地域の企業や人々をつなぎ、みんなのよりどころとして地域活性化をはかる株式会社マキノハラボ。2018年に事業実施場所兼本社『カタショー・ワンラボ』を牧之原市の廃校となった旧片浜小学校に開設。地域の企業や人々に寄り添い、研修プログラムや教育事業、イベント企画・運営などの事業展開をおこなっています。牧之原市に移住し地域のキーパーソンとして活躍する代表取締役の浅野拳史さんに、カタショー・ワンラボ開設後の取り組みや、地域とのかかわりかたについて伺いました。

【会社概要・事業内容】
株式会社マキノハラボ https://makilabo.jp/
2018年2月設立。牧之原市にある廃校になった旧片浜小学校の3階建ての校舎を利用し、2階には『RIDE ON CO-WORK オフィス』というコワーキングオフィスを開設。『新たな教育としてまちづくり・人づくりの拠点』として、施設活用事業、DX・スマート農業実証事業、宿泊・飲食事業、日本語・プログラミングの教育事業、まちづくりイベント事業と大きく分けて5つの事業展開をおこなっております。

住所 〒421-0511 牧之原市片浜1216-1 カタショー・ワンラボ内
代表取締役 浅野拳史(あさのけんし)さん

【インタビュー対象者の紹介】
1990年静岡県浜松市生まれ。牧之原市在住。大分県別府市にある立命館アジア太平洋大学アジア太平洋学部にて、学生の半数が外国籍というグローバルな環境のなか勉学に励む。在学中に1年間、バックパックで世界中を旅するなか、東アフリカの環境が自分の肌に合うと感じ、東アフリカで働いてみたい思いがめばえる。大学卒業後、海外協力隊(JICA)隊員として2年間ルワンダ共和国の中学校で物理の教員を務める。社会問題を目の当たりにし、自分にもなにかこの地でできることはないかと模索し、2018年1月ヤンビーコネクト株式会社を設立。高校生向けのスタディーツアーや通訳などの事業を展開。同年、株式会社マキノハラボへ入社。2020年に2代目代表に就任。コロナ禍の影響でルワンダの事業は一旦休業したものの、現在は事業を再開している。2024年3月東京農業大学国際アグリビジネス学の修士を修得。地元の農業をITのちからで補うためのDX・スマート農業事業の研究をしながら、マキノハラボの事業に取り組んでいる。

日本一の富士山を望み、世界とつながる海まで徒歩1分!潮の香りとお茶香る牧之原市の魅力はまさにビジネスチャンス!

▲カタショー・ワンラボ
▲カタショー・ワンラボ

カタショー・ワンラボは、3階建て鉄筋コンクリート造りの旧片浜小学校を利用しています。俯瞰で見るとコの字型になっていて、渡り廊下を境に南側と北側に位置する校舎2階の一室にはコワーキングスペースがあります。事業内容としては、施設活用事業、DX・スマート農業事業、宿泊・飲食事業、日本語・プログラミングの教育事業、まちづくりイベント事業と5つの事業を展開。
施設活用事業は、屋内の空き教室や屋外の芝生の広場にあるトレーラーハウス二棟をコワーキングスペースや、シェアオフィスとして活用。空き教室の使い方としては、地域の公民館的な活用や会議室として貸し出しをし、地域の方が講師をして毎日のようにさまざまな習い事などが入れ替わりおこなわれています。

DX・スマート農業事業の主な内容は、茶農家さんへITを導入し、労務や作業の効率化をはかり、少しでも改善できるようおこなっています。2019年から農林水産省の委託事業を採択いただいて、4年間携わってきました。
宿泊・飲食事業は、廃校の小学校を利用した宿泊できる施設になっています。宿泊は企業研修や学生の卒業旅行でも使われることが多く、企業研修はマキノハラボのスタッフが講師を務めています。社内や部署内での意見交換がより活発になるような、信頼関係を向上するためのチームビルディング研修を主に、新人研修として地元企業をメインにおこなっています。
日本語・プログラミングの教育事業は、牧之原市から委託を受け、移住されてこられた外国の方へ向けた、大人も子どもも受講できる日本語教室を開催しています。学校で必修科目になったプログラミングを実践する授業の補助も、マキノハラボのスタッフが出張して市内全部の小中学校に対しておこなっています。

