2021年7月に静岡市にサテライトオフィスを開設した株式会社クラウディオ。代表取締役会長の石川氏は静岡市出身。東京本社、大阪支社に次ぐ拠点として、地元の静岡市にサテライトオフィスを開設しました。ここに拠点を置く特別な思いと、DXの推進による静岡市の企業との関わり方なども含めた事業展開について伺いました。

【会社概要】
株式会社クラウディオ
https://www.claudio.co.jp/

2019年6月、東京にて創業。DXコンサルティングと、企業の業務拡大を支援するSaaS開発を行う。2021年7月、静岡市にサテライトオフィスを開設する。社員数は189名(2022年4月1日現在、グループ会社を含む)
東京本社:東京都中央区京橋3-1-1 東京スクエアガーデン14F
静岡オフィス:静岡県静岡市葵区紺屋町17-1 葵タワー1F(リージャス静岡葵タワー内)

【取材対象者紹介】
代表取締役会長 石川 正明(いしかわ まさあき)さん

静岡県静岡市駿河区出身。1986年日本IBM入社以降、日本オラクル、アクセンチュア、シグマクシスなど大手IT企業で実績を重ね、2019年6月株式会社クラウディオを共同創業する。

事業を通して地元に貢献したい!その思いをカタチにする拠点に

――石川会長は静岡市のご出身です。静岡市でのサテライトオフィス開設には特別な思いがあるのでしょうか。

そうですね、静岡市に貢献したい気持ちはずっと持っていました。拠点を増やす構想は成長戦略のひとつですが、会社設立時はそこまでは考えていませんでした。一年半くらい前から地方創生DXに着手しようと考えた時、地方都市はどこもDXが遅れていて、どこで始めても変わらないと思いました。しかし、ベンチャーの立ち上げでは気持ちが入るか入らないかも重要。それならやはり、まずは地元静岡市からだろう、ということですね。

静岡市にはデジタル系の土壌がないので、私がつくろうという気概もありました。お茶とみかんだけじゃない、IT・デジタルも静岡の産業にしたいんですよ(笑)。


――会社の事業内容を教えてください。

今はDXコンサルティングが事業の9割超を占めています。それから、ERP、つまり、企業が保有している人・もの・金・情報の4つの資源を有効活用する「企業資源計画」の一元管理が可能なソフトウエアを、インターネット経由で利用できるSaaSとして独自開発しています。2022年の8月には企業のサステナビリティへの取り組みを支援する『サステナブルサプライチェーンプラットフォーム』を展開しました。製品としては、2種類のプラットフォームをリリースしています。

サテライトオフィスは事業の継続に不可欠。憧れのオフィスビルへ入居

▲静岡オフィスが入居する葵タワー。静岡駅北口を出てすぐ目の前にあり、ビジネスの拠点として理想的な立地にあります。
▲静岡オフィスが入居する葵タワー。静岡駅北口を出てすぐ目の前にあり、ビジネスの拠点として理想的な立地にあります。

――サテライトオフィスを開設する具体的なきっかけはありましたか?

きっかけは、2021年4月です。静岡県内の企業とのプロジェクトに参加する機会がありました。当時はスタッフがその都度出張していて、東京とオンラインミーティングをするのに、満足な場所がないことが申し訳ないと思っていました。プロジェクトに引き続き関わるためには迅速な対応が不可欠で、時間的にも経費的にもその都度東京から出向くのは難しいと判断し、そのプロジェクトからは離れてしまいました。
この時に、スタッフが常駐する拠点があれば、静岡市での事業の継続性が高まると強く思うようになったんです。それで、サテライトオフィスの開設に向けて本腰を入れました。


――サテライトオフィスに求めた条件などがあれば教えてください。

必須条件は、会話が外に漏れない個室に入居できることでした。探し始めた当初は、天井部分が空いている仕切り壁の個室や、オープンスペースのオフィスが多くて。自分ひとりで仕事をするには充分ですが、打合せには向かないんですね。いくつか見学しましたが、契約には踏み切れませんでした。

