静岡県拠点開設セミナーレポート2023夏 | 拠点開設者や参加者の生の声

2023年8月1日(火)、品川フロントビルにて「静岡県拠点開設セミナー」が開催されました。2022年秋に開催し、好評だった「静岡県サテライトオフィス開設セミナー」の第2弾です。
本セミナーの参加対象者は、静岡県内に拠点開設を検討中のICTやサービス業の関連企業の方々。リアル会場とオンライン配信あわせて、計39社/49名が来場しました。全体の参加者数は昨年の約3割増であることから、静岡県内への拠点開設に対する関心の高まりが感じられました。
このレポートでは大盛況のうちに幕を閉じた、本セミナーの様子をご紹介します。
「静岡県拠点開設セミナー」開催概要
日時:2023年8月1日(火)13:00 〜 15:00
会場:品川フロントビル会議室(東京都港区港南2-3-13品川フロントビルB1階)
主催:静岡県
開催形式:リアル会場+オンライン配信
参加者:静岡県での拠点開設に興味関心を持つICT・サービス関連企業(情報通信・インターネット、経営コンサルティング等)
「静岡県拠点開設セミナー」プログラム
まずは、本セミナーのプログラムについて簡単にご紹介します。
1.地方に拠点開設するなら静岡県!
2.拠点開設者等によるパネルディスカッション
3.各市町ブースにて個別相談会
※個別相談会は会場にお越しの方のみ

本セミナーの構成は、大きく分けて「講演、パネルディスカッション」と「個別相談会」の2部制です。セミナー前半では、静岡県と各市町の担当者が各エリアの魅力や拠点開設に関するPRポイントを発表。その後、県内に拠点を開設した事業者等によるパネルディスカッションに移行しました。
セミナー後半では会場の来場者を対象に、個別相談会が実施されました。
会場後方に13市町の相談ブースが設置され、拠点開設に関する悩み(補助金の有無や事業展開の可能性など)を直接相談できました。
プログラム1-1「地方に拠点開設するなら静岡県!」
ここからは、セミナーの内容を詳しくご紹介します。まずは「地方に拠点開設するなら静岡県!」について。ここでは静岡県や各市町の担当者が登壇し、県内での拠点開設時の支援制度や拠点開設における各地域の強みを発表しました。
はじめに静岡県総合政策課渡邉フロンティア推進室長があいさつしました。
渡邉室長は、今年のセミナーは昨年から参加者が増加していること、コロナ禍を経て社会人の働き方とライフスタイルに変革が起きていることを背景に「これからは地方が主役になる時代が到来するのではないか」と期待を込めます。静岡県が拠点進出企業への補助金の創出や人材確保・ビジネスマッチングのサポートに乗り出していることにも触れ、「セミナーを通してこれら支援内容と静岡県の魅力を認識していただき、県内への拠点進出を前向きに検討してほしい」と語りました。

次に同課所属の望月主任による「静岡県の強み」の発表へ。
現在、静岡県内のサテライトオフィス開設企業数は累計73件(令和3年度末時点)で、全国6位。開設企業は続々と増え、令和4年度末には100件に到達する見込み。
静岡県が地方拠点の開設地に選ばれていることについて、望月主任は「3つの理由がある」と言います。
3つの理由とは…
1.アクセスメリット
2.豊富な地域資源
3.地域ごとの特徴を活かした事業展開
静岡県は、東京・名古屋から新幹線で1時間圏内、大阪も2時間以内でアクセス可能です。拠点を開設した場合、各都市の本社や取引先とスムーズに行き来でき、距離的ストレスを感じにくいのが魅力です。
お茶や温泉などの魅力的な地域資源が豊富な静岡県は、人口・県内総生産ともに全国10位。さらに製造品の出荷額は全国3位であり、製造業に強い“ものづくり県”です。東西に長い静岡県は、地域ごとに特色があります。富士山があり自然豊かな東部、都市機能が集約された中部、ものづくり産業やスタートアップ企業が集積する西部、レジャーや観光産業が盛んな伊豆など、県内にはさまざまな魅力あふれる地域があります。望月主任は「各市町の発表やブースでの相談を通して、各地の違いを比べ、少しでも静岡県に興味を持ってくれたら」といい、話を閉じました。
プログラム1-2「各市町の拠点開設アピールポイント」

