遠い地域にあるため、開発やコールセンターを行う分には良いのですが、営業活動は難しいです。開発やコールセンター以外に営業活動も行うのであれば商店街でのオフィス開設は良い結果が出ています。
今後も、全国にサテライトオフィスを開設し、地方の魅力を発信する役割を担いたいと思います。

「地方にサテライトオフィスを開設しようか」と思い立ったら、まず行動してほしいと思います。正直、富士は独り占めしたいと思うくらい行政と金融機関が親身になってサポートをしてくれています。静岡県東京事務所に相談をすると丁寧に相談にのってくれるはずです。

サテライトオフィスで働く山形さんに聞きました!

①静岡県の好きなグルメは?
 富士のご当地グルメ「つけナポリタン」。
 都内でもメニューで出している店がありますが、本場の富士でぜひ食べてほしい!

②静岡県でおすすめor行ってみたい場所は?
 田子の浦港
 近くなのにまだ行けていないので、漁港で獲れたての「生しらす」を食べたい!

③オフタイムの過ごし方は?
 コロナの影響で、まだ富士を楽しむところまで至っていませんが、方向音痴なので道に迷いながら地元グルメを探しています。

▲つけナポリタン
▲つけナポリタン

静岡県サテライトオフィス情報発信ライター・磯部洋樹(いそべひろき)

今回は、実際に富士にあるグース様のサテライトオフィスに伺ってお話を聞くことができました。
大分県佐伯市に次ぐ二拠点目のサテライトオフィスに選んだのが、富士・吉原商店街の空き物件でした。あえて商店街の中にオフィスを設けることで、地域に密着した事業を展開し、地域を一緒に盛り上げていきたいという強い思いを見て取れました。県内出身の私にとっても、静岡県をサテライトオフィスとして選んでいただいたことを嬉しく思いました。
今回、グース様が富士にオフィスを構えた経緯には、富士市の担当者の熱い思いときめ細やかな対応がありました。グース様の富士での取り組みは、まだスタートしたばかりですが、今後の展開に期待し、注目していきたいと思います。
【磯部洋樹プロフィール】