そのうち、2021年の7月1日にサテライトオフィス大手の「リージャス」が開設されると知って、すぐに静岡市産業振興課の担当者の方に紹介してもらい、即決しました。4人ほどで利用できる広さがあります。

実は、静岡市で本格的に事業をやるなら、立地はどこが良いだろうかと真剣に考えていたんです。地元で何人かに聞くと、みんな「葵タワーがいいね」と言うんです。市内一の高層ビルは、JR静岡駅前でアクセスも良い。せっかくなら葵タワーの上層部にオフィスを構えたいと思いながら、オフィス探しをしていたんですよ。だから、1階ではありますが、リージャス静岡葵タワーへの入居に迷いはなかったです。


――サテライトオフィスの開設に関して利用した制度はありましたか?

開設にかかる1か月分の移動の交通費を補助してもらえる、静岡市の「サテライトオフィス等設置事業補助金」を活用しました。

場所さえ見つかればすぐにでも開設するつもりでいたので、静岡市産業振興課とは、コミュニケーションを密にして情報収集をしていました。オフィスの物件情報だけでなく、静岡市のIT企業の代表の方と意見交換の場も設けてもらったりもしました。

IT・デジタルの環境は地方都市ではあまり変わらない。だからこそ、静岡市を一歩先へ!

――東京に比べると、地方のIT化、デジタル化はまだまだ遅れていると思います。実際にサテライトオフィスを開設したことで実感したことはありますか。

そうですね。そもそも、ITやデジタルという概念がないのでは?とさえ感じました。静岡市に限らず、地方都市はどこでも同じ状況でしょう。IT・デジタル産業が、ほぼ東京一極集中なので仕方がありません。だから、デジタル人材がほとんどいないことが、地方のデジタル化が進まない大きな要因なのでしょう。


――そうした状況下での静岡市での事業の可能性を教えてください。

いくつかありますが、ひとつは、静岡市のサテライトオフィスを、東京で進めている開発の仕事を行う拠点、ニアショアとして機能させることです。海外に開発を外注するオフショアに対して、国内に拠点を置くニアショアは、現状では北海道や沖縄が多いんです。これを首都圏から近い静岡市に置くことは我が社の業務の効率化にもなります。今東京で動き出している案件には多くの人手が必要なので、サテライトオフィスの人材とともに動いてくれる、静岡市の企業も出てきてくれたら嬉しいですね。こうしたことで、静岡市にもITやデジタルが産業として定着し、地元での認知度が高まります。

ニアショアとして機能するようになったら、その次のステップとして、ここで活躍するIT人材が中心になって、静岡市の企業のDX推進のサポートをします。

すでにITが産業として存在する東京や大阪では、最初のステップがなく、企業のDX推進からスタートできます。まずデジタル人材を育て、産業として認知してもらうステップが入るのが、地方のDXの流れなのかなと思っています。それを、全国の地方都市に先駆けて、静岡市で実現したいんです。

静岡市のデジタル人材の育成と、中小企業のDXをサポートして、ともに次世代へ

――現在は東京からのスタッフが常駐されていますが、今後は地元での人材採用の計画もありますか。

当面は東京からのスタッフがリーダーとして常駐し、メンバーを増やしていく予定です。もちろん、静岡でも採用活動をしますよ。求人広告を出すことも、静岡市にデジタル産業が根付く一助になればと思っています。ただ、率直に言って、IT人材の地元採用の難しさを実感しました。仕事の裁量の感覚やスピード感が、東京で働く人と差があるんです。採用で重視する条件もずいぶん違います。


――採用にも地域性があるのでしょうか?

