大地震や大雨などの災害が報じられる度、防災の大切さを実感させられます。
「国土交通白書2022」によると、気候変動の影響で今世紀末には1日の降水量が200ミリ以上となる日や短時間強雨の発生頻度が2倍以上になると予測されています(比較対象は20世紀末)。そのような未来に先駆け、IT技術で防災に挑む企業があります。

「防災AI」は、IoTデバイスとAI技術を駆使した防災ソリューションを提供する会社です。
パク・ジョンドクさん(株式会社防災AI 代表取締役)は、2024年に防災AIを設立。現在は浜松市のサテライトオフィスを拠点に、袋井市で農業用水路の実証実験を行いながら、県内他地域での展開も視野に入れています。「将来的には県内にIoTロボット製造拠点を設け、産学官連携による防災エコシステムの構築を目指したい」と語るパク氏に、話を伺いました。

=会社概要==============
株式会社 防災AI
事業概要:防災ソリューションの開発
設⽴年⽉⽇:2024年7月1日

本社所在地:静岡県浜松市中央区鍛冶町124 6FD号室

インタビュー対象者紹介

▲パク・ジョンドクさん(株式会社防災AI 代表取締役)
▲パク・ジョンドクさん(株式会社防災AI 代表取締役)

地域の災害リスクをIoTデバイス&AIで予測する会社

―防災AIの事業概要を教えてください。
防災AIは、IoTデバイスとAIを活用し、災害対策やレジリエンス強化に取り組んでいます。わかりやすく言えば、衛星データやドローンの映像、AIの分析結果をもとに建物やトンネルなどの崩壊リスクを予測し、安全を守る仕事です。

―パクさんは、韓国のソテリア8で同様の事業を展開していると伺いました。
はい、私は韓国でもロボット開発企業の株式会社ソテリア8を経営しています。ソテリア8では、建築・建設会社のコンサルティング実績があります。

防災AIは、日本市場での事業拡大を目的に設立した別法人です。事業内容は同一ではありますが、政府機関との連携を密に深めながら、本格的に事業展開していくため日本でも別法人を立ち上げました。現在は3名の社員(プロジェクトマネージャー、安全調査担当者、ハードウェア担当者)とともに業務にあたっています。

人が入れない場所も探査可能。ロボットとAIを駆使し安全性を診断する「防災AI」

―防災AIでは具体的にどのようなサービスを提供していますか?
当社では、主に3つのソリューションを提供しています。
まずは探査ロボットの調査です。人が入ることが難しい場所(例:暗渠型トンネルや損傷が激しい建物の地下水道管など)に探査ロボットを送り込み、データを取得します。

次にAIによる分析です。現場で収集されたデータをAIが分析し、どこにどのようなリスクが隠されているのか自動的に判別・診断します。

最後は衛星データを活用した広域診断です。建物やトンネルなどの限られたエリアだけでなく、地域単位でのレジリエンス診断を行います。衛星データをAIで分析し、対象となる水路や建物などの異常を診断します。

これらのソリューションを通じて、今後B2G(企業と行政)、B2B(企業間)の両面でお客様との実績を増やしていく予定です。

―防災AIが日本で設立されたのはいつですか?
2024年7月1日に設立しました。ソテリア8設立の2年後ですね。日本は地震大国であることから、防災・災害対策市場の成熟度や本気度については韓国よりも積極的です。行政や自治体、また民間企業も高い防災意識に基づき、各種取り組みを展開しています。このような背景から、現在は日本に軸足を置き、事業拡大を図っています。

「家族や人々の人生に貢献できる、もっと意味のある仕事に携わりたい」

―防災関連の事業に携わろうと思ったきっかけは?
私は独立以前、コンサルティング会社に務めていました。そこで「2030年のトレンド」をテーマとしたマーケット調査をリードする機会がありました。いくつか調査テーマがあったうちのひとつが防災でした。気候変動により、大規模災害が発生する可能性は年々増しています。今後、人々の生活を脅かす災害リスクを低減するため、防災の重要性がより高まると実感しました。

また、私自身、コンサルタントとして様々なクライアントの新事業立ち上げや各種プロジェクトをサポートしてきた経験があったので、防災領域で自分の経験を活かせないかという考えもありました。

―災害関連の事業に民間企業が取り組むのは、ハードルが高いイメージもあります。
そうですね。防災はマネタイズも難しい、特殊な市場です。それでも今、防災に貢献したい理由のひとつに、私個人のある経験があります。

数年前、仕事が重なり、激務の日々が続きました。ある日、ついに倒れてしまい、救急車で搬送されそのまま入院しました。一時は命が危うい状況でしたが、なんとか持ち直し今に至ります。この経験を経て「今後の自分のキャリアで、家族や大勢の人々の人生に貢献できる、もっと意味のある仕事に携わりたい」という思いが強くなりました。