「地方に拠点開設するなら静岡県!」では、6自治体の担当者によるプレゼンも行われました。各地の魅力に加え、拠点開設時に役立つ支援制度や補助金、進出時に期待できるビジネスチャンスなど、参加者の検討材料となる情報が集まりました。
・ 静岡市 (静岡市産業振興課主任主事 櫻井さん)
県庁所在地である静岡市は、駅周辺に行政機関や病院、商店街などが集中したコンパクトシティです。製造業や卸売業、小売業が盛んである一方、情報通信業を営む会社数は全国平均を約1%下回る2.4%に止まっています。
市内には情報系専門学校や大学があることから、静岡市にはITに明るい学生、若手人材がいます。彼らの就職先確保や市内企業のDX化を進めるためにも、情報通信業を展開する企業の誘致を進めていきたいです。
・ 三島市 (三島市企業立地推進課係長 近野さん)
静岡県東部に位置する三島市は、東京から新幹線で1時間弱の距離。また三島駅周辺にはコワーキングスペースやオフィス物件が集まっていることから、テレワークとオフィスワークを組み合わせたハイブリッドワークに適した環境が整っています。
また、サテライトオフィス開設時の物件探しから補助金の相談、従業員の定住相談など、行政のサポート体制も万全です。
・ 富士市 (富士市産業支援課主査 松葉さん)
新幹線停車駅「新富士駅」がある富士市は、製紙産業が盛んな製造業の町です。現在は製造現場の人手不足解消とDXによる効率化が急務です。我々が主体となり、製造業のDX化を提案できる首都圏企業と課題のある市内製造業のマッチングを行っています。ITベンダーの皆様、富士市を助けてください。
・ 磐田市 (磐田市産業政策課主事 鈴木さん)
磐田市は「行政と民間企業の距離が近い自治体」です。年間1000件を目標に行う「おせっかい支援事業」では、市職員が市内企業を訪ね、課題解決をサポートしています。時には専門家との同行訪問や企業間マッチングも行います。
磐田市も、市内企業のDX化に課題を抱えています。市内企業140社に調査を行ったところ、約半数がDX化に未着手。人材やノウハウがなく、DX化を進める上で相談できる企業も身近にない状況です。課題解決につながる企業に来てもらえるよう、補助制度や支援制度を用意しています。
・ 藤枝市 (藤枝市企業立地戦略課主幹 河原崎さん)
藤枝市では、駅周辺の利便性と魅力向上を図った官民一体の再開発や定住者、来訪者の誘導に関する取り組みを展開しています。22年には、コワーキングスペースを整備。単なる働く場所ではなく、ビジネスコミュニティをどう作るかが大切です。
コミュニティ作りの一環として、 フジエダ未来共創会議を通じて首都圏企業と地元企業のマッチングを促進したい。金融機関とも連携し、今年度中に開催する予定です。
・ 河津町
(河津町企画調整課係長 古川さん)
河津桜で知られる河津町は、人口約7000人の小さな町です。町の主産業は観光業。観光客の6割は、河津桜まつり開催時期の2ヶ月間に集中します。
山・海・川が揃った豊かな自然があることから、観光においても、その他の面においても、まだまだ伸び代があります。23年度に新設した課題解決のための補助金もあるのでぜひ私たちと一緒に仕事をし、河津町にいる私たちでは気づけなかった課題についても柔軟に取り組んでいきましょう。
プログラム2-1「拠点開設者等によるパネルディスカッション」
「拠点開設者等によるパネルディスカッション」では、県内に拠点を開設した事業者とコワーキングスペース運営事業者の計3名が登壇し、静岡県で事業を展開する経緯や魅力などを語りました。

プログラム2-2「採用活動で『静岡で働きたい人がたくさんいる』と実感」
まずパネルディスカッションで話題となったのは、「現地での採用活動」です。
東京に本社を置くアニメーション制作会社の 株式会社シャフトは、22年6月静岡市に「シャフト静岡スタジオAOI」をオープン。現在同スタジオには約10名のスタッフが勤務しています。中には東京本社から異動した社員の他に、現地採用で入社した若手社員もいるそうです。
久保田さん:「静岡市の協力もあり、地元の方を中心に、初年度は2名、23年度は4名を採用しました」

首都圏集中型のアニメ業界に変革を。その第一歩は静岡市から(株式会社シャフト)
静岡スタジオの大きなテーマは、「人材育成」です。
久保田さん:「スタッフには長く働きながら、スキルアップをしてほしい」
その言葉の背景には、技術を必要とするアニメーション業界ならではの理由もありました。
久保田さん:「この仕事は、入社してからスキルを習得するまで何年もかかるケースが多い。住み慣れた地元で働くことで、スタッフの負担を軽くできるのも魅力でした」
シャフト静岡スタジオは、24年度の新卒採用も実施。7月末日で応募を締め切ったところ、うれしい気づきがあったそうです。
久保田さん:「県内の応募者よりも、県外在住で静岡スタジオ勤務を希望する応募者が多かったので驚きました。静岡市で働きたい若手は非常に多いのだと実感しました」
プログラム2-3「ワークライフバランスも◎ 静岡での暮らし」
拠点開設事業者の馬場さんが所属する 株式会社Asian Bridgeは、WEBシステム・アプリ開発企業です。東京本社の他に、金沢、富山に拠点があり、約70名が勤務。馬場さんは23年に開業した浜松オフィスの責任者として、静岡エリアの事業展開の中核を担います。
馬場さん:「当社は本社・北陸・浜松に拠点が分かれていますが、会社全体でリモートワークができる環境を構築しているのでスムーズに仕事が進められています」

