ユーザーサポートの拠点を浜松に開設。ワーケーションの利用にも期待
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株式会社LiNewは、ITエンジニア育成のためのリスキリング(再学習)関連サービスで成長しているスタートアップです。浜松市内で運営する就労移行支援事業所に続き、2024年2月に国内5拠点目となる浜松支社をオープンさせました。静岡県での事業展開についてCEOの西本弘昌さんと、COOの井上陽介さんにインタビューしました。
会社概要
株式会社LiNew(リニュー)
https://linew.co.jp
2019年設立。「世の中の課題を IT で解決し、関わった世界中の人たちを幸せにする」をミッションに、ITコンサルティングやシステム開発などを手がける。東京の本社のほかに福岡、大阪、京都、熊本に支社を構えている。
浜松市では2022年12月から子会社の株式会社RAMP(ランプ)が、障がい者の就労や自立を支援する「就労移行ITスクール浜松」を運営している。
【主なサービス】
■educure(エデュキュア)
およそ7か月の実践的なカリキュラムで、未経験から即戦力のITエンジニアを育てる、オンラインの教育サービス。プログラミングスキルだけでなく、コミュニケーション力や思考力なども養うのが特徴。
【本社】
東京都渋谷区渋谷1丁目17-14 全国婦人会館・ちふれ化粧品共同ビル2階
【浜松支社】
浜松市中央区板屋町111-2 浜松アクトタワー18階
【就労移行ITスクール浜松】
浜松市中央区連尺町314-31 アーバンスクエア浜松ビル9階
インタビュー対象者紹介
■代表取締役CEO 西本弘昌(にしもと・ひろあき)さん
1990年、神奈川県生まれ。大学中退後、人材派遣スタッフとして家電量販店で働いているときに井上さんと出会い意気投合。2014年に1社目の会社を起業する。2019年に株式会社LiNewを設立。
■代表取締役COO 井上陽介(いのうえ・ようすけ)さん
1988年、北海道生まれ。大学卒業後に働いていた派遣会社で西本さんと出会う。複数の会社の起業や売却を経験した後、株式会社LiNewに参画。
人材派遣会社を中心に全国に取引先を拡大中
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――LiNewは、未経験者を即戦力のITエンジニアに育てる「educure」で成長していますが、まずこのサービスが生まれた背景を教えてください。
西本さん はい。実はLiNewの前にもIT企業を経営していて、そこではエンジニアを社内で養成していました。井上とは「いつかは自前の製品やサービスでビジネスをしたいよね」と話し合っていたこともあり、自社の社員研修カリキュラムをオンラインサービスとして提供することにしました。それが「educure」です。リリースしたのは2020年秋でした。
DX化の動きもあってIT業界は慢性的なエンジニア不足なので、最初に想定していた顧客はIT企業でしたが、セールスをするうちに人材派遣業界でニーズがあることが分かってきました。
――どのようなニーズだったのでしょうか?
西本さん 当時は新型コロナウイルスが流行していた時期。小売店、飲食店、コールセンターなどの縮小や休業でスタッフの派遣先が減り、派遣会社はダメージを受けていました。そこで派遣先のないスタッフさんに「educure」で研修を受けてもらい、受講終了後はIT企業で働いてもらう――という解決策を提案すると、派遣会社さんが興味を示してくれたんです。
――人材不足のIT業界と、派遣先に困っていた派遣会社を結びつけたわけですね。
西本さん そうですね。いまでは「educure」の導入企業は、人材派遣会社を中心に北海道から九州まで全国140社以上、受講者は累計で1900人以上になりました。卒業生のおよそ半数はエンジニアとして就業中、もしくは就業経験があります。
――派遣スタッフさんも収入アップが期待できますし、「三方よし」になりますね。
西本さん リモートワークが普及して、東京の開発案件が地方でできるようになったことも、お客様を獲得できた理由です。お客様のニーズやIT環境の変化がうまく噛み合いました。
IT教育で障がいを持った人の自立をサポート
――さて、2022年12月に就労移行支援事業所の「就労移行ITスクール浜松」を開設しました。なぜ浜松で障がい者支援に取り組むことになったのでしょうか。
井上さん そもそものきっかけは、私の妻が磐田市出身だったことです。お盆やお正月は、浜松駅で新幹線を降りて帰省していました。また、妻を通して磐田や浜松に知り合いが広がっていきました。そうする中で浜松市内に障がい者の就労支援施設が増えていると知って、興味を持ったんです。
先ほどお話ししたように、「educure」はIT未経験者を育成するサービスですが、これを障がいを待った方も使えるようになれば、大きな助けになるのではないかと考えました。
――障がい者福祉の事業は会社にとっても未知のチャレンジだったと思いますが、立ち上げはスムーズにできましたか?
