人には人の歴史があるように、街にはその街の歴史があります。地域住民や観光客で賑わった時代もあれば、時の移り変わりや周辺環境の変化、住民のライフスタイルの変化などを理由に、衰退の一途を辿ることもあるでしょう。
そして、街の歴史をよく知る人こそ、このようなビフォー/アフターに心を痛めています。

西伊豆町出身の矢岸洋二さん(株式会社西伊豆プロジェクト代表取締役/DE-SIGNグループ)は、地元に再度活気を取り戻すべく、アクションを起こしています。
2020年に設立した現地法人「株式会社西伊豆プロジェクト」での展開を経て、新たな町の歴史を作ろうと奮闘する矢岸さんにお話を伺いました。

会社概要

DE-SIGNグループ
https://www.de-sign-group.jp/
「ハタラくをドライブさせる。」をMISSIONに掲げる企業グループです。株式会社ディー・サイン、株式会社andONE、株式会社FaMilという3つの事業会社とその活動を支えるプラットフォーム会社である株式会社DE-SIGNグループの計4社で構成されています。

本社所在地:東京都中央区京橋3-3-11 VORT京橋 2階 kyobashi TORSO
サテライトオフィス所在地:【三島市】静岡県三島市本町2-4 ワーカーズリビング三島クロケット
西伊豆町】静岡県賀茂郡西伊豆町安良里100-1KAMO’n houseほか

株式会社西伊豆プロジェクト
https://www.nishipro.jp/
DE-SIGNグループのファミリー法人。
様々な課題を抱える地域にあって、なかなか踏み出せないアイデアや挑戦に向け、人を繋ぎ課題を繋ぎアクションを推し進め、同時に自らもプレイヤーとして新しい価値を創造に取り組む。

所在地:静岡県賀茂郡西伊豆町安良里100-1 KAMO’n house

インタビュー対象者紹介

矢岸洋二(やぎしようじ)さん(株式会社西伊豆プロジェクト代表取締役/DE-SIGNグループ) 
西伊豆町出身。1988年、丸長株式会社に入社。以来、諸外国との貿易業務に従事。アメリカ・ハワイ州所在Purdyco社では、アジア地区上級マネージャー・GM・CMO等の役職を務める。その後、株式会社ワイズリンクを設立し代表取締役社長に就任。長きに渡る貿易業務、外国企業でのグローバルマーチャンダイジングやマネジメントなど、多岐にわたる経験や実績を持つ。

「場をデザインする会社」のまちづくりプロジェクト

―まずはDE-SIGNグループの事業内容について教えてください。
当社は、プラットフォーム会社と定義している株式会社DE-SIGNグループを土台として、株式会社ディー・サイン、株式会社andONE、株式会社FaMilという3つの事業会社が活動しています。
現在DE-SIGNグループには、約80名が所属しています。

―DE-SIGNグループと西伊豆プロジェクトとの関係性は?
西伊豆プロジェクトは、DE-SIGNグループのファミリー法人として2020年に設立した現地法人です。事業展開の背景には、官民連携などで西伊豆町の地域活性化を図る想いがあります。

―もともとDE-SIGNグループではまちづくり事業を展開していたんですか?
そうですね。当グループのまちづくり事業では、全国各地の地域おこしに携わっています。長崎県大村市では地域商社「 大村湾商事」を立ち上げるなど、各地域の魅力を発信しています。
私が率いる西伊豆プロジェクトも、同様のまちづくり事業としてスタートしました。

中高時代のライバル同士がタッグを組み、西伊豆の地域課題に挑む

―矢岸さんが西伊豆プロジェクトに携わるようになった経緯は?
地元の後輩からの相談がきっかけですね。私と佐藤(佐藤浩也さん/株式会社DE-SIGNグループ代表取締役社長/写真右)はいずれも西伊豆町出身の同級生で、中高時代は他校バスケットボール部のライバル同士でした(※)。2017年、僕らのもとに地元でまちづくりにあたる後輩から相談がありました。堅苦しい相談ではなく、「先輩、ちょっと地元に力を貸してもらえませんか?」というアプローチです。

