セミナーやイベントに足を運びつかんだ縁が、新事業を始める糸口に(株式会社Runpath)
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東京に本社を置くIT企業、株式会社Runpath(ランパス)。「地域にIT企業が少ない」という想いから進出を検討し、2024年4月に静岡県磐田市に同社初となるサテライトオフィスを開設しました。
依頼を受けてシステムを開発する受託開発をメインとしてきた同社ですが、サテライトオフィス開設を機に、自社サービスの開発、販売にも取り組んでいきたいという想いがあったといいます。静岡支社長を務める清水恭太さんに、磐田市を選んだ理由、開設後の事業展開のご状況についてお話を伺いました。
会社概要
株式会社 Runpath(ランパス)
https://runpath.co.jp/
事業内容
システム開発事業
地方創生事業
産学官連携事業
アミューズメント事業
DX/AI イノベーション推進事業
東京本社:東京都千代田区神田和泉町1-2-5 昭和ビル4階
静岡支社:磐田市二之宮東17番地の1 遠鉄磐田今之浦ビル5階西
◆インタビュー対象者紹介
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清水恭太さん
株式会社 Runpath 静岡支社長
福井県福井市出身。福井大学を卒業後、千葉県の会社に就職し、IT関連事業に従事。その後、同社に入社。サテライトオフィス開設にあたり、静岡支社長として磐田市へ。
製造業の多い土地柄&都市部へのアクセスの良さが磐田を選んだ決め手に
――貴社は東京本社の会社ですが、サテライトオフィスを開設されようと考えたのはなぜですか?
地方からIT企業があまり生まれていないこと、また進出しているIT企業が少ないことに目を付けたのがきっかけです。実はいろいろな地域から企業誘致の話を受けておりまして、静岡県もそのうちの1つでした。
そのなかで着目したのが、静岡県と新潟県です。理由は東京や名古屋からのアクサスの良さですね。両方とも話を進めていたのですが、新潟県は能登半島地震の影響で一旦ペンディングに。そのため、まずは静岡県への進出話を進めていくことになりました。
――いろいろな自治体があるなか、磐田市を選ばれた理由は何だったのでしょうか。
ご縁ですね。令和5年(2023年)8月に、都内で静岡県主催の拠点開設セミナーがありまして、そこに弊社代表が地方進出の調査を兼ねて参加したんですよ。そこで磐田市の職員の方とお会いしてお話したのがきっかけとなりました。製造業が盛んな地域であることも大きかったです。
――製造業が盛んであることを重視されていたのはなぜですか?
弊社代表が出向いた企業誘致セミナーで、製造業がDX化で後れを取っている業界であるとあらためて知り、潜在的なニーズがあるのではないかと思ったためですね。弊社はクライアントからの依頼を受けて開発する受託開発をメインとしてきたのですが、自社サービスの開発、販売にも力を入れていきたいと考えていまして、その対象として製造業に可能性を感じたのです。
ただ、我々は製造業の実情について詳しいわけではありません。そこで、製造業が盛んな地域に拠点を設けることで、顧客となり得る企業とつながりを持ち、製造業のDXニーズをつかみたいと考えたわけですね。
――そこで、お話する縁もあった磐田市に決められたと。
はい。製造業が盛んであり、東京・名古屋の両方へのアクセスが良いことが決め手になりました。静岡県では高度ICT人材確保事業を展開されていまして、その要件もエンジニアの私が磐田拠点に常駐することで満たすことができたため、ICT・サービス関連企業進出企業費補助金(高度ICT人材確保事業)を利用することもできました。
――オフィス選びの際は何を重視されましたか?
磐田駅からの近さですね。駅から徒歩10分圏内で物件を探し、該当するビルの1室に決めました。最初は私ひとりでしたが、今は磐田市在住の方2名を事務員として採用し、3人で仕事をしています。
対面コミュニケーションのなかで地元企業のニーズを把握
――清水さんは福井県のご出身だと伺っています。静岡県にはこれまで何か関わりがあったのでしょうか。
いえ、特にありませんでした。特に訪れたこともなく、富士山を見て「富士山だ!」と感動したほどでしたね。
――ゆかりのない土地で暮らすことに不安や心配はありませんでしたか?
