サテライトオフィス開設×ワーケーションで地方創生の波をつくる

2000年代以降、デジタル技術の発達が顕著です。スマートフォンは「1人1台」が当たり前の時代となり、デジタルデバイスに一切触れない日の方が珍しくなったように思います。
このようにデジタル化が推し進む中、IT人材の確保が急務となっており、2019年に経済産業省が発表した「IT人材需給に関する調査レポート」によると、2030年にはIT人材が最大79万人不足すると試算されています。このような背景から、地方のIT人材の確保と育成に乗り出す企業も増えています。
2022年に設立したKDDIアジャイル開発センター株式会社は、全国6か所にサテライトオフィスを開設するシステム開発企業です。三島市をはじめとする全国各地でエンジニアを採用し、事業の幅を広げています。
今回は同社でチーフロケーションオフィサー(CLO)を務める大橋衛さんに、その経緯とこれからのビジョンについて尋ねました。
会社概要
KDDIアジャイル開発センター株式会社
主な事業内容:アジャイル開発事業及び保守事業
設⽴年⽉⽇:2022年5⽉12⽇
代表取締役社⻑:⽊暮 圭⼀
Webサイト:https://kddi-agile.com
本社所在地:東京都港区虎ノ門二丁目10番1号
サテライトオフィス所在地:静岡県三島市芝本町5-34KAWATA BLD.芝本町(内Work:well三島)
インタビュー対象者紹介
大橋 衛(おおはし まもる)さん
コーポレート統括本部プラットフォームエンジニアリング部 エキスパート
チーフロケーションオフィサー(CLO) 兼 三島サテライトオフィス長
10年以上のプログラマー経験を活かし、KDDI入社後は社内のパブリッククラウド活用推進に従事。2022年にKDDIアジャイル開発センターに出向後は自らが在住する静岡県三島市での個人活動をきっかけに地方創生事業に従事。2023年1月に三島にサテライトオフィスを開設し、同オフィス長に就任。現在はCLO(全国拠点展開責任者)も兼任する。 書籍「DXを成功に導くクラウド活用推進ガイド」(日経BP社)、「成功するコミュニティの作り方」(リックテレコム社)に寄稿
システムのアジャイル開発を行う企業
―まずは御社の企業概要について教えてください。
我々は「約10年間、“アジャイル開発”にこだわり続けてきたDX専業のエンジニア集団」です。当社の前身は、電気通信事業を展開するKDDI(株)でのプライベートクラウドの開発チームです。当初は5人ほどの小さなチームだったのですが、徐々に業務領域が広がり、2015年に部署が発足しました。2022年に独立し、2023 年9月1日時点で155名の社員が所属しています。社員の約8割がエンジニアです。
―アジャイル開発とはなんですか?
アジャイル開発とは、作るものの完成像を詳細まで決めずに、開発をスタートする手法のことです。
従来定番だったウォーターフォール開発は、要件定義から運用まで、各工程に沿って開発を行う手法です。これに対しアジャイル開発は、最も提供価値と影響度が高い部分から先にリリースし、利用者からのフィードバックを受けてシステムを最適化、再びリリースを行います。このような小さなサイクルを繰り返すことで、アジリティの高い(=変化に強い)システム開発が可能になります。

―これまでどのような製品に携わってきましたか?
KDDI関連のものだと、一般家庭向けに提供する電力事業「auでんき」( スマートフォン用アプリ)が代表的ですね。
約300万人の同サービス契約者向けアプリを複数チームによる大規模スクラムで開発し、現在は月間130万人以上が利用する人気アプリにまで成長しました。
最近ではKDDI以外の法人のお客様からもご相談をいただく機会が増え、徐々に事業に広がりが出てきたように感じます。
大橋さんの肩書き「チーフロケーションオフィサー(CLO)」とは
―御社は三島オフィスをはじめ、各地に地方拠点を置いていると伺いました。
現在は、私が勤務している三島オフィスに加え、全国5地点(舞鶴市、那覇市、秋田市、札幌市、高崎市)にサテライトオフィスがあります。
三島オフィスには3名が勤務しており、その他の拠点も同規模です。
―「チーフロケーションオフィサー(CLO)」の役割について教えてください。
チーフロケーションオフィサー(CLO)とは、「拠点展開の責任者」を意味する役職です。私は、地方拠点の展開計画策定を担当しています。また、三島オフィスのオフィス長も兼任しているため、三島エリアの人材採用も担当しています。
―あえて責任者のポジションを設けていることから、御社が地方の拠点開設と採用に注力しているとわかります。
当社は2022年に創業し、約1年間という短い期間で、全国各地に拠点を築いてきました。
理由のひとつは「人材確保」です。IT企業の多くが東京や大阪などの大都市圏に集中しているため、同エリア内のエンジニア人口は多い。しかし、IT業界の急成長に伴い、開発案件は増え、現場では慢性的なエンジニア不足が続いています。優秀な人材は各企業がこぞって奪い合い、エンジニアが豊富なはずの首都圏ですら人材確保が難しい。
我々は人材を探す場を首都圏以外にも見出し、地方のエンジニア人材を採用しながら、地方創生や地域貢献につながる活動をすることで、事業のさらなる拡大を目指しています。