まちづくりイベント事業は、年間5回、さまざまなイベントを主催しています。コスプレイベントやオクトーバーフェスなど、この地域に限らず全国または全世界から人が集まるようなイベントを開催しています。

廃校になっても人々が集まるので、とてもにぎわいのある居場所になっています。

――静岡県の地域の魅力と地元企業や地域の人々はどのような課題を抱えていると感じたか教えてください。

▲外国籍児童のかたへ向けた日本語初期支援教室『いっぽ』(牧之原市からの委託事業)
▲外国籍児童のかたへ向けた日本語初期支援教室『いっぽ』(牧之原市からの委託事業)

地域の魅力はまず、自然いっぱいの環境と温暖な気候や徒歩1分のところに海があること。天気が良ければ学校の校舎から富士山が一望できます。アクセスは、静岡駅からバスも出ていて、都心からは車で3時間もあれば行ける距離は、都内や県外から研修を希望する会社も多くあります。他の地方の場所と比較すると、交通の便はいいほうだと感じています。

地域のコミュニティが凝縮しているので、外から来られた方と地元企業とのつなぎやすさはあります。地元で活躍されている方は、人口の割合でいうとそう多くはなく限られているので、ビジネスチャンスを求めている方をつなげやすい人脈やコミュニティ、すべてが手の届く範囲にあります。
また、地方は土地代や人件費が都内と比べると安いです。事務処理のお仕事をアウトソーシングで頂くことで雇用が生まれ、コワーキングスペースを活用することで、都会に行かなくても地元で仕事ができる環境を手に入れることができます。

地元企業の課題としては、農家さんが高齢化し、農作業で手一杯なゆえに他のことに手が回らないことです。労務や作業負担の軽減や効率化をはかり、売り上げを向上させるためにITを導入したくても、それを教えられる企業や人が身近にいないです。また、たいへん魅力的な地元飲食店さんは多いのですが、ITサービスとの距離を遠く感じているかたたちが多いようで、ホームページを改善するだけで売り上げ向上につながる可能性が高いと感じています。身近にITサービスを専門で提供する企業がいないのも、ある意味、地方でのビジネスチャンスと感じています。

牧之原市は人口の約6.3%の割合で外国籍のかたが住んでいます。これまで外国から移住されてこられたかたは、そのまま公立の小中学校に入学していました。しかし学校側の受け入れかたやコミュニケーションの取りかたがわからなかったことで、外国籍の生徒が学校に通いづらさを感じるという課題がありました。そこで、海外経験の豊富なマキノハラボのスタッフにより、解決したいという思いから、スタッフはさまざまなトレーニングをおこないました。2024年からはじまった、大人も子どもも受講できる日本語初期支援教室『いっぽ』。牧之原市から委託を受け、現在は3カ国15人の生徒が月曜日から金曜日まで学びに来ています。日本語だけでなく、算数や文化についても教えていて、6カ月間の教育や訓練を受けたのち、公立の小中学校に入学できるというシステムで取り組んでいます。これまでの卒業生は50人ほど。今までは、外国籍児童に対しての日本語教育の補助が不足していました。そこで、マキノハラボの日本語初期支援教室『いっぽ』がワンクッション受け皿になることで、外国籍児童の人材育成につながる仕組みづくりが可能に。地元の小中学校の生徒に向けた教育も然り。学校の授業ではプログラミングの必修化がすすみ、学校の先生も慣れてきてはいるものの、学びを実践する段階になるとどうしても難しい部分があります。そこでマキノハラボのスタッフは、プログラミングを使った実践する授業の補助に取り組んでいます。

みんなで一緒に問題解決。IT×教育のチカラで地域活性化。

――地域から求められている企業像は?

