伊東市熱海市は全国的にも温泉観光地として有名なエリアです。
伊豆半島の東に位置し、東京から特急「踊り子号」で乗り換えなく1時間30分程度でアクセスが可能、釣りやダイビングなどの海でのアクティビティが盛んで、豊かな山の幸にも恵まれた風光明媚な伊東市
広大な相模湾に面し、東京から新幹線で45分程度でアクセスが可能で、SNS映えする若者向けのお店が近年オープンし始め、宿泊客数も増加している老舗温泉観光地の熱海市
自然が豊かで観光資源に恵まれている伊東市熱海市でサテライトオフィス開設の可能性を探りました。

ツアー概要

〇日時:令和3年12月1日〜3日
〇開催地:伊東市熱海市
〇主な行程:
12月1日(伊東市)
~ワーク・交流会・宿泊・食事~
 ・ワーケーションリゾートISOLA伊豆高原(伊東市)

12月2日(伊東市→熱海市)
~視察~
 ・エクレアホール(伊東市)
~食事~
 ・ワーケーションリゾートISOLA伊豆高原【朝食】(伊東市)
 ・右近【昼食】(伊東市)
~ワーク~
 ・naedoco(熱海市)
~交流会・食事~
 ・MARUYA【夕食】(熱海市)
~宿泊~
 ・ロマンス座カド(温泉施設:日航亭大湯)(熱海市)

12月3日(熱海市)
~体験~
 ・株式会社未来創造部 熱海海岸早朝ヨガ・ビーチクリーン(熱海市)
~ワーク~
 ・マリンスクエア(熱海市)
 ・ニューアカオワークスペース 熱海(熱海市)
~食事~
 ・ロマンス座カド【朝食】(熱海市)
 ・RoseMary【昼食】(熱海市)


【参加者】
株式会社ラ・ギターラ 福田 和博(ふくだ かずひろ) 氏
○本社所在地 :神奈川県
○事業内容  :メディア運営事業
○サテライトオフィス開設検討理由:他県への自社メディア拡大を計画しており、その拠点となるオフィスを神奈川県以外にも設けたいため
○このコースを選んだ理由:伊豆高原には趣味のスキューバダイビングでよく来ていたため愛着があり、都心からのアクセスが良いこのエリアで、宿泊可能なワークスペースを探しているため

株式会社スマートホテルソリューションズ 高志保 博孝(たかしほ ひろたか)氏
○本社所在地 :神奈川県
○事業内容  :システム販売業(主に宿泊施設向け)
○サテライトオフィス開設検討理由:従業員の働き方の多様化に向けた検証と事業拡大のため

○このコースを選んだ理由:地方創生事業として、石川県白山市白峰(はくさんししらみね)で「地域まるごとホテル」というサービスを実証実験で展開している。このサービスを都心から近く観光資源が豊富な伊豆地域でも展開したいため

株式会社三菱総合研究所 松田 智生(まつだ ともお) 氏 
○本社所在地 :東京都
○事業内容  :シンクタンク・コンサルティング・ソリューション事業
○サテライトオフィス開設検討理由:社外の多様な人材の交流によるイノベーション創出、社員の働き方改革、モチベーション向上、SDGsの視点による地域貢献

○このコースを選んだ理由:自社が提唱している「逆参勤交代構想」と親和性があり、逆参勤交代ツアー開催候補地として注目しているため

観光だけじゃない!地域資源を活かした熱海で働く魅力とは

熱海市にあるマリンスクエアにて仕事をしている福田氏
熱海市にあるマリンスクエアにて仕事をしている福田氏

福田氏:
弊社は、神奈川県のワーケーション情報を発信する『神奈川ワーケーションNavi』というメディアの運営を行っています。このメディアの特徴は、ワーケーション経験者である私自身が記事の企画・編集を担当し、単なる観光情報発信メディアではなく、ワーケーションの本質である「ワークがしっかりできる場所なのか」「イノベーションやクリエイティブな発想が生まれやすい環境なのか」というビジネス軸を中心に、ユーザー目線に近い情報を発信しています。現在、ワーケーションNaviのスキームを活用した他県への事業展開を検討しており、サテライトオフィス開設の候補地として、神奈川県からのアクセスがしやすく、観光資源が豊富でワーケーションと相性の良い熱海市に注目しています。

まずは、私自身が現地に赴き、「静岡ワーケーションNavi」立ち上げの可能性を探るべくツアーに参加しました。熱海市内では、築60年の歴史あるビルをリノベーションしたコワーキングスペース&シェアオフィス「naedoco」や、海が近く素晴らしい景観の中で仕事ができるコワーキングスペース「マリンスクエア」に訪問し、それぞれ海辺まで徒歩1分という海と近接した施設で仕事をしました。前者のnaedocoには、「食べる」でつながるラウンジ&シェアキッチンがあり、地域での勉強会やワークショップの場としても活用されています。後者のマリンスクエアは、1Fがカフェで地域の方や熱海で働くフリーランスの人たちなどの情報交換の場になっていました。どちらも仕事をする場所にとどまらず、地域活動の拠点になるハブとしての機能も兼ね備えており、ワーケーションの場所としても魅力的でした。