はい。例えば、プログラム開発のメンバーはリモートワークが主流なんですが、静岡の人はリモートワークをあまり好まないようで、採用条件でもフルリモートがメリットとして響かないんです。そのかわり、夏期休暇はないのかと聞かれることが多い。それから、同じ業界内で転職するのを、あまりよしとしない風潮があるのかもしれないですね。中途採用の求人に応募してくる地元の人がとても少ないんです。

私も、そうした違いに気づき始めた程度ではありますが、土地の習慣や風習を理解することは、採用において絶対に大切なことだと、今回とても勉強になりました。

静岡県で働きたいというクリエイティブ業界の人材紹介をしている会社との契約の話も進め、他県からIT技術者を呼び込める方法も模索しています。

こうした状況に対応するために、将来的には、専門学校、大学の新卒採用も行って、東京のスピード感を共有できる人材をゼロから育て上げるのが理想的かな、と思い始めています。


――静岡市内の企業のDX推進には、御社のデジタルプラットフォームが貢献しそうですね。

自社開発の「Claudio ERP Plus」を、売上が2億円以上30億円以下の中小企業向けに簡略化して、デジタルプラットフォームごと提供しようと思っています。

今後、IT・デジタル化は必須になります。例えば、2023年10月にインボイス制度(※)が始まったら、中小企業の業務が煩雑になり、デジタル基盤がないと対応は難しいでしょう。また、2050年を目標にしたカーボンニュートラルの実現に向けて社会は動いていますが、自社企業のカーボン排出量の把握は手計算では不可能です。レポートが出せないと、グローバルサプライチェーンから外れてしまうため、製造業が多い静岡にとって損失は大きいものになります。

私は静岡が大好きなので、きれい事ではなく、損得抜きでIT・デジタルの遅れを本気でなんとかしたいんです。


(※) インボイス制度とは
課税事業者に課せられる、請求書の適格請求書等保存方式のこと。従来の請求書よりも記載項目が増え、特に中小企業の経理業務において負担が増加したり、システムの改修が必要になる場合もある。

官民問わず、地元企業や団体との連携は必須。積極的な働きかけで静岡での存在感を高める

▲東京オフィス内。眺望の良さを活かしてリラックスできる環境を整えています。
▲東京オフィス内。眺望の良さを活かしてリラックスできる環境を整えています。

――先ほど、静岡市のIT企業の代表の方と意見交換の場を設けたとおっしゃっていました。静岡市の企業とはどのように連携していくのでしょうか。

静岡市では、大手企業の仕事を受けるのではなく、中小企業へのデジタル導入をサポートしたいんです。国をあげてDX化が始まっている今、中小企業もデジタルに対応できないと廃業に追い込まれます。静岡市にある中小企業の一社でも多くを、そうした状況から救うお手伝いをしたい。ただ、デジタルの普及には、地元企業の協力が欠かせません。静岡市には、地域DXの推進をする任意団体がありますので、我々も今後積極的に参加させていただき、一緒にDXの必要性を伝播できればと考えています。

それから、カーボンニュートラルやサステナブルに対応するDX は、今まではどちらかというと民間の企業が興味を持っていた事案でした。これからは行政とも連携しないと社会に広がらないと考えています。静岡市では清水港周辺エリア等が、環境省により脱炭素先行地域に選定されています。ここでも会社として貢献したいと思い、勉強会等に参加して連携の仕方を模索しています。

静岡市で収益を上げるだけでなく、地元になじんで貢献したい。だからCSRは幅広く

▲静岡オフィス開設後の2021年12月23日、田辺信宏静岡市長を表敬訪問。石川会長は、静岡市のDXに貢献する意気込みを伝えました。
▲静岡オフィス開設後の2021年12月23日、田辺信宏静岡市長を表敬訪問。石川会長は、静岡市のDXに貢献する意気込みを伝えました。

――地域活性化への貢献はどのようなかたちをお考えですか?

地方創生DXとして、地域性のある基盤・デジタルプラットフォームをいくつも用意したいですね。これもまた、ほとんどの地方都市が同じような状況に置かれているからこそ、静岡市を地方創生DXのモデルケースにして、その成功事例を他の地域に展開していきたい。我々は、決して事業を独占するつもりはありません。この点でも地元企業と一緒に盛り上げていきたいですね。


――サテライトオフィスの開設後、トライアルパーク蒲原プロジェクトに寄付をしたり、エスパルスのクラブパートナー契約を結ぶなど、地域振興にも協力をされていますね。

地方創生DXを推進するには、オフィスを構えるだけでなく、地元にちゃんとなじまないとダメだと初めから思っていました。単純に静岡で事業収益を上げるだけではなく、寄付などもできる限り積極的にやっていきたいと思っています。

