保活という言葉を知っていますか?保活とは、「働く保護者が子どもを保育園に入れるために行う活動」のこと。働きながら未就学児童を育てる大人で、耳にしたことがない方は少数派かもしれません。それほど保活という言葉は、現代において定着しているといえます。

今回お話を伺ったのは、システム開発事業を展開する株式会社クレヨンの森屋千絵さん。自身も子育てをする傍ら、妊娠中のプレママや子育て中のママたちをつなぐ女性限定アプリ「Fiika」をリリース。2021年に「キッズデザイン賞2021」を受賞しました。

また、森屋さんは2019年に移住した伊東市でサテライトオフィスを開業しています。今回はその経緯と伊東での暮らしについて尋ねてみました。

=会社概要==============
株式会社クレヨン
事業概要 アプリサービス運営、ソフトウェア開発事業、経営コンサルティング
設⽴年⽉⽇:2018年5月
CEO:森屋 大輔
Webサイト:https://crayons.co.jp/

本社所在地:東京都練馬区富士見台2-39
サテライトオフィス所在地:静岡県伊東市

=インタビュー対象者紹介========
森屋 千絵(もりや ちえ)さん
取締役
上智大学文学部卒業、外資系メーカーや商社に勤務後、株式会社クレヨンを創業。都内での育児、保活、マンションでの「つながり」に課題を感じ、Fiika創業メンバーとして参画。

首都圏を中心にシステム開発事業を展開

―まずは御社の事業概要について教えてください。
弊社は2018年創業のシステム開発企業です。現在は、約10名のメンバーで業務にあたっています。国内拠点は東京にある本社と伊東市のサテライトオフィスの2箇所です。提携パートナーとして、ベトナムにも拠点があります。弊社は夫の森屋大輔がCEOを、私が取締役を務めています。私たち夫婦は2019年に伊東市に移住し、現在は伊東市のサテライトオフィスを中心に勤務しています。

―具体的にどのようなシステムを作っているんですか?
お客様によって様々ですね。コーポレートサイトの制作からECサイトや業務システムの構築、スマホアプリ制作が主な業務内容です。その他に自社でアプリの開発と運用も行っています。現在は、クライアントの大多数が首都圏の企業様ですね。

地域のプレママ・ママに必要な情報を届けるアプリ「Fiika」

―御社が開発したアプリについて詳しく教えてください。
2019年にリリースした「 FIIKA(フィーカ)」は、地域のプレママやママを繋ぐ女性限定アプリです。ユーザーは自宅からの距離に応じて、気の合うママ友や出産・育児に関する情報を探すことができます。
ローンチから4年が経過した現在、iOSストアでは評価4.1、口コミ700以上に及ぶアプリに成長しました。

▲2021年に「キッズデザイン賞2021」を受賞
▲2021年に「キッズデザイン賞2021」を受賞

―なぜこのようなアプリを開発・リリースしようと思ったんですか?
私自身、育児中の母親だったことも理由のひとつですね。
私たちは移住前、都内に住んでいました。その頃ちょうど出産して、子どもを預けられる保育園を探していた時に、住まいがある自治体が全国で最も待機児童が多いエリアだと知りました。近所のママ友から「保活に1000時間かけた人もいる」というエピソードを聞き、大きな課題があると身をもって感じました。

現代では、女性の働き手が右肩上がりに増えているのにも関わらず、育児とキャリアを両立するのがとても難しい。その上、産休・育休中の女性には、保活や子育て関する悩みを気軽に相談できる場所もありません。

私たちは、そのような女性たちがご近所でつながれる場を提供したいと考え、アプリの開発に踏み切りました。

―「FIIKA」は具体的にどのような機能を備えていますか?
例えば、地域の保育園検索機能ですね。「FIIKA」では、ユーザーの居住エリアの保育園をマップ上から探すことができます。
各自治体も地域の保育園リストを配布していますが、多くの場合、住所別に記載されています。そのため自宅や最寄駅からどの保育園が近いのか、どの保育園が通いやすいのか、ひと目で判別するのが困難です。
「FIIKA」では、アプリ内で地域の保育園を地図上に可視化することで、ユーザーが読み解きやすいようにしました。