※佐藤さんは2005年に西伊豆町に合併した旧賀茂村出身

―まちづくりを行う後輩の方からの相談内容を具体的に教えてください。
「町の再興のため、観光事業の建て直しや、居住人口の増加を図りたい」というものでした。

西伊豆町は、伊豆半島の小さな町です。人口は2005年の「平成の大合併」を境に減少し、現在は約7000人弱の町民が暮らしています。かつて主体だった観光産業も、近年は徐々に衰退していました。

西伊豆町で生まれ育った僕らは、この町の移り変わりを知っています。かつての勢いを失くしつつある地元を見て、「僕らの手でこの街を再生できないだろうか」という想いがありました。まずは佐藤が、DE-SIGNグループのまちづくり事業として西伊豆町の地域活性化に携わることになりました。

―西伊豆プロジェクトを立ち上げる前に、DE-SIGNグループとしてまちづくりをスタートしたんですね。
そうですね。まずはDE-SIGNグループに属する株式会社andONEが、地域おこし協力隊の活動支援や、彼らが任期を終えた後の定住支援をスタートしました。

当時、僕はまだ東京や三島で貿易関連の仕事をしていたんですが、徐々に西伊豆町のプロジェクトとの関わり深さを増していきました。その中で、僕らはある課題に直面しました。

「任期終了→はいサヨナラ」では地域活性化は叶わない

それは“地域外から西伊豆町の町おこしをする難しさ”です。もちろん東京と西伊豆町を頻繁に行き来する距離的ストレスも障壁のひとつでしたが、それだけではありません。

例えば僕らのように、東京にいながらにして地方自治体の地域活性化をサポートする企業はたくさんあります。でも大体のケースが期間契約で、任期を終えると支援も終わる。しかしこれでは、長期的な街づくりは叶いません。その上、地域住民の目には「たかだか数年で支援終了とは、やはり東京の人にとってこの町の地域課題は他人事なのだな」と映るでしょう。地域活性化をしにきたはずが、結果として街に失望感だけを残して去ることになります。

僕らは「本当に西伊豆を再興させたいなら、『任期終了→はいサヨナラ』は絶対にしてはいけない。そして離れた場所から支援をするのではなく、官民連携で地元から地元を盛り上げるための体制を作ろう」と考えました。

このような背景から、2020年に現地法人「西伊豆プロジェクト」を設立し、僕は代表取締役に就任しました。現在は町内外在住の合計8名で活動しています。

来訪者の移住を見据えた「西伊豆オープンタウン」の取り組み

―西伊豆プロジェクト設立後は、どのような取り組みを行っていますか?
活動のひとつは、体験型プログラム「西伊豆オープンタウン」です。わかりやすく言えば、学校のオープンキャンパスのまち版ですね。今年3月のモニターツアーでは、わさび収穫体験を行い、移住や第一次産業に興味がある20名が参加してくれました。

▲わさび収穫体験の様子
▲わさび収穫体験の様子

―体験型プログラムを企画した理由は?
西伊豆町は観光だけでなく、第一次産業も盛んです。しかし少子高齢化や後継者問題から、衰退傾向にありました。せっかく豊富な自然資源と地域に根差した産業があるなら、これを活かさない手はありません。僕らが体験型プログラムを企画して、町の魅力を町外の方々にアピールすることで、移住先としての西伊豆町に興味を持ってもらおうと思ったんです。

―わさび収穫体験の他にはどんなプログラムがありますか?
木工体験プログラムも何度か開催していますね。西伊豆町は総面積の約9割を森林が占めています。現在は所有者の高齢化が進み、手入れが行き届いていない山も多いんです。木工体験では、そのような山で伐採された間伐材を使い、カッティングボードやプレートを作ります。また実際にチェーンソーで丸太を切る体験もしました。

