創業サポート、ビジネスマッチング、若年層の支援が活気づく焼津市。いま地域に求められている企業、そして人材とは?

遠洋漁業が盛んで水揚金額日本一を誇る静岡県焼津市。ここに誕生した「焼津PORTERS」は、コワーキングスペースやワーケーションに利用できる、新しいビジネスの拠点です。イベントも精力的に開かれており、地元企業、フリーランサー、クリエーター、起業をめざす人といった、多彩な人材や情報が集まるハブスポットとなっています。
今回のインタビューでは、施設の責任者である高谷さんに、これまでの活動実績や、焼津市でビジネスを始める場合の可能性などをうかがいました。
<施設概要>
■焼津PORTERS(ポーターズ)
焼津市中港3丁目1−16
https://yaizuporters.jp
「やいづ版ワーケーション推進事業」の中核施設として、焼津市が整備して2023年4月にオープン。株式会社スマートホテルソリューションズ(本社・神奈川)が運営を担っている。首都圏などで働くビジネスパーソンのテレワークやワーケーションの場、さらに地元企業や市民との交流の場をめざしている。
<取材対象者紹介>
■焼津PORTERS
艦長 高谷正道(たかたに・まさみち)さん
1996年、東京都生まれ。設計事務所や工務店で、設計や施工管理などに携わったのち、2021年に株式会社スマートホテルソリューションズに入社。新規店舗の立ち上げなどを担当する。2023年から焼津PORTERSの「艦長」として、施設の運営にあたっている。焼津市在住。
仕事場として、セミナーやイベントの会場として、さまざまな人材が集まる拠点に
──まず焼津PORTERSはどのような施設か、教えていただけますか。
はい。まず24時間利用できるコワーキングスペースのほか、会議室、テナントスペース、フードコートなどのエリアがあります。コワーキングスペースや会議室は、地元企業やフリーランスの方が主に利用していますね。2024年11月には宿泊施設も完成して、ワーケーションもしやすくなりました。
テナントスペースは新規開業の方の店舗やスタートアップ企業のオフィスとして利用を想定しています。現在は地元の水産加工会社がサウナを営業しているほか、パーソナルジムの開業をめざす方などが出店を検討しています。
──イベントも頻繁に開かれていますね。
そうなんです。民間企業や自治体が主催者になって、コワーキングスペースや会議室を会場にして開いています。市内のコンサルタント会社の場合は、焼津の地元企業と全国のフリーランサーや複業人材を結びつけるイベントを、これまで4回ほど開催しています。
焼津市も起業・創業の支援に力を入れていて、商工会と共催で創業セミナーを開いています。オープンに参加できるイベント以外にも、地元企業の採用担当者による交流会が催されたり、いろいろな使い方をしてもらっています。
──開業から3年目に入りました。運営の手応えはいかがですか。
地元企業の関係者、フリーランサー、クリエーター…いろいろな経歴やバックグラウンドを持った人のネットワークができていて、「PORTERSに行けば、いろいろな人やアイデアに出会える」という認識が浸透していると感じます。来館者の方から「こんなことできる人いないかな」といった相談を受けて適任な方を紹介してあげたり、会員さん同士が自然とつながったりしています。
また、フードコートを利用したり、フリーマーケットやコンサートに立ち寄ったり、一般市民のみなさんにとっても身近な施設になっていると思います。
──これからどのような施設にしていきたいですか。
市外や県外の方を、もっと呼び込みたいですね。単なるテレワークやワーケーションだけにとどまらず、地元とのコラボレーションやイノベーションに広がるような場所づくりをめざしています。
地元企業が地域資源を生かした事業を展開。ITによる販促や仕事効率化の支援で協業の可能性も

──焼津市の特徴をうかがいたいのですが、元気な地元企業があれば教えてください。
そうですね。まず山福水産です。フードロスに対する問題意識から、魚の加工で出た未利用部分を肥料にして、自社でお米の栽培に取り組んでいます。PORTERSのフードコートにも出店していて、そのお米をおむすびにして販売しています。
また、機械装置メーカーのイシダテックは、東京の農業テックの会社とタッグを組んで、AIを利用したわさびの栽培に取り組んでいます。
──どちらも地域の資源をうまく生かしていますね。県外の企業が焼津市に進出する場合、どのような業種だと相性がいいでしょうか。
歴史的に水産業や製造業が盛んな土地なので、一次産業やものづくり、食などの分野は事業を始めやすいかもしれません。また、人口減少、少子高齢化、子育て、若者の流出などは、全国各地と同じように焼津でも深刻な問題です。こうしたテーマに取り組んでいる方も、ニーズが見つかると思います。
──逆に課題に感じることはありますか?