地元の問題解決にみんなでいっしょに取り組んでいけるような企業だと思います。
牧之原市は、全盛期は80万人以上の海水浴目的の観光客が訪れていました。当時と比べると、現在は地域としての魅力はかなり落ちてきているように感じています。地域の強みや原動力がないと、企業も発展しづらくなるので、地域活性化のビジネス・イベントなどの事業を通して、地元の問題解決にみんなでいっしょに取り組んでいけたらいいなと思います。マキノハラボはこの地域に魅力を感じていて、この地域で頑張っていきたい思いがあるので、ITやデザイン、マーケティングの力を使いながら、地元飲食店さんや企業さんとともに、盛り上がっていきたいと思います。

研修や宿泊でよりディープに地元の魅力を発見!地元企業とのつながりかた

▲研修風景
▲研修風景

――カタショー・ワンラボには、企業向けの研修プログラムがありますが、研修を通じて静岡に興味をもった企業や地元とのつながりを持った事例はありますか?

静岡市内にある就職促進の会社が県内約20社の企業さんと大学生がふれあうイベントをこの施設にて開催。面接やホームページを見ただけではお互いがわからないので、より長い時間ふれあうことで知ってもらうことをおこないます。明確な根拠があるわけではないけれど、優秀な方はどうしても都会のほうへ行ってしまいがちに感じます。魅力的な地元企業があることを、1泊2日の時間をかけて知ってもらうことで、新入社員を確保したいのが企業のねらいです。

カタショー・ワンラボは研修に限らず、一般的な宿泊施設としても運営していて、牧之原市内では2番目に宿泊客数が多いです。1番多いのは、静波海岸からほど近いリゾートホテル静波スウィングビーチさんです。静波スウィングビーチさんやお寺、国の重要文化財である大鐘屋、飲食店さんらと協力し、2024年からコスプレイベントを一緒に運営しています。2025年5月は2日間かけて開催。全国からコスプレイヤーの方が集い、リゾートホテルの施設を使った撮影やビーチで乗馬撮影をして楽しんでもらうイベントです。

また、牧之原市はブラジル人の方が多く住まわれているので、地元の方との交流を深める目的でフットサルのイベントを開催。24年10月に行われたオクトーバーフェストには、県内外から3000人以上のお客さまが訪れました。

RIDE ON CO-WORK オフィスの開設をして良かったことと注意点

▲実際のドローンを使った実証試験
▲実際のドローンを使った実証試験

――どのような問題解決方法を提供できる企業が静岡県に進出するとよいと思いますか?

ITを導入したい年配者がいても、どこに頼めばよいのかわからず、お顔の見える距離感でコミュニケーションをとれるITができる方が極端に少ないのも課題のひとつです。お茶農家さんは高齢の方が多く、ITの力を導入したくても、生産することで手いっぱいなので、そういったことを手助けしてくれるIT企業や販売促進、デザイナーなどが身近にいるとありがたいと思います。

IT企業で実証試験を行いたい企業にもおすすめです。実際にあったのは、ドローンを使った大型機械の実証試験。首都圏にIT企業の本社はあっても、実証試験をするとなると規定もあるので、ある程度の広さがないとできない。そんな企業さんは、すでにカタショー・ワンラボへ来て実証試験をおこなっています。企業にとってはメリットしかないので、是非そういった企業に進出してもらえると良いのではないかと思います。

それと、IT企業であれば、どこの環境で働いても仕事はできるので、田舎のリラックスできる環境で、より効率的に働けると思います。

正直、サテライトオフィスのみの運営だけでは採算がとれないのではなかと思います。マキノハラボは、さまざまな事業を展開しているのと、開設時に初期投資およびラーニングコストを抑える運営をしているので、安定的に運営自体をやっていける仕組みづくりになっています。