―子育て中の地域の女性たちに役立つアプリですね。
ユーザーの皆さんは“地域のプレママ・ママとつながれる”というこのアプリの利点を活かして、積極的に情報交換をしていますね。
ちょうど今の時期だと「育休から復職予定の4月に向けて情報交換をしましょう」など、各地域のユーザーさんがさまざまなトピックスでやり取りをされています。

子育て×仕事のよりよい環境を求めて伊東市へ

―現在は伊東市にお住まいとのことですが、移住の経緯について教えてください。
伊東市には2019年に移住し、2023年にサテライトオフィスを開業しました。創業当初は都内の自宅兼事務所で仕事をしていましたが、仕事とプライベートの境界線がないなどの課題を感じていました。そのためいつか本社オフィスを設けたいと考えていたんです。
その頃、ちょうどマンションの更新時期で、当時の家賃が値上がりしたことにも背中を押されて、都内から離れた伊東市に移り住み、後にオフィスも開業しました。

また、すでにインターネット構築やホームページ制作など地域の仕事をしていたこともきっかけとなりました。まずは企画課の担当者から補助金について話を聞き、その後、オフィス開業と補助金の申請に至りました。

―なぜ伊東市を選んだのですか?
親族が伊東市に家を持っており、何度か遊びに行くうちに「子育てをするにも、仕事をするにも、素晴らしい環境だな」と思うようになったからです。

1つ目の理由は家賃面のメリットが大きいことです。
もちろん市内のどのような場所・物件を選ぶかにもよりますが、都心と比較すると「広さは倍、家賃は1/3」です。オフィスや自宅を構える際に、広々としたスペースでゆったりと過ごしたいと考える方には最大の魅力だと思います。

しかし、都内に比べるとやはり賃貸物件数はそう多くありません。そのためオフィスを探す際は、築年数や建物の雰囲気など、いくつかの「譲れる条件」が明確化できていた方がマッチしやすいかもしれませんね。

2つ目の理由は、子育てがしやすそうだと感じたからです。
子どもは大きくなるにつれて、活動範囲も広がるし、活動量も増えますよね。私たちには「この子がもう少し成長した際に、狭い園庭の保育園ではなく、広々とした場所で遊ばせてあげたい」という思いがあり、子どもが2歳の頃に移住を決めました。

開業にあたり伊東市&静岡県の補助も

―オフィス開業にあたり、
伊東市サテライトオフィス等支援事業補助金」を活用したと聞きました。申請の経緯は?
私たちは、伊東オフィス開業以前から、地域の事業者さんのお仕事を一部手伝っていました。その際に知り合った伊東市企画課の方の伝手で、先にサテライトオフィスを開業されていた方のオフィスを拝見させていただいたのが開業のきっかけになりましたね。

そこはもともと保養所として使われていた建物を改築した物件で、皆さんが想像するような“いわゆるオフィス”のイメージとは少し印象が異なりました。しかし、実際に見ることで「オフィスにも色々なかたちがあるんだな」と知ることができました。

その後、伊東市の方に相談を重ね、補助金を申請し、オフィス開業に至りました。

―補助金の使い道は?
サテライトオフィスの家賃の他、主に備品の購入費に充てています。オフィスのエアコンや開発・テストに必要なパソコン、スマホの購入費用などに使わせていただいていますね。

―その他にも静岡県の
高度ICT人材確保事業」補助金を活用していると伺いました。こちらについても教えてください。
こちらではサテライトオフィスの家賃と通信費の一部、人件費を補助していただいています。

伊東くらしは「充実した時間」

―実際伊東市に暮らしてみて、いかがですか?
伊東市には子どもが好きに身体を動かして遊べる環境があるのがいいですね。伊東市は海が近いので、夏場は毎週のように海に出掛けました。公園も都内より広く、悠々と動き回れます。自然と近い環境で子育てをしたい方には、とても良い場所だと思います。

また、日常的な移動の利便性も良いですね。都心ではどうしても公共交通機関の利用がメインになるので、子どもを連れ、荷物を抱えて電車移動しなくてはなりません。しかし伊東市は車移動が中心なので、そのようなストレスとも無縁です。