製品や技術は優れているのに、上手にアピールできていない地元企業がたくさんあって、個人的にもったいないと感じています。SNSや動画を使ったマーケティング、デジタルによる仕事効率化などが得意なIT企業なども、協業のチャンスがあるかもしれません。
人情味があって世話を焼いてくれる人がいる土地柄。時間をかけて地域に溶け込むことが成功のコツ
──高谷さんは焼津PORTERSのオープンに合わせて東京から移住したそうですね。焼津市の印象をどのように感じていますか。
まちの規模が大きすぎないところがいいですね。アナログな人付き合いがたくさん残っていて、「知り合いの知り合い」で人脈が広がるので仕事もしやすいです。漁師町という歴史のせいか、まちも人も人情味を感じます。
また、仕事で東京や全国に出張することがあるのですが、電車で静岡駅にすぐ行けて新幹線に乗れますし、静岡空港もよく利用しています。
──地域にはすぐになじめましたか。
実を言うと、最初は地元のみなさんとの距離感がなかなかつかめませんでしたね。県外から移住したIターンの先輩に、アドバイスをいただいたりもしました。結果的に、私の場合はPORTERSに毎日居ることで、徐々に顔を覚えてもらうことができました。これからオフィスを開設したり、焼津でビジネスを始める方も、時間をかけて地域のつながりをつくってほしいと思います。
──あらためてですが、ビジネスをするうえで焼津市の魅力は何でしょうか。
焼津は、面白いアイデアや新しい試みに好意的な土壌もあります。数年前には市内中心部で地域モビリティの実証実験も行われました。商品やサービスのテスト、チャレンジショップやアンテナショップを始めるときも力を貸してくれるでしょう。若年層の活動にも理解があるので、学生や若者の起業も応援してくれるはずです。
焼津市も企業誘致や新規創業に力を入れています。
──逆にどんなことに気をつけるといいでしょうか。
ただお金を稼ぐことが目的だったり、自分の事業のことだけを考えていたら、地域のみなさんの共感を得るのは難しいかもしれません。焼津で何をしたいのか、熱意や思いを伝えることが大切になると思います。
──ありがとうございます。それでは最後にメッセージをお願いします。
焼津には行動力のある企業経営者やフリーランサーがたくさんいて、本業や立場を越えて協力してくれます。リーダーシップやビジョンを持って、コラボレーションを生み出してほしいと思います。
また、視察やスタディツアーなどで焼津をご案内することも可能です。ビジネスの足がかりとして気軽に焼津PORTERSにお越しください!
焼津PORTERSの高谷さんに聞きました!
Q.焼津市の好きなグルメは?
焼津の名物といえばマグロやカツオ、そして黒はんぺんです。特にカツオはタタキもいいのですが、お刺身で味わうのが私のおすすめです。
Q.焼津市のおすすめor行ってみたい場所は?
もちろん焼津PORTERSです!毎週金曜日の夕方に実施している焚き火がステキなので、ぜひ一度見に来てください。
Q.オフタイムの過ごし方は?
静岡市内に行ったりしています。電車で約15分で本数も多いので、不便さはありません。
サテライトオフィスしずおか情報発信ライター・柴山太一郎(しばやまたいちろう)
焼津市の新しいハブ拠点として定着しつつある焼津PORTERS。企業関係者、フリーランサー、クリエーターといった、多彩な人材に巡り合うことができそうです。セミナーやイベントが開かれているので、そうした場に参加してネットワークを広げていくのもいいかもしれません。
高谷さんは東京からのIターンで、焼津PORTERSの開業に合わせて移住しました。地域との関わり方から、企業や人材とのマッチングまで、サポートやアドバイスをしていただけます。焼津への進出を検討している方や、焼津で創業を考えている方は、訪れて損のない施設です。
【柴山太一郎プロフィール】