―エンジニアはフルリモートで働く方も多いように思います。そのような背景がありながら、あえてオフィスを設置する理由は何ですか?
たしかに当社もフルリモートが前提であり、殆どの社員が自宅やコワーキングスペースなどからリモートワークをしています。三島オフィスのメンバーが出社するのは、多くても週2日程度です。
そのような背景がありながらもサテライトオフィスが必要な理由は、地元企業やステークホルダーなど、地域の方々との関係性構築に有効だからです。オフィスがあれば、ご招待や打合せもできるため、関係性を築くきっかけにもなります。
当社が目指すのは、地方のエンジニア人材の確保だけではありません。各エンジニアの技術力を以て、それぞれの地域に貢献できる仕事をしたい。地元とのつながりを強化する意味でも、サテライトオフィスは必要不可欠だと思いますね。
三島からスタートした各地の展開
―大橋さんはなぜ三島オフィスに?
私はお隣の沼津市出身です。進学で地元を離れ、以後22年間は首都圏で暮らしていました。数年前、両親との同居話が持ち上がり、家族で三島市に引っ越しました。
私はKDDIに入社する前から三島に住んでいるので、移住が拠点設立のきっかけではないです。
―三島オフィス開設のきっかけは?
当社が三島オフィス開設に至った背景には、2つの理由があります。
1つ目は、私が2022年に三島市移住アンバサダーに任命され、地域活動を活発に行っていたこと。2つ目は、同年に三島市と当社が共同提案した「ワーケーション推進事業」(企業と地域によるモデル実証事業)が採択されたことです。
当社の地方拠点展開の第一義は、地方在住のIT人材の獲得です。これを実現するには地方自治体や地元企業、コミュニティとの強いパイプが必要でした。これらを兼ね備えた人材(=大橋さん)がたまたま三島にいたこともあり、「三島オフィス開設」と「私のオフィス長就任」がセットで確定することになりました。
―三島オフィスがあるWork:well三島について詳しく教えてください。
三島オフィスの開設にあたり、市役所の企業立地推進課に相談に行きました。その際に我々のワークスタイル(オフィスの出勤は週2日程度。主な用途は打ち合わせなど)を伝えたところ、「社員数名が働けるサイズの事務所と、コワーキングとして使える共有スペースが併設されている場所が良いのでは?」とおすすめされたのが「Work:well三島」です。現在、7階の専用個室を契約しています。

Work:well三島の6階には共用ラウンジがあり、入居者やその客人も使用可能です。例えば「三島出張にきた本社社員が半日だけ使う」、「機密情報に関わる話は専用個室で行う」といった使い方もできます。当社のような業種と規模の企業にとっては、とても使い勝手の良いレンタルオフィスですね。
―街に近いロケーションも良いですね。
Work:well三島は、三島の中心市街地の入り口に面しています。周辺には飲食店も多いため、地域の人と会話し、つながりを作るのにも最適だと思いました。
もっと三島駅に近い候補物件もありましたが、駅近のオフィスだと仕事を終えたらすぐに帰ってしまうでしょう?社員が三島の良さを楽しむことも、地域貢献になりますから。
―大橋さんが思う“三島の良さ”とは?
やはりアクセス面の良さは特徴的ですね。品川駅から三島駅までは「こだま」で46分。東京から日帰り圏内のため、出張や商談にも来やすいです。街中はコンパクトで、観光地や飲食店が集中しています。
当社はワーケーションを推進していますが、三島市はワーケーションベースとしてもすごく機能的な場所だと感じますね。例えば「金曜日は三島オフィスで働き、土日は下田や富士に出掛ける」こともできます。
KDDIアジャイル開発センターが推進するワーケーション
―御社が推進するワーケーションについても詳しく教えてください。
ワーケーションとは、ワークとバケーションを組み合わせた言葉です。その魅力は、働きながら地域の魅力に触れてリフレッシュできるだけではありません。当社は、ワーケーションを推進することで、エンジニアなどの各々のスキルを各地域に還元できる流れを作りたいと思っています。
その第一歩として、ワーケーション情報サイト「タビトシゴト」を運営しています。