【サテライトオフィス視察ツアーレポート~浜松市・湖西市〜】ものづくりの盛んな地域でそれぞれの特徴を知り、地域とのつながりを軸に事業展開のイメージを膨らめるツアー
また子育て世代でもある馬場さんは、「暮らしやすさ」についてこう語ります。
馬場さん:「たくさんの自然に囲まれて、のびのびと暮らしています。通勤も日常生活も、基本的には車の移動が中心。掛川花鳥園などの親子で楽しめる施設が1時間圏内にあるので、休日は子どもと一緒に出掛けています」
また、三島市でまちづくり事業を展開する 加和太建設株式会社の本多さんは、埼玉県からのIターン者ならではの視点から、三島市周辺エリアの魅力を教えてくれました。
本多さん:「この周辺は、『飲み屋がちゃんとある田舎』です。中心市街地に飲食店が集まっているので、はしご酒ができる。これは僕にとって重要な要素です(笑)」
本多さんは、三島・中心市街地のエリア価値向上を目標に開設された「まちなか事業室」でリーダーを務めていることもあり、同エリア内の物件をよく知るプロです。三島市の住宅コストと住民のライフスタイルについてこう語っています。
本多さん:「三島市の家賃水準は、横浜市の郊外とほぼ同程度です。東京まで通勤圏内なのに、都心と比べると安い。距離的なメリットを活かして、『週2は三島でテレワーク、週3は都内に出勤』といったハイブリッドワークをする方も増えています」
株式会社シャフトの久保田さんは、まさに静岡市と関東圏を往来する人のひとり。本社がある東京と埼玉県の自宅、スタジオのある静岡市を行き来しています。
久保田さん:「生活面では静岡市が圧倒的にラク。都心と比べて渋滞もほとんどないので、車移動のストレスもありません」
また静岡スタジオ勤務者の多くは、徒歩通勤圏内に居住しているそう。通いやすい上、生活コストも3割程度削減できているそうです。
プログラム2-4「行政や地元企業との協力で、ビジネスの可能性も広がる」

静岡県内に拠点を設ける上で、「ビジネスの可能性」も大切な要素です。コワーキングスペースを運営し、さまざまな事業者とつながりのある本多さんは、県内でニーズのある事業者として「マーケティング会社」を挙げました。
本多さん:「経済規模が全国10位と称されている静岡県は、多くの可能性が秘められた地域です。例えば、グローバルな視点を持つマーケティング会社が静岡県の地域特化型マーケティングをすれば、活躍していただけるのではないかと思っています。東京より競合が少ないため、仕事も獲得しやすいのでは」
株式会社Asian Bridge馬場さんは、自治体の仕事も手掛けています。今年度は静岡県と湖西市の事業に採択されました。
馬場さん:「(サテライトオフィスのある) co-startup Space & Community FUSEで働くことで、地域の生の情報を得られたり、地元企業の方とのリレーションを構築できるなど多くのメリットがあります。各自治体の担当者はいずれも事業に対する熱意があり、仕事がしやすいです」
久保田さんも静岡市での展開に可能性を感じています。
久保田さん:「今後、我々アニメーション制作会社と地元企業のコラボレーションなどが実現できたらいいですね」
「静岡県拠点開設セミナー」参加者の声

最後に、本セミナーに参加した方のコメントをご紹介します。
【A社(情報通信業)】
事業規模の拡大に伴い、地方拠点の開設を検討しており、セミナーに参加しました。地方拠点には、Iターン、Uターン人材を集約したいと思っています。今回の参加を通して、地方に求められている企業や人材の具体像が把握できたので、とても良い機会でした。
【B社(映像制作会社)】
静岡県出身です。地元での事業展開の可能性を探っており、そのヒントを求めて参加しました。
東京の企業が地方に進出するためには、その地域で事業として成立させられる見込みや算段が必要です。セミナーに参加して「時代が変わりゆく中で、社員のワークスタイルや地方での事業展開など、いろいろな方法があるのだ」と気づくきっかけになりました。
「静岡県拠点開設セミナー 」参加市町一覧
最後に本セミナーに出展した13市町の情報をご紹介します。
1. 磐田市
2. 御前崎市
3. 牧之原市
4. 焼津市
5. 藤枝市
6. 静岡市
7. 富士市
8. 沼津市
9. 長泉町
10. 三島市
11. 熱海市
12. 伊東市
13. 河津町
静岡県サテライトオフィス情報発信ライター・佐藤優奈(さとうゆうな)
本セミナーは、各エリアの特徴や強みだけでなく、地域が抱える課題なども深く知れる良い機会となりました。そして地域課題を解決できる企業の進出を心待ちにしている自治体も少なくない様子。静岡県内に拠点を開設したい企業にとっては、新たなビジネスチャンスに気づける場とも言えるかもしれません。
【佐藤優奈プロフィール】