2日目の交流会では、熱海市の職員や地域コーディネーターなどと地域課題について意見交換を行い、有意義な時間を過ごせました。特に、バブル期に建てた多くのリゾートマンションや別荘が今は使われなくなり、空き施設の利活用が課題となっているという話が印象的でした。その中で、ワーケーション施設へのリノベーションは有効な解決手段の一つだと思います。
熱海市は、「熱海市ワーケーション施設等整備促進事業補助金」という制度があり、要件を満たした企業に対して補助対象経費の2/3(最大1,000万円)が補助され、熱海市に拠点の開設を検討している企業に勧めたい制度であると、職員の方から紹介がありました。

熱海市は「THE観光地」という印象がありましたが、今回いくつかの施設を訪問し、地域の方々と交流したことで「ビジネス」の面でも施設や取組が充実していることを知りました。良い仕事をして、良い温泉に入る、そんな働き方をしたい企業は一度足を運んでみてはどうでしょうか。

サテライトオフィス開設を後押しする地方でのキーパーソンとの出会い

伊東市にあるエクレアホールにて、合同会社うさぎ企画 代表の森田氏(写真中央左)による館内の紹介
伊東市にあるエクレアホールにて、合同会社うさぎ企画 代表の森田氏(写真中央左)による館内の紹介

高志保氏:
弊社の主な事業は、ホテル管理システムの開発販売です。最近では、石川県白山市白峰で宿泊施設のチェックイン・チェックアウトを顔認証で行い、その周辺施設の利用も顔パス決済で完結し、チェックアウト時にまとめて支払いを可能とする「プラットフォームの実証実験」を行っています。「地域をまるごとホテルに見立てる」本サービスを静岡県内でも展開すべく、そのハブとなるエリアとして熱海市と伊東市に注目しています。これは、どちらも都心から乗り換えなくアクセスができる首都圏近郊で、海を主とした観光資源が豊富で宿泊先に選ばれるネームバリューがあり、弊社の事業を展開する環境が整っているからです。弊社は、伊東市にサテライトオフィスを開設する計画を進めていて、今回のツアー参加は、事前に伊東市のキーパーソンとの交流を深め、繋がりを作っておきたいという目的がありました。

ツアーの中では、2日目に伊東市のエクレアホールでお会いした、合同会社うさぎ企画の森田さんとの交流が印象的です。森田さんは日本初の観光型MaaS※を伊豆半島で立ち上げた実績があり、そのプロジェクトリーダーとして有名な方です。葬祭場として利用されてきた城ケ崎海岸駅近くの施設を、宿泊機能を備えたコワーキングスペース・サテライトオフィスとして改装・開業する計画が、森田さんを中心に進んでいます。特に「この施設を関係人口のスクランブル交差点にしていきたい」という話が印象的で、施設のホームページを首都圏の複業デザイナーに依頼するなど、既に関係人口の輪が広がりつつあるようです。弊社も伊東市にサテライトオフィスを開設することで事業の拡大に勢いをつけるとともに、関係人口の輪の一部になれるよう、期待が高まります。

伊東市の職員からは、「伊東市サテライトオフィス等支援事業補助金」のうち、『サテライトオフィス等視察事業』について紹介がありました。これは、サテライトオフィス開設に向けた現地視察を検討している企業に最適な制度です。出発地から伊東市までの交通費のうち、公共交通機関(タクシーを除く)を利用した経費の最大8人分と、指定のワーキングスペースや会議室を利用した場合に日額9,000円(上限7日間)を補助してくれるという内容です。施設の改修費などの設備に対する補助があることはよく耳にしますが、「視察」に対しても補助があるのは珍しく、「まずは伊東市に行ってみよう」と背中を押してくれる良い制度だと思いました。

今回の訪問により、今後、伊東市を中心に関係人口の拡大が期待され、多くのビジネスチャンスが生まれる可能性を感じました。自然豊かで温泉も楽しめる素晴らしいエリアです。興味のある方は、まずは視察に来てください。その際は、伊東市の『サテライトオフィス等視察事業』への申請をお忘れなく。

※ MaaS(マース:Mobility as a Service)とは、地域住民や旅行者一人一人のトリップ単位での移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービス

ツアーで感じたサテライトオフィスに求められる価値とは

伊東市にあるISOLA伊豆高原で行われた、行政職員とISOLAを運営する清水さん、地域の方々との交流会
伊東市にあるISOLA伊豆高原で行われた、行政職員とISOLAを運営する清水さん、地域の方々との交流会