袋井市で農業用水路の実証実験を実施

―現在進行中のプロジェクトがあれば教えてください。
袋井市で農業用水路の実証実験を行っています。これに先立って、排水機場にある暗渠型トンネルでの実証実験も行いました。

―その他のプロジェクトはいかがですか?
今年は浜松市のトライアル制度に認定を受けており、浜松市で防災AIのソリューションを導入できるようになりました。
また、民間企業へのアプローチも進めています。エネルギー関連のインフラ企業とは、ガス管や水道管での実証実験と導入に向けて進行中です。その他に、保険会社や通信会社など様々な企業と商談が進んでいます。最近は、埼玉県で発生した地盤沈下事故の影響もあり、暗渠診断の需要が高まっていると感じますね。

―時には専門家の判断が必要なケースもあるのでは?
当社では、建築土木のプロフェッショナルである小久保優さん(小久保都市計画事務所 所長)にアドバイザーをお願いしています。静岡県在住で、土木関連の資格を6個以上持つ防災専門家です。過去に国内の大きなプロジェクトや委員会でも審査役を務めています。

小久保さんには実証実験の現場確認だけでなく、AI診断結果が正しいものか、安全に診断ができているかを検証していただいています。日本と海外では防災や安全に関する基準も異なります。そのため日本の安全基準に詳しい小久保さんに、適切なアドバイスをいただいています。

浜松にサテライトオフィスを開設

―サテライトオフィスを浜松に作ろうと思った理由や経緯について教えてください。
2024年7月に浜松オフィスを開設しました。袋井市との実証実験があったため、近郊に拠点を確保し、長期滞在する必要がありました。滞在に必要なスタートアップビザを浜松市からいただけることになったのが直接的なきっかけです。

また、静岡県内の各自治体との事業連携も進めたいと思っていたため、浜松市を拠点にするのが最適だと判断しました。

―スタートアップビザの取得についても教えていただけますか?
スタートアップビザを取得するには、様々な条件を満たす必要があります。また、「欲しい」と言ってもらえるものではなく、ビザを発行する各自治体の審査を通過しなければなりません。私の場合は浜松市が審査してくださり、無事に取得できました。
日本でビジネスを本格的に展開するためには、適法な在留資格であるビザの取得が必須です。スタートアップビザは、初期事業活動を行うためのビザとして有用な制度であるため、取得することになりました。

―サテライトオフィスの開業候補地として、他の選択肢もありましたか?
東京の他に、静岡と福岡で悩んでいました。拠点設立にあたっていくつか重要な要件がありました。まず、私が滞在するためのビザスポンサーを得る機会が必要でした。東京や福岡でもそうした制度はありましたが、日本での事業拡大という面から見ると、すでに実証実験の話が進んでいた静岡がベストだと考えました。

さらに、静岡県は支援制度も整っていましたし、行政の対応がとても親切でスピーディーでした。浜松市職員の方に、県内で創業/開業したい外国人に必要な情報を共有いただき、最終的に静岡県浜松市に決めました。

―現在のオフィスを選んだ理由は?
物件のオーナーさんからリーズナブルな家賃で提供していただけたことが大きいですね。
他の理由として大きいのは、アクセスの良さです。この物件は浜松駅からも近く、新幹線に乗れば首都圏と行き来しやすい距離なのも魅力でした。

―外国人として地方でサテライトオフィスを開業するにあたり、困難はありましたか?
日本で創業する立場の外国人として、賃貸契約時にはいろいろとハードルがありました。

最も難しかったのは、私の自宅住所の確保です。浜松市内では保証人や在留カードが必須で、居住用物件を借りるのが非常に難しい。私がとった方法は、まず名古屋に家を借り、その住所で在留カードを取得したのち、浜松市内の物件を借りました。

浜松市に私自身の住所がないと、市内・県内でいただける支援やオフィス確保にもハードルが上がってしまうので、それが最も難しいポイントでしたね。

―東京のオフィスとは、どのように使い分けていますか?
現在は浜松をベースに、出張で東京に行っています。仕事内容やミーティングの有無によりますが、浜松7割、東京3割くらいの割合です。社員3名とも、浜松と東京を行き来しながら仕事をしていますね。

―サテライトオフィスは社内の雰囲気づくりにも役立っていますか?
そうですね。浜松はアットホームで、「ただいま」の感覚がありますね(笑)。
雰囲気や周辺環境が穏やかで落ち着きます。浜松の食べ物はとても美味しいので、生活全体の質が上がりますね。