西本さん 「ニーズがあるのなら、やってみよう」という、いわば「やらまいか」の意気込みで始めたのですが、障がい者福祉の制度から知識がなかったので正直大変でした(笑)。浜松市の担当課に相談しながら準備を進めました。また建物の設備基準などがあって、オフィス探しも苦労しましたが、最終的に浜松駅北口のビルにオープンすることができました。
ITスキルを学べる環境が採用にも好影響
――福祉業界も人手不足が深刻ですがスタッフの採用は?
井上さん おかげさまで、サービス管理責任者のほか、支援員やプログラミングの講師など全員現地採用できました。当社ではスタッフも「educure」を自由に使えます。利用者さんのサポートをしながらITを学べる環境が魅力だったようです。
――スクールでは、どのような活動をしていますか。
井上さん うつや障がいのある方を対象に、プログラミングやデザインを教えたり、就職のサポートもしています。これまでにのべ約30人が通所していて、大手IT企業に就職した方もいますよ。
――順調に軌道に乗りましたね。
井上さん ええ。浜松では後発の事業所ですが、ITに特化したコンセプトが他事業所との差別化になって、利用者やスタッフの確保につながっていますね。
西本さん 立ち上げは苦労の連続でしたが、社会にも貢献できて開設してよかったです。会社にとっても、障がいを持った方が「educure」を使えることが実証できました。
補助金を活用してアクトタワーに支社を開設
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――そして、2024年2月に浜松支社がオープンしました。場所はJR浜松駅に隣接した浜松アクトタワーですね。
西本さん そうですね。浜松市には創業当初から「educure」のお客様がいたので、サポート拠点を置きたいと常々考えていました。オフィス開設のリサーチとして浜松や静岡県西部を視察するモニターツアーにも応募したのですが、運悪く新型コロナウイルスの感染拡大と重なり中止になってしまって…。
しかし、その後、静岡県の担当の方から情報提供のフォローメールをいただきました。サテライトオフィス開設の補助金制度があることを知り、進出に向けて動き出すことになりました。
――オフィスはどのように選びましたか?
西本さん 「浜松にオフィスを出すなら一番いい場所にしよう」と話し合っていて、第1候補がアクトタワーでした。アクセスの良さや充実した施設に加えて、採用の面でもアドバンテージになると考えました。
――補助金も利用できたそうですね。
西本さん 静岡県の「ICT・サービス関連企業進出事業費等補助金」と、浜松市の「都心オフィス進出支援事業費補助金」が認められて、オフィスの内装工事などにあてることができました。
――支社の体制はどのようになっていますか。
井上さん 支社長は、ITスクール浜松の事業責任者の若松杏さん(袋井市出身)が兼任して、現地採用した社員2人も常駐しています。またITスクール浜松の利用者さんも、就労に向けたトレーニングとして働いています。
――支社を開設して反響や変化があれば教えてください。
井上さん 浜松を象徴するビルですから、地元のお客様にオフィスの場所を説明すると、すぐに理解してもらえます。来社してもらうと、オフィスの環境や素晴らしい眺望にみなさんびっくりされますね(笑)。
西本さん そして、何と言ってもお客様との距離が物理的に近くなったことが一番のメリットです。「educure」の新サービスがリリース予定なので、さらにきめ細かなフォローをしていきたいです。
リモートワークやワーケーションも静岡県で
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――おふたりはどのように支社を使っていますか。
井上さん 基本的には私が月に2回、東京から日帰りで出張しているので、その際に利用しています。東京から浜松は新幹線の「ひかり」で約90分。駅ビルからアクトタワーまで連絡通路があるので、雨の日も濡れることがありません。
――今後はどのように活用していきますか?