RIDE ON CO-WORK オフィスへの開設企業と地元企業との取り組みについて

▲RIDE ON CO-WORK オフィス
▲RIDE ON CO-WORK オフィス

――サテライトオフィス開設企業と地元企業との取り組みについてお聞かせください。

サテライトオフィスを開設してくださっている企業さんが、カタショー・ワンラボで研修をおこなってくれました。また、社員旅行で来てくださった企業さんを地元企業に紹介し、つなげる橋渡しの役割をマキノハラボがおこなうこともあります。

実例として多くはないのですが、過ごしやすい季節をねらって都会から仕事をしに定期的に来ていただいている企業さんもいらっしゃいます。サーフィンがきっかけで定住をされたかたが、こういった働き口があると知り、見学に来られるかたも。ちなみに、マキノハラボのスタッフのひとりは、京都からサーフィンが理由で移住し、現在はメイン事業の責任者をしています。

プライベート空間を大事にしたい企業さんは、打合せでよく会議室を使われます。
インターネット環境があり空調環境も整っている、非日常の学校というのに魅力として感じている方も。やはり環境が良くないと使ってもらえないので、他と差別化できているところも、カタショー・ワンラボの魅力と思います。マキノハラボは、『はたらく=たのしく』をモットーにしているので、企業さんが来てくれたときに、できるだけ楽しい環境にするために社員一同工夫し、より付加価値をつけたサービスを提供できるよう心掛けています。

静岡県牧之原市へ進出を検討している企業へメッセージ

――静岡県牧之原市へ進出を検討している企業へメッセージをお願いします。

都会にいると、お金を出せばプライベート空間が確保できるが、田舎はプライベート空間がそこかしこにあるように思います。仕事の休憩をするときも、オフィスから一歩出れば、目の前には気持ちの良い景色が広がっています。ちょっとしたことだけど、日常のストレスを少なくすること、ストレスを蓄積させないことは、会社の離職率の低下にも影響すると思います。実際にマキノハラボは設立以来、離職者がほとんどいないです。

若い方や女性にとって静岡県は働く・生活する場としてどう?

▲浅野さんご家族
▲浅野さんご家族

牧之原市は、保育面では待機児童がほとんどないので、子どもを預けやすい=親が働きやすい、つまり子育てと仕事の両立がしやすい環境が整っております。

一方、現状では牧之原市内には出産できる医療機関がないのが課題かと思われます。これは牧之原市に限らず、日本全国で医師不足に加えて、地域や診療科による医師の偏在が進んでいることによります。牧之原市は、近隣の総合病院や助産院において、じゅうぶんな医療サポートを受けられる体制が整っています。

それと地方で開業するにあたってのメリットは、初期投資が少なくて済むことです。土地代や人件費は都内と比べると安く、起業においては低リスクで済みます。
地元がこちらで一旦は都会へ働きに出ても、仕事があって過ごしやすいと感じる幸福度があれば、都会でなくても暮らせると思います。

サテライトオフィスで働く浅野さんに聞きました!

Q.1 静岡に来て美味しいと感じた食べ物はなんですか?

地元が浜松なので、他県から移住してきた人のような感動はないですが、うなぎがとても好きです。行きつけのうなぎ屋さんがあるので、そこへいつも食べに行きます。

Q.2 大好きな静岡のスポット、自慢のスポットを教えてください

静岡といえば富士山ですが、海も富士山も一緒に一望できる、カタショー・ワンラボからの風景が大好きです。

Q3. 休日の過ごしかたを教えてください

生後8か月(※2025年2月時点)の娘といっしょに過ごすことです。それと、家族で焼き肉を食べに行くことです。私も妻もとてもお肉が好きで、牧之原と焼津にある焼肉屋さんが好きで、家族で毎週行きます。

サテライトオフィスしずおか情報発信ライター 本田秋江(ほんだあきえ)

とっても気さくで話しやすかった浅野さん。大学でグローバルな世界に踏み込み、世界中を旅して、住む土地や国籍に垣根無く、教育というカタチの支援で手を差し伸べるさまは、オトコ版マザーテレサとでも名付けてよいだろう。自然を愛しどこへでも順応できるカメレオンのような能力で地域活性化をはかる、今後の活躍に目が離せない。