ICT・サービス関連企業進出事業費等補助金を活用

―サテライトオフィス開設にあたり、活用した補助金があれば教えてください。
静岡県の「ICT・サービス関連企業進出事業費等補助金」を活用しました。いただいた補助金は、浜松オフィスの家賃と通信費、人件費に充てています。特に人件費については、私自身が高度人材の対象者だったこともあり、私の分も補助していただけました。

―補助金申請にあたり、どのようなサポートがありましたか?
書類準備時や詳しい案内など、色々と力添えいただきましたね。外国人ということもあり、言語面で不安があったんです。しかし、 静岡県 職員の方は、申請時の書類記入など、とても丁寧にサポートしてくださいました。何度も対面で説明してくださり、記入間違いや修正点がないか、細かく確認していただきました。本当に感謝しています。

県内にIoTロボットの製造拠点を。静岡での長期ビジョン

―浜松市での人材採用は考えていますか?
将来的には、県内にIoTロボットの製造拠点を置きたいと考えています。その際は、ハードウェアやAIソフトウェア開発者を追加採用し、育成することを検討しています。

実証事業を進めるにあたり、静岡県内の日本人大学院生も一緒に参加しています。建築土木の専門知識を活かし、安全性調査の実施に協力してくれています。袋井市の実証実験に伴い人材が必要になった際、袋井市役所の職員に相談したところ、紹介を受けたのですが、今後も県内の大学生や大学院生とのインターンシップや採用を通じて、防災AIの成長を一緒に盛り上げていきたいと思います。袋井市の実証実験に伴い、人手が必要だったため、袋井市職員さんに相談したところ、紹介していただきました。

私は、防災関連事業を続けていくためのエコシステムを静岡県内に構築したいと思っています。そのためには、防災AIに関わってくれる人材が必要です。今後、県内の様々な企業や学校との連携も視野に入れています。私たちの最新技術や現場データ、ユースケースを若手人材に提供し、育成の基盤を築きたいですね。

―今後どのような事業展開を考えていますか?
袋井市での実績をベースにまずは浜松市と磐田市、そして静岡県全域の各自治体へとサービス領域を拡大していきたいです。

静岡県は国内でも特に雨が多く、水害発生リスクがある地域です。袋井市の実証実験で得たデータと当社の水に強いロボットを効果的に使えば、人が入れない危険な場所でも事前に診断できる。水害が起きそうな場所を把握し、適切な対策を講じることは、多くの人々の安全に直結します。皆さんの安全のために、コツコツと実績を増やしていきたいです。

―最後に、これからのビジョンを教えてください。
防災AIは、グローバル規模で社会問題の解決に貢献できる企業に成長したいと考えています。今後、災害の増加が予想される中、地域の防災は産学官連携で進めなければなりません。
皆さんと関わりを深めながら地域の安全を守るため、静岡県内で防災に関心がある企業や専門家の方と接点を増やしたいと考えています。当社のノウハウや技術を組み合わせ、人々が安全に暮らせる街を作りたいですね。

サテライトオフィスで働くパクさんに聞きました!

1 静岡県の好きなグルメは?
-普段はなかなか口にできませんが、袋井市のクラウンメロンがまず思い浮かびます。静岡TECH BEATの展示会に出展した際に、袋井市の方々が農園で収穫したばかりのクラウンメロンを差し入れてくださったのですが、それはもう、世界のどこでも味わえないほどの美味しさでした。
-日常的に好きな食べ物としては、浜松ラーメンと餃子が大好きです。濃厚なスープとトッピング、そして麺の食感が非常に印象的で、餃子はパリッと焼き上げられた皮と中の柔らかな餡が絶妙にマッチしており、本当に美味しいです。お店ごとに個性があって、食べ比べる楽しさもあります。

2 静岡県でおすすめ or 行ってみたい 場所は?
-御殿場市や伊豆半島のような場所で、富士山の雄大な姿を眺めながら温泉を楽しんでみたいです。
-静岡県の空港には、富士登山を目的に日本を訪れる外国人旅行者が本当にたくさんいます。
-私もいつか、富士山登山にぜひ挑戦してみたいと思っています。

3 オフタイムの過ごし方は?
-静かなカフェで本を読んだり、近くの温泉に行って疲れを癒すのが好きです。
-ときどきJR線に乗って、周辺の街をゆったり巡ることもあります。
-これからは、静岡の海や山をドライブしながら癒しの時間を過ごすことも考えています。
-三保の松原(みほのまつばら)を訪れてみるのも素敵だと思います。

ライターコメント

激務で倒れた経験から防災への転身を決意したパクさん。技術力と地域貢献への想いを兼ね備えた起業家の姿勢が印象的でした。