西本さん 「都会の人混みに疲れた」「オフはスキーを楽しみたい」といった声がときどき社員から上がることがあって、その都度地方でリモートワークをしてもらっていました。これからは浜松支社が東京から一番近い地方拠点になるので、リモートワークやワーケーション、社内研修などで使っていきたいと考えています。
――働き方の自由度がさらに増しそうですね。地域との関わりも増えていると聞きました。
井上さん 支社長の若松さんが精力的に活動していて、県西部のネットワークが広がっています。その関係で、磐田市主催の「いわた首都圏交流会」の会場に、東京の本社オフィスを利用してもらいました。首都圏在住の磐田市出身者ら約40人が集まり、磐田市長も駆けつけました。
――自治体ともつながりが生まれているのですね。
西本さん ちょっと話はそれますが、当社では総務省の「地域活性化起業人」という事業に参加しています。熊本県芦北町に社員1名が常駐して、町民向けのIT研修から企業誘致まで幅広いお手伝いをしています。静岡県内の自治体から地域の課題のご相談があれば、ぜひ協力したいですね。
――面白い取り組みをしているんですね。
西本さん 静岡県に支社ができて地元企業や地域の方、自治体とのつながりが、いっそう深まりました。一方で、県内のIT関連企業との交流が少ないので、これから開拓していきたいです。
ぜひ進出企業の生の声を聞いてほしい
――IT教育サービスを皮切りに、障がい者支援や地方創生などに事業が広がっていますが、今後の抱負を教えてください。
西本さん まず直近では「educure」の新サービスのリリースです。「初級レベルでもいいので、エンジニアをスピーディーに育成したい」というお客様のニーズがあるので、簡易版の「ライト」を開発しています。「世の中の課題をITで解決する」という企業理念のもと、これからも企業や自治体の課題にコミットしていきます。
――静岡県に進出してあらためて感じる魅力は?
西本さん ずばり「人」ですね。裏表がなくて接しやすく、協力的な方ばかりです。また、人や企業のつながりが強いですよね。静岡県への進出では、地域のコミュニティやネットワークに助けられた部分がたくさんありました。
――逆に想像と違ったことはありましたか。
井上さん ちょっとギャップがあったのは人材採用に関してでしょうか。最初は東京で募集をかける感覚で、待遇のよさなどをアピールしたのですが、静岡ではあまり反応がよくありませんでした。試行錯誤しながら、地元に根づいて働ける環境などを打ち出すようにしました。
――それでは、地方そして静岡県に進出を考えている企業にアドバイスをお願いします。
西本さん ネットで企業誘致の情報を調べても分からないことがたくさんあると思います。ですから自治体の担当者や、実際に地方に進出している企業から直接話を聞くのが一番おすすめです。まずは都内で開かれている都道府県のイベントなどに参加してほしいですね。そして静岡県については、私たちが喜んで体験談をお話しますよ!
サテライトオフィスで働く西本さんと井上さんに聞きました!
Q.静岡県の好きなグルメは?
魚も餃子もおいしい浜松ですが、私はバーベキューにはまっています。スーパーの「エブリィビッグデー」が買い出しの定番です。(西本さん)
Q.静岡県のおすすめの場所は?
有名な温泉やサウナがたくさんある中で、私のオススメは「袋井温泉和の湯」です。サウナも水風呂も気持ちいいんです。(井上さん)
Q.オフタイムの過ごし方は?
最近はキャンプをしています。山中湖にはよく行くので静岡県内でもしてみたいですね。(西本さん)
私は家族サービスが多いですね。夏は各地のお祭り巡りをよくしています。(井上さん)
サテライトオフィスしずおか情報発信ライター・柴山太一郎(しばやまたいちろう)
「『世の中の課題をITで解決し、関わった世界中の人たちを幸せにする』という企業理念に合致していれば、既存の事業にはこだわりません」という西本さんの言葉が印象的で、型にはまらない起業家精神が伝わってきました。浜松からどのような新しい事業が生まれるのか、今後の展開がとても楽しみです。
【柴山太一郎プロフィール】