なかったですね。そもそも、就職時に地元から千葉県に出てきていまして、Runpathに転職後も都内に引っ越すなど暮らす場所を転々としてきた人間なので、住む場所が変わることに対しての抵抗感は少ないほうなんです。
ただ、サテライトオフィス開設に際して立場が変わることに対してはいささか不安がありました。プログラマーとして働いてきたのですが、新拠点をひとりで開いたのちは、支社長として営業もやっていかなければなりません。支社長という役割を担うことに対して不安や緊張もありましたが、自社サービスの開発、販売というミッションを完遂し、静岡県磐田市に根付いてビジネスを展開していけるよう、必要なことであればやりたいという想いを持ってやってきました。
――サテライトオフィス開設後の動きについてお聞かせください。ご想定していたように進んでいったのでしょうか。
正直、しばらくは苦労したなというのが率直な感想です。会社としても縁もゆかりもない土地に開設したわけですから、ツテがなくどこに何を売りに行けばいいかわかりませんでした。
市役所や銀行に出向いて話をしに行ったり、イベントやセミナーがあれば積極的に参加したりと、足を動かしていくうちに、そこで出会った人と関係性を構築していった感じですね。東京ではチャットツールなどデジタルなやり取りで最初から最後まで完結する関係性も多いですが、足を運ぶこと、それも何度もという、対面コミュニケーションの大切さをあらためて感じました。これはこれから進出する企業の方も知っておいて損がないことだと思います。
ただ、関係性ができたからといって、簡単にニーズがわかったわけではありませんでした。お話した製造業の方たちはDX化に関する知見があまりなく、「こういうサービスがほしい」といえる段階になかったのです。
「DX化を目指すといっても、何のシステムを入れればいいのかわからない」とおっしゃる企業様が多く、顧客のニーズに合わせて開発するのではなく、まずはこちらから導入を検討しやすいサービスを作ってご提案するほうがいいと判断しました。具体的には、コーポレートサイトやECサイトの作成、AIチャットボットなどですね。こうしたわかりやすいサービスの導入を入口に、ニーズを聞き、仕事を広げていくきっかけとしていきました。
最初のきっかけをつかむのは大変でしたが、つかめさえすれば広げやすい土地柄だといえるのではないかとも思っています。これは静岡県や磐田市に限ったことではないかもしれませんが、地元企業同士のつながりがあるため、どこかに出向いて1社とつながると、その企業と関係のある企業ともつながれるチャンスを得られるなと。
これは何も企業だけではなく、役所の職員の方、市議会議員さん、国会議員さんとつながっていることも珍しくはなく、そこが東京とは違うところだなと。気付けばみんなどこかしらでつながっているんですよ。東京で仕事をしてきた身としては、そのつながりが新鮮に感じますし、助けにもなっています。
――東京から進出してきた立場だからこそ感じること、見える課題はありますか?
みんながつながっていることで良い面もある一方、それが一歩を踏み出しづらくしている側面もあるのかなと感じます。地方創生事業を展開して磐田市をより良くしていきましょうという想いや課題感は共通認識としてあれど、旗振り役として前に出てくる存在がはっきりいるわけではないのは、つながっているがゆえなのかなと。みんながみんな、「誰かが一歩を踏み出してくれないかな」とお見合い状態になってしまっているのかもしれません。
そうしたなかで、我々のような外からやってきた企業が新たな取り組みをすることで新しい風を吹かせることにつながるのではないかと思っています。
――実際にどのような取り組みをされていらっしゃるのでしょうか。
新規事業として、ゲームプログラミング事業という若い方にも興味を持っていただける事業を始めました。これは当社がワークピア磐田で開催したゲームプログラミング教室をきっかけにeスポーツ事業会社さんからお声がけいただき、「子どもたちにeスポーツとゲームプログラミングの楽しさを伝えていきましょう」という話になり始めたものです。eスポーツに関する展開は拠点開設前には想定していなかったもので、これから広げていきたいと意気込んでいます。
――先ほど、地元の方を事務員として雇用されたというお話もありました。これも地元の方にとっては雇用の創出という新たな風の1つだといえそうです。
そうなっていたらいいですね。支社としての地盤ができてきて、そろそろ人が必要だなと感じ、雇用制度を活用して採用させていただきました。
磐田に来てみて感じるのは、理系技術職以外の働き口の少なさです。技術者ではない女性の方にとっては、働く場の選択肢が少ないのではないかなと。事務員のほか、コールセンターや物流倉庫も、仕事として需要があるのではないかと思います。そういった業種の企業が磐田に進出してくることで、非技術者、文系の方が働ける場が増えるといいのかなと感じますね。
毎月「DX体験セミナー」を開催し、企業との接点を自ら創出。出会いが新事業を始めるきっかけにも
――地元企業と出会い、新事業にも取り組み始めているというお話でしたが、直近のご状況はいかがでしょうか。当初の目的だった製造業のDX化支援についても、進捗があればお聞きしたいです。