西伊豆町は食べ物も美味しいので、今年の夏は「最幸の西伊豆TKGツアー」も実施します。参加者は、町内にあるわさび農園での収穫体験や鰹節工場見学をしたのち、会場に移動します。そこで自身で炊いたご飯と平飼い卵、わさび、鰹節を使い、オリジナルのTKG(卵かけご飯)を作ってもらいます。7月、8月で計4回開催する予定です。

僕ら西伊豆プロジェクトは第3種旅行業取得を目指しています。ゆくゆくは西伊豆オープンタウンのような体験型コンテンツを大手旅行会社と一緒に販売していけたらなと。この活動が活性化すれば、当然運営スタッフの数も足りなくなるので、新たな雇用にもつなげられます。西伊豆町のPRになるだけでなく、関係人口の増加につなげていく取り組みです。町外の方との接点を増やすことで、将来的には移住者も増えたらいいなと思っています。

三島クロケットは交流拠点としてのサテライトオフィス

―現在サテライトオフィスとして利用している「三島クロケット」の入居経緯を教えてください。
僕は三島市在住で、三島市で働く日も少なくありません。コロナ禍の数年間は、在宅勤務で人と会う日が減っていました。すると、情報がどんどん閉ざされていく実感があったんです。このままではいけないと思い、2020年に人と交流しながら働ける場所を求めて「 三島クロケット」に入居しました。

―以前から三島クロケットを知っていたんですか?
そうですね。ちょうどその頃、三島市でDE-SIGNグループが関わるプロジェクトがあったんです。東京本社から月に数回、メンバーが出張に来ていました。そのような背景から、「DE-SIGNグループで三島市のコワーキングスペースを契約して、社員は誰でも使える環境を整備しよう」ということになりました。
そのためDE-SIGNグループのファミリー法人である西伊豆プロジェクトのメンバーも、他の社員同様に三島クロケットを使用できます。

▲三島クロケットの様子
▲三島クロケットの様子

ここはすごく面白いですね。3つのフロアでは、年齢・性別・業種など様々な属性の方が働いています。入居者の皆さんは、いずれもその道のプロです。パソコン操作の初歩的な質問も、金融関連の専門的な話も、その場で疑問を投げ掛ければ誰かしらが答えてくれます。僕にとってこの環境はとても新鮮でした。

―利用者は地元の方が多いんですか?
地元の方も、出張で来ている方もいますね。ドロップインの利用者も多い印象があります。
僕たちのように西伊豆町や東京との行き来が多い人にとって、三島クロケットのロケーションは拠点として最適ですよ。

―入居者同士の交流から新たなビジネスが生まれることもありますか?
あると思いますね。入居者のビジネスアイデアに対するフィードバックやブラッシュアップは、毎日のように行われていますよ。例えば、スタートアップ企業の若手エンジニアから「実証実験の対象になってほしい」と相談されたこともありましたね。

―ここまで入居者同士の交流が活発なコワーキングスペースは珍しいですね。
三島クロケットが主体となって、交流の機会を提供してくれるからでしょうね。時に家守(ヤモリ)と呼ばれる受付の方は、さりげない会話で利用者同士の橋渡し役を担ってくれます。

それから、入居者が主催するイベントもしばしば行われていますよ。ざっくばらんにビジネスアイデアを話す「壁打ち大会」から、各入居者の得意領域を活かしたイベントまでさまざまです。僕は西伊豆プロジェクトを通じて学んだ知識を伝える「ふるさと納税勉強会」を行いました。

三島クロケット入居者を集め、「KAMO'n西伊豆ツアー」を企画

―三島クロケットの入居者から西伊豆プロジェクトに関するアドバイスをもらうこともありますか?
ありますね。今年5月には、入居者を対象とした「KAMO’n西伊豆ツアー」を開催しました。僕が運転するワンボックスカーに参加者6名を乗せ、西伊豆を案内する1日ツアーです。今後西伊豆プロジェクトが旅行業取得を目指す上でのモデルケースになれば良いと思い、企画しました。
その際、参加者には僕たちが将来的に運営したいと思っているゲストハウスの候補物件を紹介し、率直な意見をいただきました。