―東京本社と行き来することはありますか?
弊社の代表を務めている夫は、月に数回、東京に行くこともありますね。片道2時間程度なので、アクセス面での利便性も高いと思います。本社の社員も月に数名、伊東オフィスに来ますね。

▲伊東オフィスの様子
▲伊東オフィスの様子

―離れた場所で仕事をしていて、不便さを感じる場面はありますか?
当初は未知な部分もありましたが、コロナ禍を経てオンライン中心の働き方が浸透した今、特に不便は感じません。

ただ、チームビルディングの大切さは実感しています。プロジェクトを進める際、要所要所で直接会って話す必要性を感じるシーンはあります。そのため私たちも、本社スタッフも、双方を行き来しながら働いていますね。スタッフの皆さんが伊東に数日間滞在して、コミュニケーションを深めることもありますよ。

―伊東オフィスの周辺環境を目の当たりにして、「移住したい」という方もいるのでは?
皆さん「伊東に住みたい」と言ってくれるのですが、家庭の都合もあるのでなかなか難しいですね(笑)

地元事業者とつながりを深め、地域を元気に

―伊東オフィス開業後、地域の事業者と仕事をする機会も増えましたか?
開業前後で、県内の宿泊施設事業者さんや観光事業者さんのお仕事をいくつか手がけています。主にコーポレートサイトの制作や予約システムの構築ですね。

とはいえ、周辺地域のお仕事はまだ事業全体の1割程度なので、そう多いとはいえません。
でも今後もご縁があれば、そして弊社が力になれることがあれば、地域の事業者さんとお仕事をさせていただきたいと思っています。私たちは住まいも伊東市なので、ここに拠点がある者として地域創生に寄与したい思いがあります。人口の流出や税収の減少は、身近な問題です。一市民としてできることはやりたいなと思っています。

―森屋さんら同様に、地域に移住してきた方とお仕事をする機会はありますか?
ありますね。まだ構想段階ではありますが、数年前からあるWEBシステム制作に関して企画を練っています。

そのチームには、東京からの移住者の方も含まれています。近しいマインドを持った方もいれば、実績のある大先輩もいます。皆さんいずれも専門性を持ったスキルセットが高い方々で、良い刺激をいただけますね。東京ではきっと会うことができなかったであろう皆さんと、この地でゼロから新しいものを作れるのは、すごくおもしろいなと感じています。

―最後に、御社の展望を聞かせてください。
弊社の事業面でいえば、伊東オフィスを拠点に事業規模を拡大していきたいですね。現在一緒にWEBシステム制作プロジェクトを動かしているチームの皆さんとタッグを組み、弊社もともに発展していけたらと思っています。

また、弊社では「 育休中インターン」も募集しています。
育休中の方は、復職に向けて大きな不安を抱えている方も少なくありません。「育児に時間を割かれ、働く時間が限られてしまう」「自分のワークスタイルを大きく変えなければならないかもしれない」など、復職に関する悩みは絶えません。
弊社の「育休中インターン」は、そのような方にスキルを活かして働いていただく制度です。興味がある方はぜひご連絡いただきたいですね。

取材・文/佐藤 優奈

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サテライトオフィスで働く森屋さんに聞きました!
1 静岡県の好きなグルメは?
わさびが好きですね。伊東市でわさびを食べて、初めてわさびが甘いことを知りました。
それから柑橘も美味しいですね。

2 静岡県でおすすめ or 行ってみたい 場所は?
地元の飲食店がおすすめですね。地域で採れた野菜を使って、お店のお母さんがていねいに作ってくれた料理が食べられます。本当に美味しくて、大好きなお店です。あまりおすすめしたくないけど、おすすめです(笑)

3 オフタイムの過ごし方は?
広い空と海を眺めて、ホッとしています。

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静岡県サテライトオフィス情報発信ライター・佐藤優奈(さとうゆうな)

プライベートと仕事の両立は、生きていく上で欠かせないものでもあります。
伊東市で充実した生活をされている森屋さんに、新たな地方くらしの可能性を感じました。

【佐藤優奈プロフィール】