DX案件も徐々にいただけるようになってきました。1つ製品ができれば、その会社だけではなく同業他社にも販売できるようになるため、開発したシステムを広い範囲で売っていけるようにしたいなと思っているところですね。
そのきっかけづくりも兼ねて、毎月DX体験セミナーを開催しています。まずは地元事業の方たちに「Runpath」という会社を知っていただきたいなと。磐田にDXに関する相談先があるという認知を広げたいと思っていまして、製造業に留まらず、さまざまな企業を対象に、商工会議所をお借りして開催しています。
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磐田市に来て、商工会議所やセミナーなど、企業が集まる場があることに良さを感じたんです。特に、企業同士が知り合えるのが利点だなと思い、DX体験セミナーでは、あえてグループワークの時間を多めに取り、参加企業同士が関われるようにしています。それが即商談につながるかどうかは一旦脇に置いています。自社のこと、自分のことを知ってもらえることに満足感、充足感があると思っているんです。
私自身、商工会議所で開催されていた生成AIセミナーに参加した際、同じグループにいた銀行の方がその後の懇親会で話しかけてきてくださり、うれしかったという体験をしています。その後、「地方創生にも力を入れているので、ぜひ一緒にやっていきましょう」というお話をいただいてもいます。すぐに形にならずとも、何か新しい取り組みのきっかけになる可能性はある。一つ一つの出会いを大切にしていきたいと思いますね。
――今後の展望についてお聞かせください。
eスポーツとゲームプログラミング事業に力を入れていきたいですね。これらの業界は共に黎明期だからこそ、今から力を入れることで世界で認知される存在になり得る可能性があると思っています。eスポーツを含め、「日本のIT企業といえばRunpath」と世界で認知される企業を目指して、磐田市から世界へと事業を展開していきたいです。
磐田市を始め、遠州地域にゲームプログラミング専門学校を開設していく予定もあるのですが、卒業後に働く場所がなければ、みんな都市部へと出ていってしまいます。静岡県でそのまま働けるよう、ゲーム開発拠点も増やしたいですし、他のゲーム会社にも静岡にサテライトオフィスを開設してもらうことで、一緒に盛り上げていけたらいいなと期待しています。また、大手ゲーム会社への就職以外の道として、eスポーツの大会スタッフなど、ゲーム業界の仕事の選択肢を増やすことで、若者たちがゲーム業界に携われるような場づくりも行っていきたいです。
――ありがとうございました。最後に、静岡県磐田市にサテライトオフィスを開設してみて思う静岡県進出の良さについてお聞かせいただけますか。また、物流やコールセンターといったお話も出ていましたが、あらためてどのような企業に進出ニーズがあるのか、清水様のご意見をお聞きしたいです。
身もふたもない話になりますが、磐田市は東京や名古屋、同じ県内でも浜松に比べて土地代が安いという金銭面での強みがあると感じます。広い土地もありますから、進出当初から大規模な事業計画を立てられるのも魅力でしょう。物流倉庫には一定の土地が必要ですから、そういった意味でも適しているのではないかと思いますね。
あと潜在的なニーズがあるのではないかと思っているのはIT企業です。磐田市には製造業が多いため、我々のように製造業を取引先として考えている企業にとっても事業の可能性があるでしょうし、同じ製造業の企業さんですと仲間を見つけやすいという利点があるのではと思っています。こうした企業の進出が進むと、もっと活気づくのではないかと思いますね。
――ありがとうございました!
サテライトオフィスで働く清水さんに聞きました!
① 静岡県の好きなグルメは?
磐田に来て最初に思ったのは、シラスの美味しさです。磐田駅の近くにある「知久屋(ちくや)」さんという弁当屋さんのシラス丼がとても美味しくて、そのお弁当がある間はそればかりを選んでいるくらいお気に入りです。
② 静岡県でおすすめor 行ってみたい場所は?
やっぱり富士山が見られる新富士ですね。静岡にやってくるまでは富士山を見る機会すらなかったんです。はじめて見たときは想像以上の大きさに感動しました。
③ オフタイムの過ごし方は?
3、4歳ごろからスーパーマリオブラザーズをプレイしていたくらい、大のゲーム好きなので、今も休みの日はゲームをすることが多いですね。今、自分の好きなゲームを事業にできているのが本当に楽しくて。弊社から発売されたパソコンゲーム「Undefined survivors」を自分でも遊んでみて、一緒に事業を展開しているeスポーツ企業さんとストリーミング配信をやるなど、いろいろ取り組んでいきたいです。
清水さんへの取材を終えて
ゲームに関する新規事業を始め、「これから本格的に進めていくのが楽しみ」と瞳をキラキラ輝かせながら語ってくださった清水さん。受託事業から自社製品の開発の糸口をつかむための地方拠点の設立が、思わぬ新たな可能性につながったエピソードは、お話を聞いているこちらもわくわくするお話でした。専門学校ができ、卒業後に働ける企業が増えれば、地域の雰囲気も大きく変わるでしょう。清水さんたちの取り組みにより、静岡県磐田市周辺がどのように変化していくのか。今後の展開が楽しみです。
サテライトオフィスしずおか情報発信ライター・卯岡若菜