実は今、私の子どもが通う中学校のPTAが主催する子ども向けのプログラミング教室のお手伝いをしています。小学校に加え、中学校・高校でもプログラミング教育が必修になりました。でも、まだまだ子どもたちも慣れ親しむところまではいきません。そこで、プログラミング講座を提案し講師の派遣を計画しています。

静岡市や周辺の市でもそうした機会があれば、ぜひ協力させてもらいたい。学校の授業でやらされるのではなく、いろいろなことができるプログラミングの面白さを知る子どもたちが増えれば、未来の人材への投資になり新卒採用にもつながります。
こうした数年先を見越した活動は、サテライトオフィスという拠点を持っているからこそできることです。会社として、静岡市では本気で事業展開をしていきます。いずれは、葵タワーの上層部にオフィスを構えますから、期待していてください!

サテライトオフィスで働くIさんに聞きました!

① 静岡県の好きなグルメは?
駿河区の海沿いのいちご狩りが大好きです。久能山東照宮がある、久能山の斜面に並ぶビニールハウスの中では、石垣を組んでいちごを栽培しています。この石垣いちごは、甘みが強く、とてもジューシー。一度食べると病みつきです!

② 静岡県でおすすめor行ってみたい場所は?
トライアルパーク蒲原でBBQをしてみたいです。旧県立高校の敷地を利用した開放的な施設は、静岡市の東の玄関口にあたる富士川の河口にあり、富士山から駿河湾、伊豆半島、御前崎まで、素晴らしい眺望が広がります。ここは名前の通り、地域の商店や団体、企業などが新たなチャレンジの第一歩を踏み出す場でもあります。少し立ち寄るだけでもリフレッシュできますし、イベント時は出店者の熱気が伝わり、私も頑張ろうと刺激される場所です。サウナもおすすめですよ。

③ オフタイムの過ごし方は?
海を見ながら、ぼーっとしたり読書したりしています。静岡市の海岸線を走る道路沿いには、のんびり過ごせるカフェが点在しています。また、素朴な漁村の雰囲気を満喫できるエリアもあります。少し足を伸ばせばすぐに海が見られるのは、静岡ならではですね。

静岡県サテライトオフィス情報発信ライター・竹内友美(たけうちともみ)

現代社会では、もはやデジタルが関係していないものはない状態なのではと思えます。とはいえ、今回、東京と地方では10年の開きがあると伺って、静岡市在住者としては少なからず驚きました。だからこそ、事業を展開できる余地は多くあるのだなと納得もしました。
静岡市を単なるITの下請けにするのでなく、積極的な地域貢献や将来の子どもたちの育成にまで思いを馳せる石川会長の特別な思いに共感、追随する企業が現れ、ぜひ一緒に静岡市を盛り上げていただきたいと感じました。
【竹内友美プロフィール】


サテライトオフィスを開設した「リージャス静岡葵タワー」はこちら

▲「リージャス静岡葵タワー」共有スペース
▲「リージャス静岡葵タワー」共有スペース

JR静岡駅直結のシンボルタワー「葵タワー」内にあり、起業・支店開設、静岡のビジネスに最適です。

1名用の小型区画から数十名で入居できる区画まで、様々なタイプのワークスペースがあり、入居者専用の貸し会議室、プリンターやオフィス家具などオフィスに必要な設備が整っています。

「葵タワー」は地下2階+地上25階建、高さ125メートルと静岡市内で最も高いビルで、オフィスや飲食店に加え、「静岡市美術館」を併設。隣に地上10階地下1階建ての駐車場が連結しているため、利便性が高い周辺環境となっています。

リージャス静岡葵タワー
運 営:日本リージャスホールディングス株式会社
所在地:〒420-0852 静岡県静岡市葵区紺屋町17−1 葵タワー1F
電 話:0120-965-391
アクセス:東海道新幹線・東海道本線 「静岡駅」北口より直結
公式HP:​​https://www.regus-office.jp/area-serch/shizuoka-city/shizuoka-aoi-tower/