▲矢岸さんとKAMO’n西伊豆ツアー参加者の皆さん
▲矢岸さんとKAMO’n西伊豆ツアー参加者の皆さん

もちろん西伊豆のおすすめスポットも全て案内しましたよ(笑) グランピング施設併設の人気わさび農園「 わさびビレッジ」や、老舗鰹節店の「 カネサ鰹節商店」など、皆さん楽しんでくれました。

―なぜこのような企画を?
純粋に「皆さんに西伊豆町の魅力を知ってほしい」という気持ちがあります。そして彼らが三島に帰った際に、西伊豆町の良さを周囲に発信してくれたら嬉しいです。

実際、ツアー参加者から西伊豆町の話を聞いた入居者より、「私も今度行ってみたい」という声も寄せられています。そのため三島クロケット利用者向けの「KAMO’n西伊豆ツアー」は、近く第2弾を開催予定ですよ。車両は僕が運転するワンボックスカーなので、現状定員6名が限界ですがね(笑)

このような取り組みを重ね、西伊豆町の口コミをじわじわっと増やすことも大切なことのひとつだと思っています。徐々に評判が広がることで、交流人口の増加も見込めます。そして最終的には、西伊豆町が多くの移住者から選ばれる町になったらいいですね。

西伊豆の魅力を発信し、関わる人を増やしたい

▲小村さんのアカウントは現在4700人以上にフォローされている
▲小村さんのアカウントは現在4700人以上にフォローされている

―実際に西伊豆町に移住をした方のお話も聞かせてください。
西伊豆プロジェクトのメンバーである小村も移住者のひとりです。彼女は2021年に地域おこし協力隊として西伊豆町にやってきました。生活を送る中で西伊豆町の夕陽に魅せられ、現在は“夕陽ハンター”としてInstagramで美しい夕陽の風景を発信しています。
西伊豆の移住女子 こむさん

僕たちはオープンタウンなどの取り組みを行っていますが、旅行会社を営みたいわけではありません。西伊豆町の魅力を広く伝え、この町に関わりたいと思ってくれる人たち(=関係人口)を増やしたいんです。彼女が西伊豆町に移住して夕陽に魅了されたように、関係人口が増えれば西伊豆町の新たな魅力を発掘できます。西伊豆町の魅力を伝える取り組みを重ねていくことで、移住に興味がある方の目に触れる機会を創出し、最終的には移住者の増加につなげられると考えています。

確かに地域活性化を行う上で、“地元にいながら地元を盛り上げること”はとても大切です。しかし、僕は“町外に住む第三者の視点”も同様に大切だと思っています。

僕はこれからも西伊豆町と三島市を行き来して、内と外のバランスを取りながら、西伊豆町の可能性を広げる取り組みをしていきたいですね。


サテライトオフィスで働く矢岸さんに聞きました!

1 静岡県の好きなグルメは? →西伊豆町の有名B級グルメ「塩かつおうどん」
2 静岡県でおすすめ or 行ってみたい場所は? →もちろんおすすめは西伊豆町ですよ(笑) 皆さんぜひ夕陽を見に来てください。
3 オフタイムの過ごし方は? →料理ですね。休日は朝から晩までずっとキッチンに立っていますよ。

静岡県サテライトオフィス情報発信ライター・佐藤優奈(さとうゆうな)

矢岸さんは、長く食品関係のお仕事をされていたそう。そんな矢岸さんがおすすめする西伊豆グルメ、いつか食べに伺いたいです。
【佐藤優奈プロフィール】

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ワーカーズリビング三島クロケット
所在地:〒411-0855 静岡県三島市本町2-4
アクセス:JR三島駅から徒歩5分
公式HP:https://www.crqt.work/