松田氏:
弊社は、2017年より「逆参勤交代」という考え方を提唱しています。江戸時代の参勤交代は、地方から江戸へという人の流れが生まれ、江戸の経済・文化が大きく発展しました。逆参勤交代は、これを逆の発想で捉え、都心から地方へ人の流れを創ることによって、地方にはオフィスや住宅、ITなどのインフラが整備され、ひいては関係人口の増加につながることを意図しています。これまで北海道上士幌町(かみしほろちょう)での大自然リフレッシュ型埼玉県秩父市(ちちぶし)での首都圏近郊型長崎県壱岐市(いきし)でのパワースポット離島型など、複数のエリアでトライアル逆参勤交代ツアーを実施してきました。

新たなツアーの候補地として検討しているのが、都心からアクセスの良い近郊型であり、海と山の両方の自然を楽しむことができる伊豆エリアです。
特に伊東市では、森田さんが新しい宿泊機能を備えたコワーキングスペース・サテライトオフィスを開設する計画や、株式会社ぱんだハウスの清水さんが伊豆高原にワーケーションリゾートISOLA伊豆高原を立ち上げるなど、東京から地方へという動きが活発化しており、逆参勤交代構想との親和性が高く、弊社として他業種との交流・イノベーションを目的としたサテライトオフィスの利用、またはツアーの開催地として注目しており、今回、モニターツアーに参加しました。

ツアーでの一番の収穫は、様々な考えを持つ地域の方と対話ができたことです。サテライトオフィスというものは、単に地方にwi-fi環境が整った施設を設けるというものではなく、オフィスや自宅を離れ、普段と違う環境で仕事やアイデア出しを行うことにより、新たな事業提案を創出するといったイノベーションの視点や、日常業務を見直し自分のキャリアについて向き合う機会になるなど、「人材育成の視点での取り組み」こそが本質的に有する価値だと考えています。
森田さんや清水さんが伊東市へのコワーキング施設開設に至った経緯や、共にツアーに参加した株式会社ラ・ギターラの福田さん、株式会社スマートホテルソリューションズの高志保さんの仕事に対する価値観など、思想の近い関係者と同じ時間を過ごす中で共感することを多く得られたのは、東京に留まらず自らが動いたからこその成果です。私自身としても、自分の働き方や人生観を改めて考えることができた良い機会となりました。サテライトオフィス開設というと、事業拡大や費用対効果などの数値的な面を重要視しがちな部分がありますが、普段出会えない人々との出会いや新しい発見など、定量的に計れないメリットも多くあります。

このような人的メリットを享受するためには、投資が伴い、多少のコストは生じてきますが、伊東市には「サテライトオフィス等支援事業補助金」のうち、『サテライトオフィス等設置事業』という補助金制度があり、要件を満たした企業に対して建物・施設の整備費から土地・家屋の賃借料、通信関連経費、人件費などを幅広く助成しています。イニシャルコストのみならず、ランニングコストも抑えられことは、これからサテライトオフィス開設を検討している企業にとっては大きな魅力になると思います。

サテライトオフィス検討中の企業の方へ

前列右から2番目:株式会社ラ・ギターラ 福田 和博 氏、後列右から4番目:株式会社スマートホテルソリューションズ 高志保 博孝 氏、後列右から5番目:株式会社三菱総合研究所 松田 智生 氏
前列右から2番目:株式会社ラ・ギターラ 福田 和博 氏、後列右から4番目:株式会社スマートホテルソリューションズ 高志保 博孝 氏、後列右から5番目:株式会社三菱総合研究所 松田 智生 氏

福田氏:現地に赴き、まちを歩き、地元の人たちと対話する。これが大事だと思います。実際に今回のツアーでは、地域の事業者や行政職員の話を聞き、サテライトオフィス開設に向けた具体的なイメージを持つことができました。またその際に、事前に自治体や施設のHPで情報収集しておくことで、より踏み込んだ会話をすることができます。いきなりサテライトオフィス開設だとハードルが高いかもしれませんので、まずは現地視察からが良いと思います。


高志保氏:今回訪問した、伊東市や熱海市のような積極的にサテライトオフィスの誘致や県外企業を受け入れている自治体では、行政のサポートが充実しています。私が伊東市から紹介を受けた補助金のように、有益な制度が市のHPで公開されているので入念な情報収集は重要だと思います。静岡県の職員から紹介いただいた「サテライトオフィスしずおか」には、静岡県内の市町で活用できる施設開設や視察の補助金などがまとめられているため、検討の際はとても役立ちますよ。事前調査を行った上で実際に現地へ足を運び、地域の方から地域の「生の情報」を教えてもらうことで、開設先として選択でき、開設後の順調な運営にも活きると思います。


松田氏: 良いサテライトオフィスかどうかの基準は、その場がイノベーションを起こしやすい環境であるかどうかです。いつもと違った景色・環境の中で仕事をすることで、新しいアイデアが生まれる、普段の日常では合わない人たちとの出会いがある、そのような瞬間を価値あるものとし、都心から地方への逆参勤交代が今後活発化していくことを期待します。