当社が推奨するのは「ワークに比重を置いたワーケーション」です。このコンセプトに基づき、同サイトではWi-Fiや外部ディスプレイの有無など、旅先でもスムーズに働くために必要な情報を中心に紹介しています。
地方在住のIT人材の可能性
―サテライトオフィス開設の理由にもある、地方での採用についても教えてください。三島オフィスでも採用を行っていますか?
採用しています。他の社員は、もともと三島市在住だった者と、近隣エリアに住んでいた者です。他の地方拠点では、Uターン者の採用実績もあります。採用に関する問合せも増えていますね。
―専門職だと、やはりキャリア採用が中心でしょうか?
いえ、新卒採用も行っていますよ。来年度の新卒者は、20名以上を予定しています。
三島市に限らず、当社が拠点を置くエリアには特徴があります。それは情報系の学科がある高専や大学、工業高校があることです。そのような学校の卒業生を採用し、育成していきます。大都市圏にIT企業が集中していることから、地方と都市圏のエンジニアにはスキルギャップがあるように思われがちです。しかし、すでに基礎がある学生であればその心配もありません。
また、地元での新卒採用は、当社が注力する「地域貢献」にもつながります。地方の学生の中には、「エンジニアになるなら地元を離れるしかない」と考えている方も少なくありません。しかしその反面、生まれ育ったり、学生時代を過ごしたりしたその地域に愛着があり、できれば離れたくないと思う方もいるでしょう。
そのような若手こそ、我々が実現したい「地域貢献」を成し遂げてくれると期待しています。
―地元での採用活動で心がけていることはなんですか?
給与に地域格差をつけないことですね。当社社員は、日本全国どの地域に在住していても全員同じ給与レートを設定しています。職種はエンジニアやデザイナーなどの技術職が中心ですが、一般職の求人を出す際もおそらく基準は変わらないでしょう。
これまで地方進出してきた企業の多くは、地方における給与水準を考慮し、地方採用者の給与に”地方レート”を採用しています。この結果、地方所属の社員のほうが首都圏本社所属の社員よりも給与が安いといったケースが散見されます。
地方と首都圏でやることに大きな差があるなら給与が低くなることは仕方ありません。しかし当社のようにフルリモートワークで地方/首都圏のどちらにいてもやることが同じなら、そこに給与の差があるのはおかしい。給与の地域格差があっては地方採用の応募数が期待できません。業務遂行におけるデジタル化が進んでいる企業では、給与に差がないと考えるのが普通でしょう。
地方進出と地元採用を検討中の企業は、本社所在地と地方の作業内容をDXで平準化させるとともに、給与面での平等化を図ることで採用の可能性が高まると思いますね。
地方創生をITの力で叶える会社に

―三島市での事業展開について、今後のビジョンを教えてください。
三島市役所や地元企業の中には、「デジタル技術を用いて課題を解決したい」と考えている方々も多い。でも、その声を拾い上げ、きちんと解決できる存在がそう多くないのが現実です。
我々は、三島市と地元企業とのあいだに立ち、皆さんがやりたいことを叶えられる存在でありたい。例えば、市とスタートアップ企業が手を組んだ協業プロジェクトなど、大規模な案件のマネジメントや物理インフラ、販路拡大などの壁にぶつかった際はぜひ相談してほしいですね。行政・地元企業・我々の3者が協力し地域のデジタル課題を解決することで、地方創生にもつながると考えています。
―現在、具体的に動き出しているプロジェクトはありますか?
ありますね。地元企業より、いくつかのプロジェクトで協業のお話をいただいています。
当社は、全国各地に拠点があり、異なるエリアにエンジニアが点在しているのも強みです。各エリアのエンジニアと地域をまたいでプロジェクトを行うことで、「居住者ではないからこそ気付ける地域課題」や「三島市の地域課題解決に活かせる他エリアの成功例」などもあるかもしれない。
このような経験を重ねることで、三島市そのものや地域の人々への興味関心も育ちます。当社の仕事を通して、人と人、地域と地域がつながる大きな波を全国に広げていきたいですね。
サテライトオフィスで働く大橋さんに聞きました!
1 静岡県の好きなグルメは?
地元で一番好きなのは、みしまコロッケですね。お店によって味が違う。食べ比べるのも楽しいです。
https://www.city.mishima.shizuoka.jp/mishima_info/croquette/
2 静岡県でおすすめ or 行ってみたい 場所は?
一度は富士山に登ってみたいですね(笑)
3 オフタイムの過ごし方は?
家族と出かけることが多いですね。
冬は毎週のようにスノーボードに出かけます。
静岡県サテライトオフィス情報発信ライター・佐藤優奈(さとうゆうな)
三島市だけでなく全国各地へ拠点を開設していることから、同社の勢いを感じました。
今年は「タビトシゴト」を参考に、ワーケーションにチャレンジしようと思います!
【佐藤優奈プロフィール】
サテライトオフィスを開設した「Work:well三島」はこちら

Work:well三島
所在地:〒411-0857 静岡県三島市芝本町5-34KAWATA BLD.芝本町
アクセス:JR三島駅から徒歩7分
公式HP:https://www.workwell-mishima.net/